ミドルファネルの喪失、という広告の大問題

ファネル
ファネルとは「漏斗」のことだ。広告コミュニケーションを組み立てる上で、まず商品を認知させ、興味関心を持ってもらい、比較検討してくれて、購入にいたるよう設計をする。初めは広い間口から徐々に人数が絞られていく逆三角形が漏斗のようなので、ファネルと呼ばれる。パーチェス(購買)ファネルとか、マーケティングファネルとか、様々に呼ばれるが基本構造はどの呼び方をされても同じだろう。

上の図のように、一昔前のマスメディア時代は主にテレビが認知の役割、新聞雑誌が真ん中の興味関心、比較検討を受け持ち、最後に店頭で購入する、と解釈できた。クルマで言うと、テレビCMでプリウスというクルマがありハイブリッド車という発想なのかと認知し、新聞広告でその考え方や構造を知り、クルマ雑誌の広告でもっと具体的なスペックを知り、販売店に出かけて購入する。そんな流れになる。すべての商品ですべてのケースがこうなるわけではないし、その間にパブリシティも微妙に関与するので実際はもっと複雑だが、簡易化すればこうなる。基本的な考え方と思っていいだろう。

ところがこのファネルが今、崩壊している。具体的には、ファネルの真ん中が消し飛んでいる。そのことを「ミドルファネルが失われている」との言い方で最近表現されているようだ。

というのは、新聞と雑誌の紙媒体が前より読まれなくなり、広告コミュニケーションから外されているのだ。昔は新製品発売時にテレビスポットを打ち始め、その当日に新聞15段広告を打ち、それ以降各雑誌に広告が出る、というのが常識だった。でも今は新聞雑誌の読者が激減してしまった。もうコミュニケーション設計の中にファネルの真ん中がなくなってしまったのだ。
ミドルファネル喪失

ところが、ここが大問題なのだが、このミドルファネルの喪失を多くの企業が真剣に気にしてこなかった。この10年間ほどかけて進行したこの「喪失」を、他の手法で埋めることなく、何の対策も講じられないまま企業も広告業界もやってきてしまった。今になってようやく多くの人びとが気づき、話題に上るようになってきたのだ。

ミドルファネルがないままだと何が問題だろう。もちろん、認知と購入だけで済むこともままある。100円程度でスーパーなどでたくさん売られる食品や飲料などはないならないでいいのかもしれない。実際、新しいビールが出たのをテレビCMで知って近所のスーパーに置いてあれば、一度飲んでみるかと手を伸ばすかもしれない。それでいいなら、それでいい。

ただ、その手の商品もミドルファネルがないままだとコモディティ化してしまう懸念はある。ペットボトルのお茶で「おーいお茶」と「生茶」と「伊右衛門」と、どれにしようか真剣に悩む人は少ないのではないか。「どれでもいいか」とぞんざいに選んでしまうだろう。「どんなブランドか」興味関心を引くプロセスがなくなってしまったからだ。

2年前の春、クルマを買い換えた。それまでムダに外車に乗ってたのを、息子も免許を取ったし国産のハイブリッド車にしようと思った。ところが、テレビCMでいくつかの車種の認知は頭にあったものの、比べて選べるほどそれぞれの車種のことを知らない。そこでネットでいろいろ検索することになる。だがあまりにも情報が溢れていて、かえってわからなくなってしまった。10年前までなら、ある程度の車種の知識やイメージは自然と頭に入っていた。新聞雑誌広告を通して見るともなく見ていたからだ。自然にメディアを読んでいると接触するのが広告の効果だ。だが今の私に、テレビCM以上にクルマの情報に接する機会は皆無になっていたのだ。ネットで検索したら途端にあらゆるメーカーのクルマのバナー広告がしつこく出てきて嫌になった。今の広告コミュニケーションは自然と買いたくなる流れができていないどころか、嫌いになるために設計されているとさえ言える。

ミドルファネルが失われていることを、最初に指摘したのは私の知る限り、JIAA日本インタラクティブ広告協会が作成した「ネイティブ広告ハンドブック」だった。当時の騒動も含めてそのことを書いたブログ記事がこれだ。
「ネイティブ広告ハンドブック」はライターなら読み込んだほうがいい。それがなぜかを解説しておく

2016年11月に書いたものだが、今もハンドブックのURLは生きているのでぜひ読んでもらうといい。「態度変容」もキーワードで、今の広告の課題が理解できる。

さて「失われたミドルファネル」はどうやって埋めるべきか。一つの答えがネイティブ広告なのだが、私が新著「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」で書いているのは「情報発信とSNSによるコミュニティ」という回答だ。

ミドルファネルにコミュニティ

とりわけ新しいことを言っているわけではない。今はテレビCMを展開することと、SNSやネット媒体で話題作りを行うことが並行して行われていると思う。ただ、コミュニティ形成と定義して、ファネルの真ん中に置くことがポイントだと考えている。ネットでの話題作りをどう役割づけするか。ネットで話題を作ると商品に注目が集まるから、という程度では見誤るのではないだろうか。その話題作り、商品への注目集めを、ファネルの中で捉えることで、見えてくるものがある。最たるものが予算だ。新聞雑誌をミドルファネルに置いていた時代は、テレビの予算の半分以上を使っていたはずだ。ということは、今も「ネットでの話題作り」に新聞雑誌に投じていたのと同じくらい予算を割いてもいいはずだ。

ところが、ネットでの施策はなぜか大きな予算投下に躊躇する。「でもネットでそんなに?」と腰が引ける。ネットには大きな予算を使うものではない、という根拠のない常識が蔓延してしまったからだ。先日取材した、ある成功例を持つ企業のマーケティング部門の方は、「テレビと同額をネットに使います。新聞雑誌はