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コピーライター→映像製作会社ロボット→広告代理店ビデオプロモーション→再びコピーライター(フリーランス)。 メディアとコンテンツの未来を切り拓くコミュニケーションをデザインします。講演・執筆依頼もお気軽に!

テクノロジーとの融合をクライアントが求めてる〜メディア事変その13〜

これはほんの2年ほど前の話。まだコピーライターとして仕事をしていた頃にね。

ある商品の新聞広告制作の仕事をしてたの。その商品はお店でも売ってたけど、通販でも売ってた。新聞広告は、お店で売るための支援でもあり、通販につなげる役割も相当担っていた。通販は電話でも受付けるけどやっぱネットだよね、ってことでEC(Electric Commerce)サイトもある。新聞広告でもECサイトのアドレスを掲載していた。続きはウェブでの新聞広告版だね。

ECサイトにも商品を紹介する部分があった。ところがね、その部分はECサイトを構築しているネットワークソリューション会社がつくっていた。その会社から発注しているWEBデザイン会社がやってたわけ。当然、ぼくらが制作している新聞広告とデザインがぜーんぜんちがう。それはどうなの?って思うでしょ。

ぼくらは、ある広告代理店から依頼を受けて、グラフィックのデザイン会社とぼくとでチーム組んで仕事していた。あっちは、ECサイトのシステムを引受けている会社経由でWEB制作会社がつくってる。ついでに、クライアント側も、宣伝部が代理店に発注し、システム部門からネットワーク会社に発注している。上流から分かれてるから、ちがうもんになるのは当然だ。

ところが、消費者からすると、同じ商品をとりまくデザインワークが別々なの。新聞広告を見て、買おっかな、と思ってウェブサイトに行くと、あれ?なーんか新聞とイメージちがう、ってことになる。

ぼくらは、ECサイト側とデザインをなんとか共通化させようと四苦八苦したし、クライアントもそうしたい、と言ってたんだけど、とにかく上流からして分かれてるから、打合せのセッティングだけでも大騒ぎで、結局うまくいかなかった。

変でしょ?

おそらく、いまこんなことが、そこいら中の企業のコミュニケーション活動の中で起こってるわけだ。2年前のその仕事は、たまたま”EC”という広告とシステムのわかりやすい接点を持っていたので、いち早く体験できたけど、ECに限らず、あらゆるパートで広告とシステムがつながりはじめているんだ。つまり、クリエイティブとテクノロジーはいま、力を合わせないといけないんだよ。

ITによって、インターネットによって、システムと広告がつながってきた。ITはもう古いよ、ICTだよ、って言うでしょ。Information & Communication Technology!インフォメーションとコミュニケーションがテクノロジーだってわけだ。

なんか、すごいことになってきたんだよ!

クリエイターはテクノロジーと手を組め〜メディア事変その12〜

企業に対してソリューションを提案している人たちはすでにいる。ITテクノロジーを持つ人びとだ。彼らはいろんなルートでクライアントに一所懸命むかっている。WEBソリューション、システムソリューションetc。

一方、クリエイターはクライアントとどう接していたか。広告代理店経由で宣伝部と接していたよね。それでいま、マス広告を通じて消費者とつながっていたのと、ITソリューションによってつながっていたのと、企業にとって二つのルートがあった。そこがいま、つながらないといかんのね。早いクライアントはつながってきている。そこに、広告費のパラダイムシフトが起こり、このたびのメディア事変が勃興しているわけ。

ここにこれからの時代の大きなヒントがあるよ。大事なとこだよ。

宣伝部が使うマス広告費が減っているわけ。それがインターネットにシフトしているわけ。情報システム部とか広報部とか、インターネットを使うセクションを経由してね。

だからぼくたちは、ITソリューションを提案している会社と組むの。彼らもね、いまううむ、と悩みはじめている。どうも、自分たちの提案にはクリエイティブな要素が必要になっているぞ。だからWEBデザイナーを雇ったりしている。ところが、学校卒業していきなりWEBデザインだけをやって来た若者たちはコミュニケーションがあんまりわかってない。マス広告でコミュニケーションをやって来た広告クリエイターの方がそういうところは得意だ。

つながればいいんだ。

いろいろ動き回ってみるといい。IT関係の人たちはいま、クリエイティブなノウハウを求めているよ。ああ!そうですか、クリエイティブな人なんですか!これはちょうどいい。我々と一緒に提案しませんか。ここにこうね、素敵な要素が、心ときめく何かが、必要なんですよ!

いままで出会わなかった人たちと、出会ってみればいいの。そして、いままで接したことのなかった、宣伝部じゃないクライアント企業にプレゼンするの。

ほら、道が拓けてきたよ。

つまりね、いままでの企業の宣伝部⇒広告代理店⇒広告クリエイター、という流れがいま、大きく変わろうとしている。それがメディア事変の実態であり、その流れを理解しているかどうかで、広告クリエイターとしての生き方が変わる。

わかる?

ソリューションで経済価値を示せ〜メディア事変その11〜

クリエイターのみなさんは、当然”広告はモノを売るための仕組み”だってことは百も承知だったでしょう。

でも、ほんとにほんとに、そう思ってた?”モノを売る”ことを大事にしてたって言いきれる?

広告クリエイターはモノを売ることに本気になってなんかなかったんだよ。例えば、ある商品のキャンペーンを企画したとしよう。その作業に関わったクリエイターは、結局その商品の売上目標がいくらで、キャンペーンによってそれが達成できたか、なんて知ろうとしてこなかったでしょ。

いや、そもそも、クリエイターにそんな情報はつぶさに伝わらなかった。ぱぱーっと作業して、終わったら、また今度は次の仕事にとりかかってた。業界がそれを許していた。いいよ、クリエイターのみなさんは、そんな七面倒に関わらなくても。そんな空気が業界には漂っていた。

クリエイターも、商品が売れたかどうかより、いいCMができたかどうか、それが世間で話題になったかとか、賞をとれそうかなとか、仕事が終わるとそんなことばかり気にしていた。

そんな姿勢では、クライアント企業にクリエイターの価値を認めてもらえないのも仕方ないよね。だってクリエイターのセンセイは、常人には考えも及ばない”アイデア”を出してくださる御方で、よくわからないけどギャランティは広告代理店さんの方でなんとかしてくれる。そんな存在だもん。

”アイデア”ではなく”ソリューション”というコトバに変えると、クリエイターの姿勢も変わってくる。

クライアント企業が困っていることに対して、解決策を提示するわけ。売上を上げる、とか、認知度を上げる、とか、イメージを高める、とか。いや、もっと泥臭く、販売店に客を呼ぶ、とか、成約率を高める、とか、ユーザーデータを何十万件獲得する、とかさ。そういうクライアントのオーダーにコミュニケーションの仕組みを駆使してお応えできる。それが、”ソリューション”を出せるクリエイターなんだ。

なんでそんなことが求められたり、可能になったりしてきたのかは、もちろん、ネットがこうなったからだよね。

”アイデア”から”ソリューション”へ〜メディア事変その10〜

”メディア事変”と題して書き連ねている最中に、電通が決算を発表した。内容は、あまりよくない。そりゃそうだよ。マス広告費がはっきり減少をはじめて、昨年度はテレビ広告費も少しだけどはっきり減少をはじめた。メディアの売買をする広告代理店のトップがその余波を受けないはずはない。

ここで注目したいのが、その電通が発表した”今後の経営方針”と題するPDF書類。ここでその概略を見てみて。

読んだ?え?全部読むの大変?ああ全部じゃなくても、1ページ目と2ページ目、4ページ目あたりを読めば十分。

そこにね、キーワードとして”ソリューション”って出てくるでしょ。それそれ。大事なのはそのコトバ。

これからはね、ソリューションですぞ、ソリューション。

ぼくはこのPDFを見て”あっ”と声に出して驚いた。さすが電通だぜ。おそれいった。ちゃーんと、考えるべきこと考えてる。

ソリューションとは、パッと訳すと”解決”でしょ。これですよ。クリエイターはね、クライアントに”解決”を出してあげるわけ、これからは。そういうとらえ方で、業界内だけの価値を、経済界での価値に転換できる。

クリエイターって、”アイデア”を出す人、だったでしょ。”ひらめき!”みたいなね。”感性”で生み出す”アイデア”。これがクリエイターのやるべきことだった。

でもね。”アイデア”って、天才っぽいしアーティストっぽいけど、なんだか”思いつき”みたいでしょ。

”ソリューション”はコトバのポジションがずいぶんちがう。なんというか、もっとこう、奥が深い。背景がありそう。短期的じゃなさそう。経済の裏打ちがありそう。

コトバの印象だけでも、かなりちがう。そういうことが、すごく大事なんだと思うよ。

え?”アイデア”を出してるつもりはなかった?”ソリューション”って言われりゃ、いままでだって”ソリューション”を出してたよ、って?

そうかもしれない。本質的に”アイデア”と”ソリューション”は変わらないのかもしれない。

そうだよ、変わらないよ。だから、大丈夫だって言いたい。いままで業界内で”アイデア”を出してごはんを食べてたあなたなら、”ソリューション”を出せるよ、と言いたい。これがひとつの一面。

でも一方で、いや”アイデア”と”ソリューション”は似てるけどずいぶんちがうよ、とも言いたい。そこはあなたもどこか脳みそを変えた方がいい。

んー、じゃあ”アイデア”と”ソリューション”はどこが同じで、どこがちがうのか。・・・だんだん、考えを深めてみよう。

クリエイターの価値を社会に認めさせよう〜メディア事変その9〜

結局ね、広告にお金を出すクライアント企業は、ひいては世の中は、広告の価値=メディアの価値、と思ってたってことなんだ。そう思ってたし、広告業界もそれでいいのよ、って思ってた。クリエイターはそういう大きなおカネの流れの中で”おれはすごいだろ!”って勘違いしてたに過ぎないの。

ぼくはフリーランスでコピーを書く仕事を前はやっていた。立場上、クライアントの担当者とも話す機会は多かった。滅多にギャラの話は出なかったけど、たまに聞かれて「ぼくはこのCMのコピーを書いて100万円のギャラですよ」と言うと、みなさんびっくりしたり中には不快そうな顔をする人までいた。ぼくの”100万円”は広告業界の中で通用していたけど、大袈裟に言うと社会は納得してくれてなかったんだ。

コピーライターだからとくに、ってとこもあるだろう。なーんか思いついたこと紙に書いてきて100万円かよ、おれの給料の○倍かよってね。ちゃらい仕事に見えてただろうから。

まあコピーライターが簡単そうに見えることを差引いても、クリエイターの価値は正式には認められてなかったも同然。ゴールデンタイムのテレビCM枠15秒がうん百万するのはしかたないけど、クリエイターにうん百万は納得いかない。そんな風に見えてたと思う。

クリエイターも、そういう広告業界だけで流通した価値基準に甘えていられた。でも、(ここからがポイント!)もうそんな甘えは通用しなくなるんだ。だって、広告費の中心がテレビ広告費じゃなくなってくるから。

わかる?あれ、わかんない?

いい?なんでコピーライターの1行が百万円とかでオッケーだったか。クライアント企業が代理店に払う数億円がすべての基準になってたわけ。数億円の大半をメディア費に使っていた。1割ぐらいの数千万を制作費に割いていた。その中の百万円なんて、どうってことない。ようするに、そんなことでしかなかったの。

テレビ広告費中心じゃなくなるってことは、もっと費用が細分化されてくる。すると、ひとつひとつのコストの明細と効果が求められる。そんな中、”おれのコピーはなんとなく100万円なんだよ”って言っても、”いやそんなんじゃ払えない。なんで100万円なのか子細に説明してくださいよ”となるわけだ。

なんでぼくのコピーは100万円とれたか。・・・説明できっこないよね・・・そこを、説明できないといけなくなるんだ。どうする?

広告制作業は限界があった〜メディア事変その8〜

広告業とはメディア費だ、結局、と書いたね。そうすると、クリエイターがいる”広告制作”とはどんな事業か、ということも考えたくなる。あれならない?なってよ〜。なったとして、話を進めるよ。

広告制作とはバジェットのビジネスだった。前回書いたように、例えばクライアント企業がある商品に5億円使います、ってことになると、その1割が制作費だった。その大半、例えば3000万ぐらいをテレビCMに使おうね、となったとしよう。

なったとしよう、というか、そんな順番で制作費が決まるわけ。大まかに言っちゃうとね。少なくとも、4000万をポスター制作に使おう、とはならないの。だって5億円の9割つまり4億5千万円を媒体に使うわけでしょ。そしてその大半が、例えば3億5千万円ぐらいがテレビCMの媒体費に使われる。そうすると、制作費も大半をCM制作費に使いたくなる。人間そんなもんだよ。

3000万円、とかのCM制作費の枠があらかじめ決まっちゃうの。そこでどんな企画出しても3000万円の枠は変わらない。アラスカに1カ月ロケする企画出しても、だったら7000万円出しましょう、とはならない。

そこにね、広告制作業の安定感もあったけど、限界もあったわけ。先に枠が決まっちゃうの。3000万という売上は、その仕事を獲得した瞬間に約束される。そういう仕事を3つ、4つと獲得すれば億単位の売上にはできる。

でも、どうやったって、何かのはずみとかでひとつの仕事が10億円とか100億円になったりはしない。「ヒットCM」といういい方を時折目にするけど、どんな大ヒットCMをつくっても、最初に決まった3000万円より売上は増えない。

広告制作全体を請負うプロダクションにしろ、その仕事で企画に関わるクリエイターにしろ、3000万円の枠は絶対に越えられないわけ。

同じクリエイターでも、例えばゲームクリエイターだと、ちょっと話はちがうかもしれない。自分が制作したゲームが大ヒットしたら、契約次第で10億円の売上をもたらす可能性はある。でも広告制作業にはもともとのビジネスモデルとして、そんな可能性はないわけ。

だから、とてつもない才能を持つクリエイターが登場して、一代にして巨大企業をつくりあげる、なーんてことは起こりえないの。

そういう、限界枠が、広告制作という業態にはあからさまに存在するのよ。

あれ、なんだか哀しくなってきた?まあ、そこをどうとらえるかは、人それぞれだよねー。

広告費とはメディア費だった〜メディア事変その7〜

さてクリエイターはこれからどうすればいいのか。そこ行く前に、もう少し広告費の実態を掘り下げようと思う。別にじらしてんじゃないよ。そこに、きっと次へのヒントがあるからさ。

広告代理店という業態があるよね。80年代から時代の花形業種になってきて、いまだに学生の就職志望の一翼を担っている。なんだかね、派手でカッコいいよね。

で、その広告代理店の”代理”ってのは何を”代理”していたのか。建前上はね、広告展開のすべてを”代理”してやっていた、とも言える。マーケティングからクリエイティブから何から何まで。でも実態はね、メディアバイイングの”代理”だったんだ。

テレビ広告でも雑誌広告でも、ある媒体を扱う権利みたいなものがあってね。これ、どんな会社でも扱えるかって言うとそうじゃない。だからって政府から許認可を受けてるわけでもない。でも誰かが突然広告代理店を起こして、翌日からテレビ朝日のCM枠を扱えるかって言うと、扱えない。じゃあ何が条件かって言うと、曖昧。

先進的で華やかな業種だけど、そういう、きわめて日本的な特定人間関係業態なんだ。

そして、メディアを取り扱い、そこでいわゆるマージンを取って利益を得ていた。これが90年代までは15%〜20%ぐらいの利益を、純粋なメディアコストにのせていた。これが高いのか安いのか、まあでも商売として成立させるにはそれくらい必要だったんだろうね。ところが最近はもっとマージンが低いらしい。一桁パーセント台になってきたらしい。

とにかく、一時期は15%くらいとれていた利益。ここで建前上の”広告代理”のすべてをまかなっていた。つまり、媒体費以外は、媒体費で商売するためのサービスだった。ほとんど。例えばちょっと調査やってね、ってのも、それはそれで原価がかかるはずだけど、サービスでやっちゃったりしていた。ホントは、調査やるとけっこうなコストかかるから、それは別途請求した方がいいのだろうけど、そんな”わがまま”を言って媒体費を別の代理店にもってかれるより、サービスしちゃいます!ってことで媒体扱いを守ってきた。

媒体利益が”すべて”だったの。社内のクリエイターやマーケティングの人件費も、媒体費から出していた。社内の人材で足りなくて、外の優秀なクリエイターやマーケッターに外注しても、営業さんが媒体費からやりくりした。最近では、なるべく別途請求しようね、となってきたけど。だって媒体マージンが減ってきたからね。でもいまだに、持ち出しでまかなわないといけない、そんなムードが、クライアントと代理店の間には漂っているの。

それくらい、広告業界にとって媒体費が大きかったってことだね。

そしてぼくが言ってる”メディア事変”の中身は、広告業界が”媒体費がすべて”じゃなくなりつつある、ってことなんだ。

これはほんとうに”事変”だ。一大事だ。パラダイムシフトだ。コペルニクス的転換だ。

たぶん、いまから五年間くらいの間に、そういう”業界”で大激変が起こると思う。広告業界も、テレビ関係も、新聞や雑誌なんかも、大きく中身が変わっていくだろう。

クリエイターの未来も、そういう大きな変化の中で考えてみないと、いかんわけ。

クリエイターはメディアのオマケだった〜メディア事変その6〜

どうやらいままでのテレビ広告一辺倒の広告のやり方は20世紀的なもので、それがいま変態しようとしていることがわかってきたね。

では問題は、クリエイターはどうすりゃいいのさ、ってことだ。もちろん、そんなことはまだわかんないよ、具体的には。

ただ、大まかなコンセプトだけははっきりしてきた。そこを考えるにはまず、20世紀的なクリエイターとはどんな存在だったかということだ。それはようするに、メディアのために存在していた、そこに考えるヒントがあるね。

そうなんだぜ。クリエイターとかなんとなくカッコよくいい感じで自分のアイデンティティを表明してきたけど、クリエイターはしょせん、メディアのためにクリエイトしてきたんだ。広告の枠組みでもっと言うと、広告を打ちたいクライアントに売られていたのはクリエイティブの中身ではなかった。メディア費だったんだ。

例えば広告費を5億円使う商品があったとする。5億円って大した金額だよね。そしてその内訳は、9割がメディア費だった。そして残りが、それぞれのメディアで流すコンテンツ制作費だった。これね、決まってたんだよほとんど。すごいコンテンツを流すから5億円のうち3億円を制作費に使おう、なんてことはなかったの。

超一流クリエイターを起用するから、彼の制作物に6割払おう、なんてことはまったくと言っていいほどなかった。99%くらいのケースで、9割がメディア費だったの。

なんでかって?そういう商業慣習ができたから。それだけ。あるいは、それが結局は合理的だね、ってことに落ち着いたから、ってことかもしれない。

”制作費は1割”にはあまり根拠もなかったんだと思う。”だいたいそんな感じでいいんじゃないすか”ってことだったわけ。

だって超一流クリエイターはものすごく高いギャランティをとってるんじゃないの?そう思うかもしれない。もちろん、一流は高いよ。でも、二流三流だと30万円のギャラの仕事に超一流だからって10倍の300万円払ったって、総額の5億円からするとたかが知れてるでしょ。制作費をやりくりすればなんとかならないでもないでもない。そんな金額だよ。

ね、しょせんクリエイターの価値なんて、メディア費と比べるとそんな程度だったの。

クリエイターはメディアを売る時のオマケだった。ほんとうにね、そうだったんだぜ。どう思う?20世紀型だとね。じゃあ21世紀型はどうなるのか。そこからが本題だね。でも、それはまた次回。

テレビ広告は20世紀的だった?〜メディア事変その5〜

マス広告費が減ってきた。インターネット広告費が伸びてきた。たったこれだけの話をずいぶんもったいぶって長々と書いてきちゃったかな。

インターネット広告費は販促費をとりこんで急成長してきた。2000年以降は少しずつ新聞雑誌媒体の広告費も侵してきた。そして2007年はいよいよ、テレビ広告費に影響を与えはじめた。

ネットがなぜテレビを侵食しはじめたのか。もちろん、そこには通信インフラの発達で動画がネットでも見られるようになったことが大きいだろう。販促活動にせよ、新聞雑誌にせよ、基本的には印刷物だ。印刷媒体の代価にネットが使われるようになった。それがここへ来て、動画の代価にもなりはじめた。

でもね。それだけじゃないと思うんだよ。この2000年代に入って、大きなパラダイムシフトがいろんなところで起きている。でっかい視野でみると、その表れだとも言える。

テレビは20世紀型の産業に合っていた。20世紀型の産業とはつまり工業。新しい技術を使った製品を工場に設備投資して大量に生産し、大量に売る。その時、短期間で国中の人に一度に製品について告知する必要があった。その事業モデルにテレビはぴったりだった。

21世紀に入り、そういった事業モデルがあまり儲からなくなってきた。いまや、家電と自動車とビールくらいかな。しかも、この3つの分野の事業も、前みたいに新製品が出たら大量に売れる、ってわけでもなくなってきた。

むしろ、もっと絞ったターゲットに売る方が大事になってきた。そういう売り方に、ネットは合っている感じなんだ。”感じ”と書いたのは、大まかにはそうなんだけど、まだまだ決定的な手法が確立されていないから。ほらネットでこうすれば、こういう人たちに売れるでしょ、と明確には言えない。でもネットならそんなことができるのは大きな方向としてははっきりしている。だから”感じ”だと。

例えば自動車を売る時、前はとにかくテレビ広告費に予算をつぎ込み、あとは新聞公告や雑誌広告や店頭の販促物などに予算を振っていけばよかった。それでほんとうに売れた。

でもいまはかなりちがう。テレビ広告費を少しネットに回した方がいい。そして狙うターゲットにテレビでは伝わらない情報を届けて、ついでに近くの販売店を検索させる。そんな公式が少しずつできつつある。

世の中は、コスト効率で変化する。考えてみればしごく単純な構図だね。

でも、そのコスト効率が、メディア事変を引き起こそうとしている。それによって、クリエイティブに関わる人びとの仕事が大きく変わろうとしている。・・・どう変わるのかな?ってところで、また来週・・・

マス広告費を侵すインターネット〜メディア事変その4〜

さて、インターネット広告費の話。

いま、何が起こっているかというと、いよいよインターネットがテレビ広告費を侵しはじめたってことなんだ。

前回見てもらったように、まだ統計数字には表れていないけど、テレビ局の経営数字の形でテレビ広告費の減少が顕著になってきた。それはインターネット広告費の成長によるんだ。

左のグラフをクリックしてみて。

これは広告制作費の推移の中にインターネット広告費とその制作費を並べてみたもの。

青い線のマス広告制作費とは、マス4媒体(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)広告費の中で制作に使われた金額。その中のテレビつまりCM制作費だけを抜き出した数字が赤い線。マス広告費全体は3兆9千億が3兆5千億に減ったと前に書いたでしょ。テレビは2兆円前後で増えたり減ったりしていた。制作費はおおよそその1割、つまりマス4媒体制作費は3000億円台、CM制作費は2000億円前後でウロウロしている。制作費は広告費全体の1割。これがいままでの業界の常識だった。

そこにインターネット広告費が急増している。この10年でほぼゼロから4500億円に大化けしているわけ。ここで言うインターネット広告費には制作費は入っていない。制作費は別に切り出して紫の線になっている。2007年は1400億円だったらしい。電通の発表数字が、突然2005年からネットの制作費をカウントしているので、突然登場したみたいになっている。

さてここで注意して欲しいのが、インターネット広告費の急な傾斜はマス広告費ダウンの傾斜とかなりちがう点。というか、このグラフは制作費なので、ダウンさえしていないね。

これまでのインターネット広告費は、露骨にマス広告費を食ってきたわけではない、ってことなんだ。

じゃあこのインターネット広告費の成長は何を基盤にしているのかって?販促費だよ。販促?販促と広告って何が違うの?ってみんな思うかもね。

販促って言うのは、わかりやすく言うと、チラシだ。それだけじゃないんだけどね。でも簡単に言うとインターネット広告費はチラシを食って伸びてきた。だっていまや、小さな商店だって自分のホームページを持ってるでしょ。いままでチラシを一所懸命につくってたのが、そこまでやらなくてよくなった。インターネットのおかげでね。

具体的には、印刷会社の領域を侵してきた。それから小さなデザイン会社もダメージ負ってたかも。

ああ、なんだか全然ネットとテレビの広告費の関係にたどり着かないね。でも今日はここまで。眠いからさ。

テレビ広告費いよいよ減少へ〜メディア事変その3〜

さて、で、いよいよテレビ広告費の話。

前回見たように、広告費、とくにマス広告費は2000年をピークにはっきり減少している。ではテレビ広告費は?

