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テレビはもう一度おっぱいを映しだせるか?〜エンタメはテレビとネットで交錯する〜

(タイトルに「おっぱい」だなんて入ってて、せっかくぼくの記事を読むようになった若いお母さんたちに嫌われるんじゃないかと心配なんだけど、きわめて真面目な内容なのですぞ。・・・うーん、いや、あんまり真面目でもないかな?)

先週、5月30日にブライトコーブという会社のカンファレンスがあって参加していた。

同社はネットで動画配信するためのシステムを提供する米国が本国の会社で、グローバルではこの分野のトップ企業だ。クラウド上で動画を簡単に管理できる最先端のシステム。ネット動画の成長が見込まれる日本でも、これから注目されることだろう。
BCplay2014
そのカンファレンスは「ブライトコーブPLAY」のタイトルでニューヨーク、ロンドン、シドニーで行われていたのが今年は日本でも開催されることになった。丸一日セッションが展開され、ぼくはその一部の企画のお手伝いをした。

詳しくはこのサイトで概要を見てもらえばわかる。(→ブライトコーブPLAY2014)例えばハフィントンポストの松浦編集長と、何かと話題の東洋経済オンライン佐々木編集長のディスカッションを日経BPの柳瀬博一氏がモデレーションする、というセッションもあった。クロージングは各テレビ局の動画配信担当者が一堂に会する贅沢な時間となった。

ぼくが企画した中で「エンタメはテレビとネットで交錯する」のタイトルでテレビ制作者がネット動画について語るものがあった。お呼びしたのは三人。日本テレビの電波少年T部長こと土屋敏男さん、テレビ東京で「モヤさま」を制作する伊藤隆行さん、そしてフジテレビ+(プラス)という動画枠で「世界一即戦力な男」を制作したフジテレビの俊英・狩野雄太さん。それぞれ何らかネット動画に関わっており、奇しくも30代、40代、50代の三世代のテレビマンによるディスカッションとなった。

土屋さんがネット動画黎明期(2005年!)に「第2日本テレビ」をプロデュースしたのはみんな知っているだろう。有料課金で動画ビジネスに挑んだり、広告モデルでもやってみたりと当時考えられるあらゆるアプローチを試したのが”第2日テレ”。それから、間寛平が地球を一周したアースマラソンも土屋さんのプロデュースだ。スポンサーもたくさんついてネット動画(動画だけでもないわけだが)の成功モデルとなった。

伊藤さんの「モヤさま」はネットでスピンオフ映像を配信し24時間で50万回再生された。この経験をもとにテレビ東京はちょうどこの5月30日に「テレ東プレイ」という動画サイトを立上げた。放送されたものではなく、オリジナル番組を配信するサイトで、広告をつけている。ビジネス化を狙った動きだ。

フジテレビの狩野さんが取り組んでいる「フジテレビ+(プラス)」は今年1月にスタートしたサイトで、ネットでオリジナル番組を配信している。こちらも独自に広告をつけており「テレ東プレイ」と近いビジネスモデルだ。「世界一即戦力な男」は実際にそのスローガンで就職活動をした菊池青年の活動をドラマ化したもの。ネットらしい企画を、ネットらしい切り口で制作している。

さてテレビ東京の「テレ東プレイ」は立ち上がったばかりで、最初は「TVチャンピオン」と「ギルガメッシュWEB」を流している。この「ギルガメッシュWEB」とは、90年代に放送された伝説の深夜番組「ギルガメッシュないと」をネット上で復活させたものだ。この番組、若い人は知らないだろうが「ギルガメ」と呼ばれある種、一世を風靡した。何で一世を風靡したかと言えば「エロ」だ。飯島愛をはじめAV女優が出演し、時折あられもない姿を披露していた。

そうなのだ。90年代は深夜番組に”おっぱい”が出ていたのだ。

さて、土屋さんはかねがねこの”おっぱい問題”について疑問を投げかけている。

「ぼくがこのところ気になっているのは”テレビはいつからおっぱいを出さなくなったか”ってことなんですよ」

お会いするたびにそうおっしゃる。

このセッションでも当然のようにその話になっていった。

「注目したいのは、ギルガメッシュWEBではおっぱいを映すのか、ですね。いや、おっぱいを出さないといけないんじゃないかなあ」とんでもないけど、興味深いことをおっしゃる。

立派な企業が主催するきわめてまっとうなカンファレンスの場で、いったい何を言っているのかと思うかもしれないが、これは表現についての重大な話なのだ。いやちがうかな?100%の確信は持てないけど、たぶんそうなのだ。

土屋さんは言う。「昔は深夜におっぱいがけっこう出てたんですよ。でもいつの間にか出せないことになっていた。それがいつからなのか。たぶん誰か最初に言ったやつがいるんですよ。”おい、おっぱい出しちゃまずいんじゃないか”って。そこから各局各番組に広がって気がつくと、どの局でもおっぱいは出さないことになっちゃったんです。犯人は誰なのか、知らなくてはいけません」最初に”おっぱい禁止”にした人間が”犯人”なのだと言う。

もちろん、”おっぱい”は”表現を制限するコード”の象徴として言っているのだ。

テレビはそもそも、実はかなり猥雑な存在だった。テレビばかり見てると頭が悪くなると言われ、大宅壮一という評論家が「一億総白痴化」と、これはこれでいまだと問題になりそうな言い方で批判した。

「11PM」について年配男性に話を向けてみるとおそらく必ず「ああ、子どもの頃ふすまを細くあけて隠れ見てたもんだよ」と遠くを見つめながら語るだろう。この伝説の大人男性向け夜のワイドショーでは、”うさぎちゃん”と呼ばれた女性レポーターが温泉を巡るコーナーがあり、その、見えていたのだ。”おっぱい”が。

あるいは「時間ですよ」という銭湯を舞台にしたホームドラマがあり、ここでも時折見えていた。見せちゃっていた。

そして「ギルガメ」。これはもう、かなり積極的に見せていた。”そういう”番組だった。

それがいつから見せなくなったのか。見せてはいけないことになったのか。

テレビは大宅先生に叱られながらも猥雑に歩んできた。”おっぱい”だけでなく、80年代から90年代のテレビはいま思い返すとやんちゃどころではなかった。むちゃくちゃしていた。そしてその度にもちろん、世間様からおしかりの言葉を受けていた。ごめんなさい、すみません。と謝りながらやんちゃするのがテレビだった。

90年代後半から、やんちゃもやってられなくなった。これはなぜだろう。世の中全体の空気が許さなくなったのだろうか。”おっぱい”も誰かが「もうやめとこうぜ」と言ったのだろうし、あれやこれやのむちゃくちゃも、少しずつ誰かが自制をかけたりお叱りの電話がかかってきたりしてしぼんでいったのだろう。

そしていつの間にか、世間様からお叱りを受けていたテレビそのものが世間様そのものになっていった。テレビばかり見てると馬鹿になるなんてもう誰も言わない。いまはむしろ、テレビを見ない若者は、世の中の動きが掴めていないんじゃないかと危惧する人もいるほどだ。

そんな馬鹿みたいなことしなきゃ番組作れないの?おっぱい出さなきゃ面白くできないって言うの?いやそうじゃない。そうじゃないけど、そうなんだ。表現には自由の枠があり、その枠の中で番組を作らないといけない。でも”面白い”ということには、あらかじめ規定された”枠”の境界線を綱渡りのように走り抜ける、という要素がたぶんにある。表現する内容と言うより、ギリギリに挑んでいくその様こそが表現であり、ぼくたちに興奮を、この場合の興奮はおっぱいとは関係ない方向の興奮なのだけど、もたらすのだ。「やべー!」と言いたくなるきわどさ、こんなテレビってなかったよなー、という類いの興奮が一昔前は確かにあり、表現はそうやって進んできた。表現の枠も広げてきた。

でもテレビは表現の枠をこの十年以上の間に広げるどころか狭めてしまった。”おっぱい”はその象徴なのだ。土屋さんがあえて”おっぱい問題”を提議するのもそういうことなのだと思う。実際におっぱいを出すべきだと言ってるわけではないはずだ。

「ギルガメッシュWEB」におっぱいを期待するなあ、と土屋さんが言うのはだから、ネット動画には新しい表現の枠組みがあるのではないか、という問いかけだ。あるいは枠組みができてないならそこで何ができるかを一から試そうよという、作り手としての意気込みだろう。ほんとうに”おっぱい”を出してよ、という意味ではなく、ネットでやるならそれくらい自由な場として番組を作るといいね!という大先輩からのエールなのだ。

おっぱいの話でほとんどセッションが進んだ。そしたら最後にテレビ東京の伊藤Pが「よし!ギルガメWEBで、おっぱい出します!」と宣言しちゃっていた。伊藤さん、大丈夫?・・・いや、そうじゃないか。これは土屋さんから伊藤さんへのエールへの返答なのだ。”がんばります”という宣言だ。おっぱいを出す!くらいの意気込みでネットならではの面白さをめざしますよ!伊藤さんは電波少年を大いにリスペクトしているので、大先輩からのエールに応えた、ということだろう。

テレ東プレイは伊藤さんが監修的に関わっている。フジテレビプラスでは狩野さんのような世代がメインで制作している。若いテレビマンが、テレビのノウハウを生かしつつも、未知の表現領域に足を踏みだしている。きっとギリギリへの挑戦をしていくのだろうし、ビジネス化のための悩みもどんどん出てくるだろう。テレビマンがそれをどう乗り越えて新しい表現を構築できるか。テレビじゃないけどテレビって面白いなあ。そう思わせてくれるように、テレビマンのネット動画には期待したい。

そんな素晴らしいセッションになってほんとうによかった、土屋さんのおかげだなあと思っていたら、Facebookにこんな写真とコメントを投稿していた。

tsuchiya

六本木でたそがれて自分を振り返ってる投稿を見ると、土屋さんはやっぱり、大勢の前で”おっぱい”と野放図に言いたかっただけなのかもしれないと思えてきた。いや、つまりそれが表現者のサガなのだということでもあるけど・・・

コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント
境 治
What can I do for you?
sakaiosamu62@gmail.com
@sakaiosamu

ソーシャルテレビは死んだのか?(あるいは次の段階に向かっているのか?)

(今回の記事は”ソーシャルテレビ”と言われて「は?それナニ?」という方にはあんまり面白くないと思うのでそのつもりで。でも読んでたら面白くなるかもしれないけど)
socialtv2
『白ゆき姫殺人事件』という映画が公開されていて、面白く観た。地方都市で起こった殺人事件について、テレビとソーシャルメディアが呼応しながら情報が錯綜する。twitterで盛り上がればテレビがとりあげ、それがまたtwitterで増幅していく。フィクションだが、すでに現実はこうなっているのだと思う。

ソーシャルテレビとは、この映画が描いたようなコミュニケーションの呼応を捉えた概念だ。そしてそこには、テレビとネットが融合する接点が見えている。映画のように、事件の噂を暴走させる負の側面もあるが、テレビとそれにまつわるコミュニケーションをもっと楽しくする可能性も秘めている。

ぼくはこのソーシャルテレビに、メディアとコンテンツの次の姿が見えるのではと思い、“ソーシャルテレビ推進会議”という勉強会を運営している。いまの自分にとってもっとも注力している活動だ。

そのソーシャルテレビに関して先週、ショッキングな記事が出現した。

野村総研の山崎英夫さんはメディア論界隈で尊敬する論者の一人だ。SocialNetworking.jpというブログで、海外のメディア関連の記事を紹介している。先週、こんな見出しで記事を書いておられた。

ソーシャルテレビアプリサービスの整理淘汰の中でZeebox がBeamlyにブランド名称を変更、勝ったのはツイッター!!

な、なんと!このzeeboxとは、昨年11月にソーシャルテレビ推進会議主催でカンファレンスを開催した際、英国からそのCTOであるアンソニー・ローズ氏を招いた会社だ。

テレビを見ながら使ういわゆるセカンドスクリーンアプリとしてもっとも成功していると言われるzooboxが名称をBeamlyに変更したというのだから、何かうまくいかなくなったのか?とやきもきしてしまう。山崎さんが引用した元の2つの英文記事を辞書を引き引き頑張って読むと、zeeboxの話は意外にカンタンに名称の変更を伝えてるだけで、別に危うくなったということでもないとわかる。でももうひとつの「Let’s face it: social TV is dead(直訳すると「直視せよ:ソーシャルテレビは死んだ」となる)」には長々と、ソーシャルテレビアプリはことごとくうまくいってなくて再編の波がやって来ていると語っている。これは気になるなあ。

いろんなTVappsが登場したけど、結局はみんなTwitterやFacebookを使うのだとか。だから「勝ったのはツイッター!」ということなのだろう。

zeeboxの記事は他にもいくつか出ていて、名前を変えたひとつのポイントは、”zeebox”だと男性のギークっぽいのが問題だったということのようだ。ドイツ製のXboxみたいなもの?と誤解されたりしたとか。女性が増えてきたしもっと一般性のあるアプリにしたかった。そこでBeamlyに名前を変えたそうだ。

zeeboxがBeamlyに名称変更したことについての記事は他にもいくつか出ている。

TV App Zeebox Changes Its Name to Beamly, and Hopes to Grow by Getting More Social

Social TV app Zeebox relaunches as Beamly to lose ‘male geeky’ image

Zeebox Becomes Beamly to Focus on Social TV

これらを拙い英語力で頑張って読んでいくと、zeeboxが次の段階に入ったことがわかる。”Getting More Social”あるいは”Focus on Social TV”と見出しにあるようにソーシャル色を強めたアプリになったということだ。またそれによってか、その前からか、より若い層(16-24才)の女性ユーザーが中心にシフトしてきた。

ソーシャル色を強めた、というのは、具体的には「テレビ番組をフォローする」あるいは「出演者をフォローする」「他のユーザーをフォローする」ことを促す。そして(これはもともとあったのだが)「TV room」という番組ごとのチャットルームでおしゃべりできる。番組ごとだけでなく、テーマごと、エピソードごとにroomがつくれる。好きな番組の好きなテーマで語り合いたい人と語れるのだ。

これによってユーザーは番組に接する頻度が高まる。そこがポイント。番組をフォローし、出演するセレブや同じ番組が好きな人をフォローすることで、”来週も観ようかな”と自然と思うようになるのだ。

つまりBeamlyとは、テレビを媒介にした大きなソーシャルネットワーキング装置なのだ。テレビを軸に、人とつながるアプリだ、ということだ。

さて海外のソーシャルテレビ状況をざっと見たところで、日本の状況はどうだろう。

日本のセカンドスクリーンは、ずいぶん進んできた。海外の事例よりずっと進んでいるし、見たこともない仕掛け、聞いたこともなかった企画が次々に登場してきた。このブログでもたくさん紹介してきたし、より高度なことができるようになっている。

だがしかし、あえて提言するのだが、ここでもう一度、振り返った方がいいのではないだろうか。ソーシャルテレビとは本来何なのかを。

セカンドスクリーンの仕掛けがある番組と聞くと、欠かさず見てきた。アプリを落としていじってみた。ボタンを押したり投票したりしてみた。それはそれで面白かった。

だけど・・・・・・飽きた。

この頃はそういう番組と聞いても、観ようとしなくなってしまった。アプリを落としたりしなくなってしまった。

別にネガティブなこと言って喜んでいるのではなく、こういうことだ。

特番で特別な仕掛けをやる時期はもう終わっていいのだと思う。

では何をすべきか。・・・定期的に観る番組で、みんなとしゃべりたい。・・・このニーズに応えることがいま必要なのだと思う。

zeeboxあらためBeamlyの考え方は納得がいくものだ。TV roomこそがぼくたちには必要なのだと思う。

ここには、大きな考え方の転換が必要だと思う。ソーシャルテレビは、あるいはセカンドスクリーンは、番組の視聴率を即座に上げるものではない、ということだ。それを目的にしてもほとんど意味がないということだ。

それよりも、番組のファンを増やす、そのための仕組みだととらえるべきだ。だってソーシャルってそういう概念だったでしょ?

番組と語り合う。番組の出演者と交流できる。番組が好きな視聴者と出会える。そういう場が必要であり、そういう場があることで、ファンが増えていく。結果として、視聴率にもつながっていく。この”結果として”というところが重要。すぐには視聴率につながらない。でも結果として、コツコツ努力したら必ず影響するだろう。

テレビの人は、どうしても、”その場でわーっと面白いことやる”のに頭が行きがちだ。テレビ番組はそう言うメディアだからだ。そこで、セカンドスクリーンも”わーっと面白いことやる”の一端ととらえがちだろう。でもそこに視聴率への効果を期待するには、ネットは小さいし向かない。

その場より、番組の前後、番組と番組の間の時間をどう視聴者と共有できるかが大事なのだ。そのための作業をコツコツ積み重ねて得たファンは、揺るがない。

わかりやすい例が『水曜どうでしょう』だ。北海道テレビのローカル番組なのに全国的な人気番組に成長した。これはコツコツ視聴者と気持ちを共有してきたからだ。ディレクターの藤村忠寿氏は「ファンが10万人いる」と力強く言っていた。それは、確かに万単位の人たちと交流をしてきたから自信を持って言えるのだ。”祭り”と称してリアルイベントも行うことが、その確かな実感を支えているのだろう。そして彼は、ソーシャルメディアが登場する前から、番組掲示板を通してファンと交流してきた。文句を言われたら本気で怒ったコメントを返したりしたそうだ。本気でファンと付き合ってきたからこそ、ファンは増えたし離れないのだ。

