ノマドという職種は存在しない

安藤美冬という女性が物議を醸しているなあと思っていたら、ついに切り込み隊長のアンテナに引っかかってしまったわけで。

「【号外】安藤美冬女史@ノマド女王がマルチまがい商法のフロントだった件について」と題したブログ記事が話題になったのはとっくに知ってるよね、みなさん。

ぼくはこの女性のことは気になっていて、というか大丈夫か、この子?と危惧していた。

これもみなさんとっくの昔に知ってるぜ、って話かもしれないけど、ぼくがいちばん驚いたのは彼女のブログの中の「フリーランスのセルフブランディング―名刺、住所、服装、場にもこだわろう」という記事だった。

曰く・・・

「クリエイティブな仕事をされているのに、足立区」

なんていうのじゃ、もったいない。

ぼくはこれを読んだ時、ドッカーンと驚いた。これはバブル時代の人の言うことだ。ぼくらは実際に20年前あたりはこんなことを言っていた。90年代まではまだ残っていた感覚かもしれない。少なくともリーマンショックでこんな感覚は業界中から吹っ飛んだ。なのに、いまの若者がこんなこと言うの?!

そもそも彼女の”危うさ”は、「でさあ、君は要するに何者なの?」が終始はっきりしない点だ。”ノマド”としきりと言うのだけれど、ノマドとはワークスタイルの話であって職業ではない。んなのわかってるわよ!と言うのかもしれないけど、彼女の活動をみていると「私は会社に所属せずにフリーランスで生きてます!」ということでしかないみたいなのだ。大手出版社を辞めてフリーランスで生きててノマドノマドと言っているカワイコちゃん・・・そういう人なのだ。そういう人でしかないのだ。何が出来る人なのかは皆目見えてこない。フリーランスの女性の生き方やそのためのコツみたいなことを人前でしゃべったりできます。それが”安藤美冬”から受けとめられる事柄。

まず、ノマドというのは”働き方”であって、生き方や思想ではない。いやもちろん、働き方から派生的に哲学めいた要素は出てくるが、それは副産物であって本体ではない。そこにまず注意しよう。

佐々木俊尚さんの『仕事をするのにオフィスはいらない』という本がある。副題がついていて「ノマドワーキングのすすめ」となっている。クラウドサービスが多様に出てきて、オフィスがなくても働けるようになってきた。これから終身雇用もなくなるだろうし、会社とは契約関係でドライになりつつ、どこでも働けるようなスタイルを身につけた方がいいかもよ。そんな考え方で、ものすごく具体的にそのワークスタイルの実践法が書かれている。

これは『ネットがあれば履歴書はいらない』とセットで、”会社の前に自分がしっかりいればいい”という考え方をベースにした著作だ。ぼくはこれらに強く影響されたし、実際に実践した結果が”境塾”だの”ソーシャルテレビ推進会議”だのだったりする。

安藤美冬も、そうした流れで似た考え方を実践しているようには見える。でも、彼女は手段が目的化しているようなところがある。ノマドワークスタイルで○○○をやります!ではなくて、ノマドを実践しています、どうですか?イケてますか?それだけを主張している。ノマドとなってみんなに訴えていることは「みんなもこうすればノマドになれますわよ」ということでしかないみたいだ。

アラフィフのおっさんがなんでこんなに彼女のことを事細かにネチネチ言うかといえば、”気持ちはわかる!”ってとこあるからだ。だからこそ、浅はかさが見てられない。

ぼくは87年に広告代理店に入ってコピーライターになった。コピーライターになりたくてなったのではなく、何か表現を生業にして会社に所属せずに生きるにはどうしたらいいか、と模索した結果、そうなったのだ。模索はカッコつけすぎか。なんか会社とかイヤだなあ、とぶつくさ言いながらごにょごにょ就職活動した結果、コピーライターになった。なんかこの職種はフリーランスがありらしい、だって糸井さんもそうだしさ!よし!フリーになる!いつか!そのためにはまず、東京コピーライターズクラブ、通称TCCの新人賞ってのをとらないといけないらしい。うん!がんばる!

6年間七転八倒して、92年にTCC新人賞をとった。やた!ってんで、93年にフリーランスになったのだった。

当時はノマドなんてカッコいい言葉はなかった。でもぼくも、フリーランスになることが目標だったのだ。だから安藤美冬をさほど笑えない。

でも、コピーライターとしての下積みと実績はあった。そこはかなりちがう。それから、コピーライターにはフリーランスの人もいるよね、そういう人に依頼することはよくあるよね、という商慣習というか業界文化があった。

そこが圧倒的にちがう。

当時、フリーランスのコピーライターには業界ニーズがあったのだ。業態として”コピーライターがフリーランスで広告コピーを受託すること”が十分成立していたのだ。

フリーの人に発注するのがあり、という業界慣習があって、初めてフリーランスは成立する。そこんとこ、ノマドノマドという若い人にはわかっといた方がいいよ、と言っておきたい。フリーランスが成立する職種ができないと、フリーランスではやっていけない。さらに、何らかの実績がないと、やっていけない。

安藤美冬は、ぼくには「私はフリーランスのフリーランスです!」と言っているようにしか見えないのだ。それは浅はかだった20年前の自分を見ているようで恥ずかしいのだ。だってぼくも20年前に、上に書いたようなことわかってなかったもん。わかってなかったくせに、勢いで会社辞めてフリーランスになって同じ年に結婚し翌年に子供も出来た。・・・よくいままで生きてこれたもんだなあ。

ぼくたちは”大きなおカネの流れ”の中で生きている。おカネの流れがないところでビジネスはなかなかできない。おカネの流れがない場所では、おカネの流れそのものをつくり出すくらいまでやらないと、ビジネスにならないのだ。

弁護士とか、司法書士とか、税理士とか、社会保険士とか、”士”業が成立するのは、それぞれの手続きを資格持ってる人にアウトソーシングするのが普通だよね、というおカネの流れが出来ているからだ。実は、会社設立でも、税務申告でも、社会保険料の算出も、やろうと思えば自分でできる。実際、ぼくは有限会社にしていたので、けっこうな部分を自分でやった経験がある。制度を知る上では勉強になった。そして、あまりにも制度が複雑なので、依頼した方が効率的だとわかった。そういう風に、できているのだ。

広告制作業界も、フリーランスが成立している。WEB関連、システム開発、アプリ開発なども同様だろう。いまノマドが言われているのも、WEBやIT界にそういうニーズができているからなのだと思う。

他の世界では”フリーランス”はなかなか成立しにくいと思う。”起業”になってしまうだろう。とくに日本は、どの業界も”ゼネコン構造”だから。ゼネコン構造というのは、大手が一時受注者となり、その下請け孫請けで業界構造ができあがっている状態を言う。広告は電博かADK、システムは富士通かNECか、そんなことになっている。

アメリカは、ワイデンさんとケネディさんが素晴らしいクリエイティブを提案したので何十億のビジネスをどっかんと発注したりする。新陳代謝が起きやすい文化ができている。

日本は、少し前までは十数社で受注を分けあう談合社会だった。よそ者が入ろうとすると一致団結して排除した。新陳代謝はほとんど起こらず、業界全体、社会全体が古びてしまっていく。それでも排除し続ける。そういう社会だ。

ノマドというワークスタイルはだから、そういう社会へのアンチテーゼではある。何をするにも、会社会社ですか?会社の前におれがいる、ってんじゃダメなんですか?これからはもういいんじゃないですか?やっぱりそういう哲学が副産物としてながら、含まれているのはいるんだ。

アンチテーゼだからこそ、しっかりしてないとまずいのだと思う。芯がないノマド、ノマドのためのノマドになっちゃうと、すぐにへなへなになっちゃう。だから何かにすがりたくなりもするだろう。でもそんなんじゃアンチテーゼにはならない。

会社なんて関係ない。会社の前に自分がいる。だから、会社員でもいいし、そうじゃなくてもいい。本来のノマドとは、ノマドにやっぱり思想があるのなら、そういう姿勢であるべきなのだ。ノマドはワークスタイルに過ぎないのだから、会社員であるかどうかは意味がないのだ。会社に縛られない生き方をするからこそ、会社員でもいいのだ。もちろんフリーランスでもいいのだ。どっちだっていいのだ。

もしあなたが、会社を辞めようというのなら、そこんとこ、もう一回振り返ってみよう。いつかフリーランスになるぞ!と思ってるなら、そこんとこ、ちゃんと自分に聞いておこう。わかってる?何が出来るかわかってる?そこに”おカネの流れ”は見えてるの?そして、会社を辞めるために辞めてない?ノマドをやるためにノマドになろうとしていない?

あれ?えーっと・・・と、自信がなくなってきたら、自分に言い聞かせよう。ノマドはワークスタイルにすぎない、よね?と。若い人はとくにね。じっくりね。・・・いやホント、言えた義理でもないんだけどさ・・・

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