電通発表のデータによると、2000年が確かにピークで2兆793億円。2003年には1兆9480億円に、ほら、はっきり下がってる。そして翌2004年には2兆436億円に・・・あれまた増えてる?で、結局2007年は2兆円を少し切った程度。ピークから減ってはいるけど、なんだそうでもないのかな?例えば新聞広告費は2000年の1兆2474億円から2007年の9986億円へと泣きそうなくらい減っているのに比べると、なーんだ、大したことないじゃない。

いやいや、ところが、2007年はやっぱり、テレビ広告費がはっきり減少したターニングポイントみたいなんだ。これは民放キー局各局の経営数字に現れている。

まだ07年度の決算数字は出ていないから最終的にどうなったかはわからないけど、第3四半期の決算短信に通期予測が出ている。それぞれの通期営業利益予測が前年比で25%〜47%の減少となっている。どの局も一様に”スポット広告費が減少した”と報告している。スポット広告とは、番組と番組の間の時間に流れる広告枠のこと。番組提供枠はタイム枠と呼ばれてだいたいスポンサーは固定しているので、短期的に(例えば新商品発売時とか)たくさんCMを流したい企業はこのスポット枠を買う。スポット枠が売れないと局の収益にもろに影響が出るわけ。

新聞や雑誌は買わないと読めない、つまり販売収入があった上で広告収入でも儲ける。それに比べるとテレビ放送事業は広告費がほとんどの収入源だから、実は広告費が減少するとすごくしんどいわけだ。

テレビ広告費はいままでも減ったことはある。そもそも不況の影響は受けるからね。90年代後半の金融大不況では各局が戦々恐々としていた。だから、また持ち直すかもよ?いやいや、今回は、いままでと本質的に違うんだ。

テレビ広告費が、いよいよ本気でインターネットに食われはじめたんだ、2007年は。だから大事件なの。

となると、インターネット広告費はどうなってるかも気になってくるでしょ?それはまた次回ね。

成長が止まった広告費〜メディア事変その2〜

クリエイティブ企業改革と題するブログでなぜメディアについて書くかというと、事業としてのクリエイティブはメディアと一体になってきたからだよね。わかってるよね。

さて、クリエイティブ業界にはけっこう誤解している人が多い。「おれにはバブル崩壊は関係なかった。どんな不況も乗り越えるクリエイティブ力があるからさ」あ、それ、まちがってます。こと広告クリエイティブにおいてはね。

日本の広告費はバブル崩壊後も成長してきたんだよ。

85年に3兆5千億だった広告費はバブル絶頂の90年に5兆5千億に至った。たしかにバブルだね。バブル後の93年には5兆1千億にまで落ち込んだ。うん、バブルがはじけたんだね。でもそもそも、広告費自体があんまり減ってないでしょ。

そのあと97年には6兆円弱にまで上がり98年には金融大不況の影響か少し落ちたけど、2000年には6兆1千億にまでなった。

ようするにね、なんだかんだ言ってバブル後も成長してきたんだよ広告業界は。だからさっきの人はクリエイティブ力もあったのだろうけど、そもそも業界全体がふくらんでいってたからね。不況をクリエイティブ力で乗り越えた、ってわけではないんだね。

そしてね、この2000年はピークだったんだ。広告業界というひとつの業界がすでにピークを過ぎているの。2000年以降は、じわじわと、でもはっきりと、下降線をたどっている。もう、6兆円を越えることはない。

もっとも、この数字は電通が発表しているもので、今年の発表から広告費の定義を変えちゃったから、わかんなくなったんだけどね。でもまちがいない。広告業界は2000年がピークだった。

ここで言う広告費の重要な部分を占めているのがマス4媒体つまりテレビ・新聞・雑誌・ラジオ広告費。この4媒体費に絞り込むと、ピークの2000年に3兆9千億円だったのが、06年には3兆5千億にまで落ち込んでいる。ほぼ1割減ったわけだね。

市場規模が1割なんて減るのはすごい異変だ。大事件だ。

大事件が起こっているんだ、広告業界では。

そんなスケールで考えていくとね、いろいろ見えてくる、気がする。気がするだけかもしれないけどね・・・