特殊な才能の人の特殊な事例だろう、と言うのなら、『テラスハウス』も例にあげよう。いまでこそ、若者の間でひとつのムーブメントを引き起こしている。でも、ほんの数カ月前までは視聴率もさほどでない、マニアックな番組だった。若い視聴者を引きつけられないかとツイッターを積極的に活用しはじめた。出演者にも、放送中につぶやいてもらった。それを続けていくうちに、視聴者が根づいていき、ホットな番組として注目を集めていったのだ。テラスハウスのハッシュタグでつぶやくことが、BeamlyのTVroomのような空間をぼんやり生み出したのだと言える。いまやテラスハウス出演者はセレブになっている。

先日、総務省の「40代50代のテレビ視聴時間が大幅に減少」という調査結果が発表され驚いた。去年から始まった調査で2回目なので鵜呑みにしない方がいいのだろうけど、”テレビ離れ”は若者だけの話でもないのだろうか。それは自分の生活を振り返っても実感がある。

そんな中で「視聴者とのつながり」は今後ますます重要になるだろう。ソーシャルテレビを、お祭り騒ぎの一端ではなく、つながりをつくり保つための概念だととらえ直すべきではないだろうか。

そのために必要なのは、「つながりたい」という意志だ。気持ちだ。番組を放送することは、自分の創造性を披露することではなく、コミュニティにとって必要なコミュニケーションをとりむすぶことが本来的意義のはずだ。視聴者と真摯に向き合い、つながりたい!という思いを持つことを原点に、そのためのツールとしてのソーシャルテレビととらえたい。あらためて、そう思うのだ。

ドラマを見逃したらスマホで見ればいい時代、はじまる?

先週は「ヒカキンのCMデビューは、放送と通信の融合の具体化かもしれない」という記事で、YouTuberヒカキン氏がテレビCMにデビューしたことの意義について書き、続いて「2014年のはじまりはメディアの変化を思い知らされた」と題した記事では、ネット動画が今年は盛んになりそうだと書いた。

2つ目の記事の中で触れたように、”もっとTV”で民放ドラマの定額見放題サービスがはじまった。これだけで十分びっくりしたから書いたのだけど、この連休中にさらにびっくりなニュースが飛び込んできた。
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1月11日(土)21時からはじまった『戦力外捜査官』というドラマ。武井咲とEXILEのTAKAHIROが主演のコミカルな刑事ドラマで第一話はなかなか面白かった。鴻上尚史氏が脚本というのも注目だ。だがここではその内容はちょっと置いておこう。

びっくりなニュースとは・・・日本テレビがこのドラマを無料でネット配信しはじめたのだ。 具体的には、翌週の第二話放送前まで、第一話が無料で観れる。第二話も放送後から無料配信する。第三話も・・・といった流れで、つまり放送を見逃しても一週間はいつでもネットで視聴できるということだ。

ドラマ放送後のネット配信は、この数年で各局が体制を整えてきた。いまや、いわゆるキー局はすべてそれぞれ見逃し視聴のサービスを行っている。ただし有料だ。一時間ドラマだと300円程度を支払う必要がある。また視聴するためには各局のオンデマンドサービスに登録したり、あるいはGyaOなどの配信サービスに登録したりする必要があった。 ところが『戦力外捜査官』は無料なのだ!これは画期的、大英断だと思う。しかも登録手続も何も要らない。いきなり再生できてしまう。

ネットでの見逃し視聴を積極的に展開した方がいいのではないか。そんな議論は去年あたりから巻き起こっていた。『半沢直樹』ではtwitterなどで話題が盛り上がったのを見て、第3話とか第4話から見はじめた人も多かった。それまでの見逃した分を、たまたま録画してあればいいが、そうでないとネット配信で見ることになる。正規のサービスで見た人も多いと思うけど、違法にアップされているのをよくわからないまま検索で出てきたからと見た人も相当多いだろう。結局は違法で見られちゃうなら、局として無料で見せた方がいいのではないか?そしてそうすれば、話題になったドラマを途中から見てくれる人が増えるのではないか?そんな議論があちこちで聞かれた。かくいうぼくもそんなことを言っていたのだけど。

でもハードルは高い。無料で見せるならCMもそのまま一緒に見せたくなる。そして番組の提供スポンサーに、ネットでさらにこんなに多くに見られました、と広告収入をお願いすればいい。・・・のだけど実際にはそう簡単に成立する話ではないだろう。

また、せっかく各局ともオンデマンドサービスを整えて黒字になる局も出てきている中、無料にしてしまっていいのかという議論もあるだろう。何年もかけて努力してやっとビジネスになってきたのにと。きっと巻き起こったであろうそんな議論を乗り越えた日テレは、やるなあ、というところだ。

やるなあというのは、視聴する際に何の登録も要らない点にも感じた。他のサービスでもそうだけど、登録の手続きはコンバージョンを下げる大きな要因だ。でも普通に考えると、無料で見せる代わりに日テレオンデマンドへの登録だけはしてもらおうぜ、としたくなるものだろう。そこを割りきって、とにかく見てもらうことを重視したのは、やるなあ、ということだ。

無料配信するのは大サービスだが、例えば第四話を放送後に第三話を無料で見たら、第一話第二話も見たくなるのが人情というものだ。中には、前までのものを有料で見る人も出てくるはずだ。結果的にはオンデマンドサービスにプラスをもたらす、との皮算用もあったのではないだろうか。

<日テレいつでもどこでもキャンペーン>というタイトルが掲げられている。だから、これからずっと無料配信するとは限らない、ということだろう。キャンペーン期間中なのでサービスしてます、と。15日からはじまる水曜10時枠の『明日、ママがいない』もキャンペーンとして同様に無料配信するようだ。

また日テレのオンデマンドサイトだけでなく、GyaOドガッチでも展開されている。自社サービスだけでなく多様なアクセスを可能にしているのも面白い。

この施策が例えば視聴率にどんな影響を与えるのかはわからない。プラスに働くはずだとは思う。「半沢直樹」では、ふだんテレビドラマをあまり見ない若者層も引きつけた。『戦力外捜査官』も、ネットで見て面白かったから放送で見てみよう、という人も出てくるかもしれない。それが視聴率という巨大な人数を動かさないと目に見える変化になってこない世界で、明確な影響を及ぼすに至るかはわからないだろう。ただとにかく、トライアルの精神が大事だと思う。

これを契機に、各局のドラマが無料配信されると面白いなと思う。そしてドラマに限らずすべての番組が気軽に放送後にネットで視聴できるようになったら、テレビ番組に接触する人が増え、やがては放送で見る人も増えるのではないか。あるいは、ネットだけで見ることでも、ビジネス化は可能なのではないか。行き詰まりつつあるテレビ放送の新しい形が見えてくるかもしれない。

それにしても今年は、やはりネット動画が加速しそうだ。その影響はあちこちに及んでいくと確信している。ぼくはネット動画にどう取り組むべきかについてもアドバイスできると思うので、何らか考えたければコンタクトしてください。ローカル局や、映像を扱ってこなかったメディア企業に対して、いろいろ助言できるつもりだ。

コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント
境 治
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アマゾンだけじゃない!VODサービス続々登場。次は、観たくなる工夫がポイントだ!

「アマゾンはVODを日本で日常化させるか?」と題した記事を書いたけど、アマゾンだけで終わりではなかった。28日にはマイクロソフトが動画配信サービスXbox VideoのWEB版を公開したというニュースが飛び込んできた。これまでゲーム機XboxかWindows8だけでしか使えなかったのが、普通のWEBブラウザーで使えるようになったのだそうだ。もちろんぼくのようなMacユーザーも使える。

アマゾン同様、映画とドラマが視聴できるのだけど、レボリューションやホームランドなど、他のVODにはない新しめのコンテンツも入っている。やるなあ、マイクロソフト!

それから、知らなかったのだけど10月30日にはGooglePlayでもそれまでの映画に加えてテレビドラマを扱いはじめたそうだ。いずれもタブレット端末のセールスに向けたサービスらしい。アマゾンはKindleHDの新製品が出たし、GoogleもNexusの販売のためにドラマも揃えたというわけだ。こうなると、iTunesではドラマは扱っていないので、iPadがちょっと不利かもしれない。・・・まあきっとAppleもそのうちドラマも扱うのだろうけど。

ぼくのような映画やドラマが大好きな人間にとって、こうしたVODサービスの続々の登場は喜ばしいことだ。思い返すと、2005年だったかにビデオiPodが出た時、海外では映画やドラマをiTunesで取り扱うようになったのに、日本ではミュージックビデオしか見れなかった。あの頃からすると隔世の感があるが、もう8年も経っているのだからなー。

さてこうなると、VODサービスにさらなる向上を求めたくなる。そもそも、ぼくはこれまでのAppleTVやhuluにいささか不満があった。コンテンツを選ぶための情報が、圧倒的に少ないのだ。

AppleTVで映画を選ぶ際、カンタンなあらすじとキャストやスタッフの情報があるだけ。でも映画の紹介って、あらすじだけじゃない。あらすじよりもっと大事なのが、その作品の位置づけ的な情報だ。その昔なら淀川長治や水野晴郎がテレビのロードショー番組で映画を紹介する時、わくわくするような話をしてくれた。誰々が主演で、この作品によって一躍彼は大スターになった、とか、誰々が監督で、彼の遺作となったのがこの作品だとか、そういう情報。そういうのをコンテキストと言う。

コンテキストは様々で、もっと個人的なことかもしれない。自分が学生時代に初めて観たスプラッタムービーで衝撃だったとか、若い頃デートで観てうっとりしてその後でプロポーズされたとか、そんなことでもいい。そんな情報が作品に与えられると、なんだか観たくなるものだ。

逆に言えば観る理由は何だっていいのだ。なんとなーく、興味を持った作品を観る時に、一押ししてくれさえすればいい。観たあとで、なんだそうでもなかったじゃないかとか、言っていた以上に面白いじゃないかとか、それでいいのだ。とにかく、その日、その時間にその映画を観るための、自分に対しての納得をちょっとだけくれればいい。

AppleTVにはそういう要素がほとんどない。わずかに、他の人の短い感想が3つ程度読めるだけ。

huluはもっとそっけない。あらすじしかない。キャストや監督の情報もないのだ。だから別途その作品について検索しないと情報が得られない。

AppleTVやhuluで何か観ようと起ち上げて、でも情報が少なく自分で検索するのにも疲れて、結局何も観ないで終わる、ということがしょっちゅうある。

モンクついでに他のVODについても言ってしまうと、ぼくが加入しているケーブルテレビにはVODサービスもあるのだけど、これがインターフェイスがよくない。さらに、ブルーレイレコーダーでアクトビラとTSUTATA TVを使えるのだけど、同様に使いづらい。ちょっとページを切り替えるだけですごく待たされる。これらに比べると、AppleTVもhuluもさくさく動いてずっと使いやすい。

なんだかモンク大会になってしまったけど、とにかくVODサービスはまだまだ改善すべき点がいっぱいある。もうサービスが出そろったのなら、次のステップに進んで欲しい。選びやすくして欲しい。どれもこれも観たくなる、そそる仕組みを構築して欲しい。情報を整えるのが重要だし、ソーシャルもうまく活用して、その映画についてのみんなのつぶやきがささーっと読めるとか、絶対にやった方がいい。

映画やドラマに限らず、コンテンツが莫大に増えると、選べなくなるものだ。自分が何を観たいかがわからない。でも、そんなにまっとうな理由が必要なわけではないのだ。ちょっとしたことで”そそられる”。いくつかの角度で”ちょっとしたそそる情報”を作品毎にパッと見られるようにすればいい。

もうそれぞれ、きっと考えてるよね。さっそく具現化して欲しいもんだと思う。考えてないなら、意見言わせて欲しいもんだなあ。

コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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テレビの未来を担う、セカンドスクリーンは定着するか〜マル研&JoinTV〜

「セカンドスクリーン」という概念がある。テレビを見ながら別のデバイスの画面つまりPCやスマートフォン、タブレットなどを見ることだ。テレビがファーストスクリーンで、別のデバイスがセカンドスクリーンというわけだ。

このセカンドスクリーン現象は前々から起こっていた。テレビCMに「つづきはWEBで」と出たりしたし、ガラケーを片手に”ながら視聴”をしていた。

ただ、スマホとソーシャルの時代になり、twitter上でテレビ番組をネタにつぶやくことが増え、またスマートデバイスではガラケー以上に多様なことができるので、こんな新しい言葉が生まれていろんな人がいろんなことを考えはじめていろんな試みに取り組むようになった。ぼくのブログでもしょっちゅう取り上げているので、よく読んでくれてる人なら知ってるよ!って話だろう。

先日のソーシャルTVカンファレンスも、言ってみればこのセカンドスクリーンがテーマであり、キーノートをしてくれたアンソニーが開発したzeeboxはセカンドスクリーンサービスだ

日本でもセカンドスクリーンの開発に早くから取り組んでいるのがマルチスクリーン型放送研究会、通称”マル研”。関西キー局を中心に全国のローカル局が集まって2011年末からスタートしていた。

先週、11月13日から幕張で開催された放送業界の技術展示会InterBEEで、マル研はブースを持ち展示していた。彼らはこのInterBEEで、驚くべき発表をした。このITproの記事が詳しく書いている。
「マル研が来年早々にオンエア・トライアル、InterBEE期間中に放送局対象にゼミナールも」
マル研構想の仕組みは、セカンドスクリーンで見せるデータを放送電波で送り届けるのがポイントだ。ネットで送ると、テレビがもたらす膨大なトラフィックを処理するのは難しい。電波で送ればその混乱を防げる。ただし特別な端末を各家庭で持つ必要があるので、具体化はずいぶん先なのだろうと思っていた。

ところが来年、トライアルをやるというのだ。しかも、それがうまくいけば来年春から実際にスタートするとも言っている。特別な端末を使うのは先にして、ネットでできることをはじめてしまおうというのだ。そのスピード感には驚きだ。

ブースではこの写真のような展示をしていた。これはいわゆるCMSで、放送局の側が番組に合わせてこんな画面に、視聴者に対して番組に合わせて見せたいコンテンツや投げかけたい質問などを入力する。あらかじめ入力しておけば番組の進行に添って視聴者の手元の画面、セカンドスクリーンに表示されるのだ。これなら、番組スタッフがプログラミング知識がなくても自分たちで操作できる。これができたので、実用化も可能だということだろう。

そんなマル研に驚いた矢先、今度は日本テレビのJoinTVのスピードにまたびっくりした。11月15日金曜日に、JoinTVConference2013という催しが開催されたので見に行ったのだ。

これについてもITmediaの記事を読むのが早いと思う。
「「JoinTV」で新しい広告モデルの構築を目指す日テレ」
カンファレンスの目玉として、「O2O2O」というプロジェクトが示された。

マーケティングの注目概念としてOnline to Offline略してO2Oというキーワードがある。PCやスマートフォンなどでオンラインで接触した消費者を実際の店舗での購買に結びつける仕組みで、店舗はOfflineなのでO2Oと呼ばれる。

日本テレビが唱えるO2O2OはこのO2Oの前にもうひとつのOを加えたもの。それはOnairつまり放送だ。テレビで観て、ネットで接触し、店舗に誘導する。だからO2O2Oというわけだ。O2Oにテレビ放送が加わることで、入り口をネットより格段に大きくすることができ、実現したらマーケティング効果は絶大になる。これまでテレビ広告はリーチ力は強いが実際に購買に結びつける力がないと言われてきたので、その弱点を克服する仕組みだと言える。これを、日本テレビはマイクロソフトやビーマップなどとの提携で具現化するのだと言う。

提携企業までもう決まっていて、ここまで具体的に進んでいたとはと、これまた驚いてしまった。日本では物事が進むの、遅いよなーと思っていたけどそんなことは全然ないじゃないか。

このJoinTV Conferenceはそうした日本テレビ側からの発表が続いたあと、最後にシンポジウムの時間もあった。これがまた面白かった。ゲストにNHK鈴木祐司さんとドワンゴの川上会長が登壇し、テレビはこれからどうなるのかを議論したのだ。

川上会長も例によって面白いのだけど、最初はNHK鈴木さんのプレゼンテーションの時間があって、ぼくはこれも大変刺激的で面白かった。

ものすごくカンタンに鈴木さんの問いかけを書くとこんなことだ。

NHKスペシャルの企画に役立てるために視聴者のリテラシーを調査したらピラミッド的な分類になった。三角の上の方には熱心な視聴者がいて彼らは年配だが意外にPCを使いながらテレビを見たりする。ドキュメンタリーのターゲットは彼らだろう。もうちょっとくつろいで視聴するのはドラマ視聴者、さらに退屈しのぎで観る層はバラエティ好き。ソーシャル×テレビの対象者は実は一部に過ぎないのではないか。それよりもっと問題なのはタイムシフト視聴ではないか。日テレさんはソーシャルテレビ頑張ってるけど、タイムシフトにはどう対処するの?強引に短くまとめるとそんな話だった。

タイムシフト視聴、つまり録画による番組視聴はどんどん増えている。録画だとCMを飛ばされるし時間編成も無視される。テレビ局にとってはいろんな側面で由々しき問題だ。そんなことを鈴木さんは問いかけていて面白かった。

マル研とJoinTVのスピード感に圧倒されながら、ぼくもぼくなりに疑問に思ったことがある。両者の向かう方向は、ほんとうに視聴者が求めているのだろうか。どれくらいの数の視聴者が求めているだろうか。あるいは、日常的に求めることだろうか。

インタラクティブな番組は、参加すると面白い。これまで様々な番組の様々な試みが繰り広げられ、ぼくはそれぞれ大いに楽しんで参加してきた。”お祭り”として、面白かった。

でも常日ごろ、テレビを観ながらセカンドスクリーンでしているのは、もっと気ままで自分勝手なことだ。ドラマに出てきた出演者、この人どこかで観たなあ、どのドラマに出てたっけ。と思うとスマホで検索する。番組を観ながら、おおー!と思ったらFacebookやTwitterで「おおー!このあとどうなっちゃうんだ?!」とつぶやく。他の人も「おおー!」と驚いているのをタイムラインで見て喜ぶ。たまに誰かが反応してきてやりとりする。

ぼくが日常的にテレビを見ながらやりたいことは、そんな程度だ。だが、そんな程度のことをするのに、えらく面倒が生じる。検索したりつぶやいたりするたびに、アプリを切り替える。番組についてつぶやく時にハッシュタグの入力が大変だ。番組を観ながらつぶやいてる人たちとハッシュタグを検索してタイムラインでやっと出会う。

セカンドスクリーンでやりたいこと、よくやることにはいろんなことがある。”参加”もそのひとつだけど、実はあんまり毎回やりたいわけではないのだ。特別な番組なら参加も楽しいだろうけど、毎週見ている番組で毎週参加を求められてもやらないと思う。

日常的に使うセカンドスクリーンサービスが、実は現状は存在しないし、欲しいと思っている。そして、広告効果を高めるにせよ、O2O2Oをビジネス化するにせよ、テレビを見ながら日々使うサービスじゃないと効果が出ないのではないだろうか。

それに、そうしたサービスは地上波だけでは物足りないだろう。BSを見る機会は増えたし、MXテレビをはじめU局を見る機会も意外なほど増えている。スカパーやケーブル加入者は多チャンネルで観てたりする。

セカンドスクリーンを舞台にこれから、多様な試みが、具体化しそうだ。その道のりはまだまだ先があるだろう。誰でも、普通に使いやすい、日常性と普遍性がポイントになるんじゃないだろうか。・・・というのも、いま思うことに過ぎないかもしれなくて、来年になったらまた変わる可能性も大いにあるだろうけど・・・

ところで、11月21日木曜日の22時30分から、スクーというサービスを通じて”ネット授業”をやることになった。「「半沢直樹」のヒットから考える、ソーシャルテレビの可能性」というタイトル。興味あったら見てください。→申込はここをクリック!

コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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コンテンツを上手に選ばせる仕組みが重要だ~All About Zeebox(2)~

11月1日のカンファレンスでのZeeboxに関するキーノートレポートの第2弾の記事を書く。第1弾を読んでないという人は、そっちから読んだ方がいいので、ここをクリックしてくださいな。

Zeeboxの機能の第一は、いま観るべき番組はどれかをガイドしてくれるところだ。テレビが大好きな人にとって最も大事な機能だろう。そして、海外では多チャンネルが普通なので、日本よりずっと重宝する機能でもあると言える。

トップ画面で、Zeeboxはいくつかの「観るべき番組候補」を提示してくれる。まずは「もっとも人気がある番組」。これは、Zeeboxユーザーの中でもっとも視聴されている番組を一分ごとに算出してくれるもの。あくまでアプリユーザーの中で、なので、いわゆる視聴率とは違う。でも、その瞬間でもっともたくさんの人が見ている番組がわかるのだ。

それから、いわゆる”レコメン”もしてくれる。これまでの視聴傾向から、類推しておすすめしてくれるのだ。

そして、Twitterでいまこの瞬間にもっともTweet数が多い番組も提示してくれる。さっきのもっともたくさんの人が見ている番組とは別に、視聴者がホットになっている番組がわかるということだ。

日本ではチャンネルの数が少ないからそんなに選び方がいろいろなくてもいいよ。そんな声も聞こえてきそうだ。だが、スカパーやケーブルテレビなどで多チャンネル環境にある人は多い。またBS放送もこの数年で次々増えた。そして見慣れた地上波のタイムテーブルは大まかに頭に入っていても、それ以外のチャンネルでいつどんな番組を放送しているか、記憶している人はほとんどいない。だからZeeboxはせっかくの多チャンネル環境を充実させてくれるかもしれない。

ぼくたちにとっての番組への接触は、長い間”リモコン”に規定されてきた。リモコンの便利さは逆にチャンネル選びでの制約にもなっていた。すぐに押せるボタンで4だの6だの8だのを選ぶ。それ以上になると途端におっくうになる。そんなぼくたちのテレビの観方を、その制約から解放するのがZeeboxかもしれないのだ。

コンテンツとぼくたちの関係は、どんどん複雑になっている。少し前までは蛇口が数個しかなかったので、選ぶのもたやすかった。でも蛇口がどんどん増えると、どの蛇口をひねればどんな飲み物が出てくるのかわからなくなる。無限に増える蛇口の前でぼくたちは途方に暮れたりしてしまう。

そんな中で”選びやすい”仕組みを提供することは、テレビに限らずいろんな局面で必要になると思う。

Zeeboxに戻ると、もうひとつ、番組ガイドとしてユニークな機能がある。いま見ている番組が何かを教えてくれるのだ。ACRという技術がある。今年の4月の記事でもふれた、コンテンツ認識のためのテクノロジーだ。この記事で紹介したGracenoteの技術を、Zeeboxでも使っている。番組の音を通じて、どの番組かを認識するのだ。

いま見ている番組を示すだけだと、とくに日本人にとっては要らないよとなってしまう。だがこの機能は録画した番組を再生する時にも使える。そして、ここがポイントなのだが、放送時の番組に関するTwitterのタイムラインとリンクできる。

つまり、録画で観ても、あたかもリアルタイムで観ながらTwitterを見ているような視聴を再現できるのだ。これは、ソーシャルな視聴スタイルにとってうれしい機能だ。番組を観ながら「おおー!」と思った時に、Twitter上で「来たーーー!」のようなTweetが並ぶのを、録画でも体験できる。素晴らしい機能だと思う。

ここまでですでに、Zeeboxがテレビ視聴を未来にしてくれることが感じてもらえただろう。でも、まだまだあるので、第3弾を待っててほしい。今週のうちに続きを書こうと思う。

コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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映画「スティーブ・ジョブズ」公開の日にやって来た男、アンソニー・ローズ~All About Zeebox(1)~

このブログで何度かに渡って告知してきた「ソーシャルTVカンファレンス2013」が11月1日(金)に無事終了した。プログラムはイベントページを見てもらえればわかるが、目玉はロンドンからZeeboxのCTOであるアンソニー・ローズ氏を招いてキーノートスピーチをやってもらったことだ。

この日は偶然にも映画「スティーブ・ジョブズ」の日本での公開日だった。コンピュータを通して世界を変えた男に、ソーシャルテレビの分野でメディア界に変革をもたらそうとしているアンソニーを重ね合わせてしまうのは無理があるだろうか。いや、分野の違いはあってもぼくには相似形に思えるのだ。アンソニーが開発したZeeboxには、そんな連想をしたくなる大いなる可能性が感じられた。

Zeeboxは英国でスタートし、米国と豪州でも展開しているソーシャルテレビ用のサービスだ。つまり、テレビを見ながら使うためにPCやスマートフォン、タブレットに提供されるもの。テレビを見ながら別のデバイスを使うことを”セカンドスクリーン”と呼び、そのためのサービスが各国で数多く登場している。Zeeboxはその中で最も成功しているもののひとつだ。2011年末にはじまったのに、すでに英米ではデファクトスタンダードになりつつあるのだから、そのスピードの早さは目覚ましい。

このブログ上でその詳細を数回に分けて紹介しようと思う。何しろ、ソーシャルテレビはこのブログ「クリエイティブビジネス論」がもっとも注目する現象だし、だからこそぼくが運営する勉強会「ソーシャルテレビ推進会議」でアンソニーを招聘したのだ。今回、直接彼のプレゼンを何度か聞いて日本で一番Zeeboxに詳しい人間になってしまったので、こってり語っていきたいと思う。

アンソニーがプレゼンで使ったシートの中で公開できる一枚をお見せしよう。このチャートを見てほしい。テレビ視聴者を数種類に分けたものだ。
図をクリックすると大きく見られる

縦軸が、テレビをよく見るかどうか。横軸がZeeboxへの興味度が高いかどうか。その上で、赤い枠でくくられたタイプがZeeboxの対象者だ。

このチャートが新鮮なのは、これまでテレビとソーシャルメディアの関係を論じる上で、こんな風に視聴者を分類したことはあまりなかったことだ。だが、テレビを見ながらつぶやく人々は視聴者のあくまで一部のはずで、このチャートではそこをはっきり示している。

テレビが大好きな人たちは”TV Mavens”と括られている。Mavenとは”達人”のような意味。彼らは例えばドラマの次のエピソードは見逃さないし、常に面白い番組を探している。でも番組を見ながらソーシャルメディアはあまり使わない。視聴に集中するからだ。比較的年齢層も高いそうだ。

そして”Pop Idols”。アイドルが好きな人たち。彼らは「アメリカンアイドル」「ザ・ボイス」のようなリアリティ番組を好んで視聴する。番組を見ながら積極的にソーシャルメディアを使う。そして見知らぬ人でも同じスターや番組を好きな人とメッセージを交わしあう。日本で言えばAKBやジャニーズタレントのファンたちがこれに当たるのだろう。

それから”Social Watchers”。彼らは番組を見ながらソーシャルメディアを積極的に使うのだが、見知らぬ人とはコミュニケーションしない。実際の知人友人と言葉を交わすのだそうだ。なるほどと思ったのだが、ぼくは少し前まではtwitterで見知らぬ人と番組を見ながら交流していたが、最近はFacebookで友人たちと言葉を交わすようになった。めんどくさくなってしまったのだ。つまりぼくはSocial Watcherなのだろう。

こうした人びととは別に、例えばニュースを中心にテレビを見る人、スポーツばかり見ている人もいる。また”Connected Multitaskers”と分類される人もいる。これはテレビはつけているけど他のいろんなこと、メールを書いたりWEBを見たり、テレビ視聴と無関係なことをマルチにこなす人びとだ。こうした人びとには、Zeeboxのようなセカンドスクリーンサービスはいらないのだと言う。

さてZeeboxはどんな機能を持つのだろう。まず”Discovery”、つまり番組を発見するためのTVガイドの役割。それから”Social”つまりソーシャル機能。そして”Information”これは情報、要するに番組を見ながら知りたいことがわかる機能。さらに”Participation”つまり番組への参加を促す機能だ。最後に”Shopping”これは番組と連動した通販機能だ。

こうして機能について詳細を書いていくと、サービスとしての便利さはわかっても、なんで最初にスティーブ・ジョブズの話をしたかはわかってもらいにくいだろう。だがソーシャルテレビの概念にはそもそも、テレビ視聴をもっと自由にのびのび”解放”するような理念めいたものが含まれている。少なくともぼくはそういう理念を込めてソーシャルテレビに関わっている。

アンソニーと話していると、やはりそこに理念を感じるのだ。電波を軸にした技術的要素にテレビはどうしても縛られてしまう。そしてたくさんの人に視聴されるけれども一方通行のコミュニケーションの枠組みからは出られない。それがソーシャルメディアと連携することで、電波による一方通行の窮屈さから脱却することができる。そこにはマスメディアの未来の姿が見えてくる。アンソニーの言葉のひとつひとつの奥底には、そんな思いが流れている。ぼくは直接彼の話を聞いて、強くそれを感じたのだ。

というわけで、あと数回、Zeeboxについて書いていく。ソーシャルテレビに興味のある人、そしてこれからのメディアについて関心を持つ人、コンテンツ制作とメディアが今後どうなるのか考えている人には、ぜひ読んでもらえればと思う。

またカンファレンス各パートの詳細なレポートをブログ「Film Goes With Net」でソーシャルテレビ推進会議の一員でもある杉本穂高氏が書いているのでそちらも参考にしてもらうといいだろう。

Film Goes With Net:ソーシャルTVカンファレンスレポート
事前レクチャー編
①:Zeebox創業者Anthony Rose氏のセッション
②:日本のユーザー参加型テレビ番組事例
③:テレビ広告の真(新)の実力を考える
④:どうなる?どうする?ソーシャルテレビ

コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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2013夏ドラマTwitter分析(1)「半沢直樹」と「Woman」はTwitterでも熱い!

去年の秋から、ドラマのTwitter分析を試みてきた。そこから、視聴率とは別の何かが見えてこないか、というのが企画意図だが、なにしろ自分がドラマ好きだからという個人的好奇心の方が実は強い。

これまでの分析を振り返ると・・・
・2012年秋ドラマの分析をまとめた記事
・2013冬ドラマの分析記事
・2013春ドラマについては4回に渡って記事を書いている。
   (1)Twitterから視聴率を予測できるか
   (2)Twitterは視聴率の先を導く?
   (3)Twitterで抜いたら視聴率も抜くのか?
   (4)『ラストシンデレラ』は萌えているか?『ガリレオ』は燃えるだろうか?

視聴率と別の何かが見えてこないか、と言いつつ、春ドラマの分析ではTwitterの盛り上りと視聴率の関係を追ったりなんかしてしまっている。やはり視聴率はネタとして面白いというのもあるし、この春ではとくに、視聴率とTwitterの相関性が高まったように思えてきた。スマートフォンが普及し、視聴率に影響を与える奥様層にもTwitterが普及してきたからじゃないかなと推測している。

一方で、視聴率とは別の“気持ち“みたいなものもTwitterから見えてこないか、というのもぼくが注目するポイントだ。この夏のクールでは視聴率も見据えつつ、感情分析を中心にしてみたい。

さて夏ドラマはかなり盛り上がっている。「半沢直樹」をはじめ、視聴率の高いドラマが多い。その勢いを9月まで保てるかが見どころになる。

まず注目のドラマが多い中でも注目の「半沢直樹」と「ショムニ」のツイート数を見てみよう。データ収集にはNECのソーシャルメディア分析ツール<感°レポート>を使わせてもらった。使いやすいインターフェイスでぼくのような文系人間でも使いこなせるんだぜ。

比較対象として月9「summer nude」のデータも重ねてみた。一目瞭然だが、「ショムニ」のツイート数が断然多い。最後の放送から10年経っているが、”あのショムニがもう一度!”という反応が強かったということだ。前のクールの「ガリレオ」ほどではないがドラマの中でも抜きんでた水準。今期のドラマは過去のヒット作の続編が多いが、それに対する素直な反応がTwitterに現れている。

ところでさっきのグラフの、放送翌日の箇所に注目してみよう。

「半沢直樹」は放送日のツイート数が4万件程度、「ショムニ」は13万件弱。ずいぶん差があるわけだが、翌日のツイート数は2万件強とあまり変わりがない。つまり、「半沢直樹」の方がツイート数の下がり方が少なかったことになる。録画で翌日観た人も多いだろうし、とにかく放送後も口コミされていた。「半沢直樹」が世間に与えた衝撃度の大きさが、翌日も余波になっていると言えるだろう。

今度は個々のドラマの”感情分析”を見てみよう。これは、先ほどの<感°レポート>で収集したツイートから、放送時間中のものだけを抽出し、テキストマイニングにかける。使ったツールはプラスアルファコンサルティング社の<見える化エンジン>だ。かなり高度な分析が瞬時にできるすぐれもの。

”感情分析”とはぼくが勝手にやってる分析で、放送中のツイートから<好意好感><高揚興奮><否定>にあたるものを抽出する。“好き”とか”いい”などは<好意好感>、“面白い“とか”すごい”とか強い表現のものは<高揚興奮>、そして“いやだ“とか”辛い“のようなものは<否定>とする。それぞれの分類のツイート数が全体の中で占める割合を出していくのだ。

まずは数値を表で見てもらおう。「半沢直樹」「ショムニ」「summer nude」にこのクールのもうひとつの注目「Woman」も加えて4つのドラマの感情分析。

この4つはそれぞれ特徴的な数字になった。全体にソツがないのが「summer nude」好感も興奮も同程度で否定は少ない。もっとも基本的な形だ。「ショムニ」は好感が高い。これは「やっぱりいい!ショムニ」とか「懐かしいなあ」とか、とにかくショムニが好きだった人たちの、とにかく好きだぞ、という反応の現れだ。

特徴的なのは「半沢直樹」。興奮が異様に高い。“面白い!“というツイートが多かったのだが、何気なく見てみたら思いの外面白かったという反応だろう。

さらに特筆すべきなのが「Woman」だ。「否定」が高い。高すぎる。このドラマ、見た人はわかるが、シングルマザーの過酷な現実を生々しく描き出している。見ていると辛くなるのだ。“辛い“とか”しんどい”“見てると苦しくなる“というようなツイートが多い。だからこの「否定」は褒め言葉とも言えるかもしれない。とにかく、見る人の心を強く揺さぶった結果だといえる。

数字をグラフにするともっとわかりやすいだろう。2つずつまとめてレーダーチャートにしてみた。


まずは「ショムニ」と「半沢直樹」。こうして比べると「半沢直樹」の尋常じゃなさがよくわかるだろう。ちなみにこれに似た形はテレビ朝日「ドクターX」などがある。米倉涼子主演でヒットしたドラマで、「半沢直樹」もそれに負けないヒット作になる可能性が十分だと言えるだろう。


そして「Woman」と「summer nude」。「Woman」の異常さがレーダーチャートにするとよくわかると思う。こんな形は他になかった。見てると苦しいのに見続けてしまうという麻薬のようなドラマになるのかもしれない。これと、同時間帯である「ショムニ」への反応が今後どうなっていくのか、視聴率争いとともに見物だろう。

Twitterによるドラマの分析は、テレビに関するツイートは基本的に多いのでデータがとりやすいし、テーマとして面白い。でもこれは、いろんな分野に応用できると思うし、実際に商品について、企業について、使われはじめていることだろう。こうした分析から、新しいコミュニケーション手法も生まれてくるのではと期待している。

コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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広告はパーツになりむにゃむにゃしたコミュニティの入口になる(ハフィントンポストに書いたことの続き)

月曜日にハフィントンポストに初めて寄稿した。ソーシャル関係の身内の皆さんのサイトにはよく転載してもらうけど、こんな一般メディアにオリジナル原稿を書くのはなかなかないことなのでけっこうドキドキした。そしたらたくさんの人に読んでもらえたようでコメントもついてさらにドキドキした。コメントもらうと何をすればいいのかわかんなくなっちゃうね。

ところであの記事はちょっと中途半端でもある。なぜなら、ホントはもっと長いのを半分に切っちゃったのだ。文字数を気にせずだらだら書いてたら長ーくなっちゃってね。

そこで今日はここで、続きを掲載しようと思う。だから読んでない人はこのリンクからハフポストの記事を先に読んでもらった方がいいかも。(もう消費者なんていない時代に、広告は広告でいいのだろうか。)

ソーシャルメディアが、21世紀に入ってからまるでタイミングを見計らうように登場したことは、考えると不思議で仕方ない。だが我々が消費に冷めきってしまい、消費に対応してきた広告が立ちすくんでいる時にソーシャルメディアはやって来た。なんとよくできたストーリーだろうと思う。

ネット上のメディアは、これまでのマスメディアとは敵対してきたように見える。とくに新聞雑誌などの紙メディアはネット上のメディアに明らかに力をそがれてきた。だがソーシャルメディアはかなり意味合いが違う。ソーシャルメディアの登場によって初めて、マスとネットは融合できる可能性が見えてきたのではないだろうか。

そのソーシャルメディアも、これまでは既存の広告とは壁があったようだ。何しろ出自が違う。プレイヤーが違う。何より企業の部署がそれぞれ違う。ついでに広告代理店でも部署が違ったり、そもそも担当できる人材がいなかったりした。

そんな段階もどうやら終わりで、次のステップに向かいそうだ。前回の原稿で、メディア界が新しい姿に向かって再構成しはじめたと書いたのも、そのことを言っていたのだ。これから、既存メディアとソーシャルメディアの融合、連携、同一化がぐいぐい進んでいくと思う。テレビが、ラジオが、新聞雑誌が、そしてWEBサイトでさえ、ソーシャル化していくだろう。ソーシャルに取って代わられるのではない。そうではなく、ソーシャルに包まれるのだ。ソーシャル的な要素がしみ込んでいくのだ。そして何やら全体的にひとつに溶け合ってむにゃむにゃした存在になる。これまでのメディアは輪郭のはっきりした、各ジャンルの壁を越えられないものだったのが、ずるずると境界を越えてメディアの分類を曖昧にし、ゲル状のアメーバみたいなものになる。

なんとなく思いつきで図にしてみたが観念的すぎてかえってわかりにくいかもしれない、ごめんね。

こういう方向に再構成されるとしたら、モノを買うことにめちゃめちゃ慎重になっている人びとに何をどうすればいいのだろう。このむにゃむにゃしたゲル状の中に、人びとを引きずり込んでいくのだ。アメーバのモンスターのように粘液でつかんで離さない、なんてことではなく、いつの間にかむにゃむにゃの中で過ごしてた、的な状況を作り出すのだ。このむにゃむにゃは、コミュニティと言い換えられるのだろう。

これまでの広告は、日々の暮らしの中に突然乱入してきて「これいいっす!すげえいいっす!」と叫び続けるのが基本姿勢だった。でも消費に冷めた人びとには、そんなことだけでは効かない。代わりに、楽しそうなコミュニティをむにゃむにゃと作り上げるのだ。そしてその楽しさをなんとか感じてもらえるような接触を試みる。楽しそうだなあ、ぼくも輪の中に入ってみようかなあ、どうしようかなあ。そんな気持ちになってもらう。

輪の中に入ってもらって、他の人びととも交流してもらって、ついでに商品も買ってもらって。そんなことが広告の役割になっていくだろう。そしてそうなると、それは広告なのか何なのかわからなくなる。少なくとも、これまでで言う広告(=マスメディアの力で認知を広げること)は、重要だが一部の役割になっていく。広告を含んだ、全体的なコミュニケーションとしか言えないようなむにゃむにゃしたものが、今後のマーケティングに必要になるのだ。

広告はそのむにゃむにゃの中で、人びとを振り向かせ、ソーシャルメディアに誘導し、コミュニティに加わってもらう入口の役割を担うのだろう。

こうなるとコミュニティをどうつくるか、どう運営するかが大事だし、その前提でマスメディア上での表現を考えた方がいいのだろう。

というか、こうなると広告は広告と呼ぶべきなのだろうか。マーケティング活動の中でのメディア上での一連の作業を広告と呼んできたが、モノを売るためのコミュニケーションを広告だとするとそれはもう広告ではない。広く伝えることは一部でしかないからだ。

ぼくたちは新しい言葉を持たねばならないのだろう。消費者ではなく、生きるためにモノを買う人びとを何と呼ぶのだろう。広告ではなく、モノを買ってもらうに至るコミュニケーション活動全体を、どう表現すればいいのだろう。みんながすんなり受けとめられる言葉が見つかる時、メディアの世界は新しい地平を見いだす。そんな作業がいまはじまっているのだと思う。

かく言うぼくも、そんな作業の担い手となっていきたい。ご興味ある方は、ご遠慮なくメールしてください。

コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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ソーシャルクリエイティブとでも呼ぶべきものがマジ起こってきた

もう二年も前になるけど『テレビは生き残れるのか』という本を書いた。その中で、「ソーシャルクリエイティブとでも呼ぶべきもの」という部分がある。ちょっとだけふれたつもりが、いま読み返すと一章をさいてけっこう書き込んでいる。

内容がまた、よくこんなこと書いたなと我ながら思う。メディア界の制作職に就く者は“クリエイター“と呼ばれてなんか勘違いしてたんじゃないか。金銭感覚もズレてたんじゃないか。でもメディア界で経済価値を持っていたのはクリエイティブではなくメディアだったにすぎない。過剰な作業をしてクオリティを保ってきたが、そんなやり方はリーマンショックと東日本大震災で通用しなくなった。ひどいこと書いたもんだ。

そして、これから主にソーシャルメディア上で、これまでとまったくちがう系統のクリエイティブが必要になる。ソーシャルクリエイティブとでも呼ぶのだろう。そんな文脈でこの言葉が登場している。

”主にツイッターやフェースブック上で展開される言語やビジュアル表現もしくは、それらをプロモーションの場とした創作物。さらには、ソーシャルという言葉が持つ「社交的な、社会的な」という意味の通り、人々との交流や、社会への貢献のための表現という解釈も持たせたい。”

そんなことを書いている。ほほお、そうなのか。でも、いまになってこの傾向は現実になりつつある。

それを実感したのが、クロスコ社を訪問した時だ。

この会社は、ベンチャーというわけではなく、80年代創業のそれなりの歴史を持つ会社だ。分類するとポストプロダクション事業になるのだろうか。編集スタジオなどを持ち、映像製作上の技術提供を生業としているのだと思う。

そのクロスコさんが最近つくったというスタジオを訪問した。スタジオといっても撮影用ではなく編集用のもの。編集機材とナレーションどり、音声をミックスするMAもできる。撮影用ではないし機材も大仰なものではなくて、大きな部屋ではない。

でもそこには、最新の機材があるという。

これが面白く、まさしく“ソーシャルクリエイティブ“にうってつけなのだ。

大げさに言うとバーチャルスタジオ、かな?

スタジオは2つの空間に分けられている。それぞれ、畳で言うのもなんだけど、6畳程度だと思う。

奥の方の空間はナレーション録音が出来るよう、マイクが置いてある。だがなぜか、座ると後ろにグリーンの大きな布が置いてある。


こんな感じだ。

映像に携わる人なら、このグリーンの背景を見ると、ははーん、と気づくだろう。そう、これは合成用のグリーンバックなのだ。

これをスタジオの画像と合成すると、こうなる。

わかる?

このスタジオみたいに見えるのは、バーチャルなもの、つまりCGでつくられた画像だ。

座っているぼくの映像と合成すると、ぼくが本格的なスタジオにいるように見える。

これは面白い!

この背景の画像はいろんなパターンがあるそうで、簡単に切り替えられる。

例えば、こんな感じ。重ねて言うけど、ぼくはこんな大きな空間にいるのではなく、さっきの写真の小さな部屋で、緑の布をバックにちょこんと座っているだけ。なのに、大きなスタジオにいるみたいだ。

あるいは、別の動画を見せながら、ワイプで顔を出すこともできる。

また、PCの画面を映し出したりもできる。当然、Twitterのタイムラインも見せられるね。

地上波の立派なニュースショーに引けを取らない、と言いたくなるくらいの“クオリティ“の見え方。こんなことがこんな小さなスタジオでできちゃうんだから、テクノロジーって素晴らしいね。

しかも、スタジオ料金も超リーズナブル!具体的に知りたい方いたら、メールくれたらお答えしますよ。

で、このスタジオは“ソーシャルクリエイティブ時代“に向けてつくられたもの。例えばネット配信に使うと、”いつものUst映像“が地上波テレビの立派な対談番組にひけをとらない感じで見せることができる。そしてもちろん、地上波テレビで流す映像を、格段にローバジェットで制作できるだろう。

だったら、こんなこといいな、できるといいな的にいろんなアイデアを巡らせて使い方を考えてみるといいと思う。予算をかけずに何か面白いことできるのかも。

一方で、ヒカキンTVの話を聞いた。

この若者が、商品のプロモーション映像を請け負って制作しているのだそうだ。簡単に言うと自宅とおぼしき部屋で商品を使ってみたりしてしゃべるだけ。でも面白いし、再生数もかなりの数になっている。

これもソーシャルクリエイティブと言えるのかもしれない。

概念的に書いたことが、実際に起こりはじめているよ。なんか、いろんな意味で、アセるなあ・・・。

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2013春ドラマ追跡分析(4):『ラストシンデレラ』は萌えているか?『ガリレオ』は燃えるだろうか?

春ドラマもそれぞれクライマックスを迎え、次々に終わっていく。ドラマ好きとしては寂しいけど、また新しいのも楽しみではある。

さて前回の「2013春ドラマ追跡分析(3):Twitterで抜いたら視聴率も抜くのか?」に続いて分析その4。このシリーズもクライマックスを迎えているよ。前回は視聴率とツイート数の相関性を見てみたけど、今回は放送中のツイートに絞って分析してみよう。

このクールは何しろ、『ラストシンデレラ』が話題の的だった。視聴率がほとんど上がり続けた。最終回は17.8%となったというから大したものだ。口コミ(ソーシャルだけでなく)が牽引したのはどうやらまちがいなさそうだ。それに加えて録画習慣の変化も関係しているのではないかという推測を“あやとりブログ“にこないだ寄稿した。

ここでは、『ラストシンデレラ』と、ある意味好対照となった『ガリレオ』を前回に続いて取りあげる。

まずはいよいよ最終回の『ガリレオ』。最終回ではなくラス前の第10話のツイート推移を見てみる。最終回に向けてツイートは期待感を持っていたかを見てみたいのだ。

中盤にちょっとした山ができて、最後の方でまた山になっている。これだけ見ると、ツイッターでそれなりに盛り上がったように見えなくもない。ただ、いちばん盛り上がったのはKARAのハラが出てきた時と、土曜プレミアム『ガリレオXX』告知について、である。最後の方では前後編であることに対するものなどだった。

一方、『ラストシンデレラ』の同じくラス前、第10話の放送中のツイート推移を見てもらう。

こちらは、はっきり最後の方で盛り上がっている。内容も「きゅんきゅん」とか「やばい」とか「泣ける」など気持ちを示すものが多い。

しかしこうやってバラバラに見ると、それぞれ盛り上がってるように見えなくもない。そこんとこはっきりさせるために、グラフを重ねてみた。

どうだろう?ありゃりゃ?と思えてくるんじゃないかな。

グラフの水準を合わせてみたのだ。絶対数として、同じ基準でグラフにしてある。最後の方ではっきり違いが出ている。ぶっちゃけ、『ラストシンデレラ』は最後に向かって盛り上がっているのだ。

このちがいをもっとくっきりさせてみよう。ここまでのグラフはどれも、“ツイートの数“で、つぶやきの中身は問わなかった。

このブログではこれまでも何度か”感情分析”を試みてきた。ツイートの中身を「見える化エンジン」という分析ツールにかけてみる。ツイートの中で感情を表明しているものを抽出して割合を出したりしていた。

感情を「好意好感」「高揚興奮」「否定」の3つに分け、それぞれを示す表現を含むつぶやきを抽出するのだ。

そしてドラマについて視聴者が盛り上がる時、とくに「高揚興奮」を示すつぶやきの数が増える傾向がある。そこで先ほどのツイートの中でそれに当たるものを抽出して2つのドラマを比べてみた。

先ほどのツイート件数の推移よりさらに違いが明確になっている。これを見ると、「ガリレオ』の方では、視聴者があんまり“興奮“していないのがよくわかる。一方『ラストシンデレラ』ではまさしく視聴者が“興奮“している。『ガリレオ』で唯一盛り上がったのは遊川先生が子供が苦手なことからくるコミカルなシーン。そこだけだ。

こうして見ると、『ラストシンデレラ』の方は、最終回が楽しみだという反応がツイッターではっきり見受けられた。それが最終回の17.8%となって現れた。

だとすると『ガリレオ』はどうなるのだろう。推して図るべし、というところだが、ひょっとするとこれはひょっとするのかもしれない。『ラストシンデレラ』ではラス前が16.1%で最終回が17.8%と大きく上がっている。『ガリレオ』の方はラス前が18.2%だった。すると果たして最終回は・・・?なーんてことを気にしながら、今晩じっくり見てみるといいんじゃないかな?

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オープンセミナー事前解説(+NHK技研公開レポート):テレビはWEBで飛躍できるか?

NHK技研公開に、ひと足お先に行ってきた。

技研公開とは、砧にあるNHKの技術研究所が年に一度、開発している技術を一般に公開する催しで、今年は5月30日から4日間行われる。この28日はプレス向けの限定公開の日で、それに乗じてぼくも呼んでもらえたという次第。うらやましかろ?

去年もそうだったけど、今年はいよいよ持ってハイブリッドキャストがメインだった。ハイブリッドキャストとはNHKが開発中の技術で、スマートデバイスとセットでテレビを楽しむ様々な技術の総称だ。

そのハイブリッドキャストがいよいよ、今年は本格スタートする予定らしい。対応したテレビのハードも次々に出てきそう。

今日展示されていたデモンストレーションでさえも数多くの機能があり、テレビの視聴をあれやこれやと変えてくれそうだ。

ぼくが驚いたのは2点ある。

1点は、下の写真を見てほしい。

画面に何か載っているでしょ?ハイブリッドキャストで呼び出された情報が番組の画面に乗っかっている。こういう状態を“オーバーレイ”という。

オーバーレイはニコ動世代からすると見慣れたものかもしれない。でもテレビ画面にどんと映し出されると驚く。ギョーカイ村のしきたりを知ったものからすると、「なんということをするんじゃ、掟を知らんのか」と言いたくなる。

テレビ界は、オーバーレイなど持ってのほか、なのだ。

なぜならば、プロが作った素晴らしい作品が汚れてしまうからだ。そして、CM放送中にCM見られなくなったらあかんやんか、というのもある。

テレビとネットの融合の話題がこのオーバーレイに立ち入ると、それまで大人しく聞いていた年配テレビマンが突如怒りだしたりする。そういう、テレビで生きてきた人の生理を刺激してしまう微妙な領域がオーバーレイなのだ。

それくらいナーバスなオーバーレイを、NHKがさらりとやっちゃおうとしている。面白いじゃないすか。

もうひとつ、この写真を見てもらおう。

ハイブリッドキャストでは、番組表を表示する機能もある。そして(まだこれからの検討次第らしいのだが)過去30日間さかのぼって表示できる。

な、な、なんだって?

みなさん、地デジ対応テレビを持ってるなら、どこかに番組表を表示する機能があるはずだ。レコーダー持ってるなら100%の確率で表示できるでしょう?

試しにやってもらうとわかるのだけど、過去の番組は表示できない。

なのにNHKは番組表でも我が道を往くがごとく、過去番組をさかのぼって表示できるようにするのだ。

しかも!過去の番組がリスト表示されるとNHK On Demandのその番組の掲載ページに飛べる。「八重の桜」の過去の放送をたどっていって、そうだ第3話だけ見てなかった、と思ったら即再生できる。なんと便利なんだ!

こんな技術が今年中には利用できるようになるそうだ。なんとも楽しみじゃないか。

NHKがテレビ業界のもやもやした壁を打ち破っていきそうだ。打ち破る時の武器は?もちろんWEBでしょ!ネットでしょ!

ここで突然、話は変わるけど、6月5日にやりますとここでさんざっぱら書いてきたソーシャルテレビ推進会議の一周年オープンセミナー。第一部だけ、モデレーターとして中山さんの名前があるだけで、ゲストは交渉中だった。いま見てもらうと、あ!いつの間にか、ゲストの名前が書いてあるじゃないか。

NHKの石倉さん。彼は編成マンだが、一方でNHKのネット戦略も担っている。そして日テレ安藤さん。ご存知JoinTVの男だ。

お二人に、テレビの武器はネットだね、という話をしてもらう。ハイブリッドキャストやJoinTVはその好例だが、今回はもっとちがうところを語ってもらう。これからさらに取り組むべき領域。あるいは、ハイブリッドキャストが突き崩したように、これまでの掟を突き破ることでこんなことできるんじゃないか、というような話題。

それにどうやら、何やら発表もある気配。ひょっとしたら第一部がもっともラディカルな話題になるかも。

そんなオープンセミナー。定員150名埋まっちゃったけど、立見枠も用意したんで興味あれば、参加してください。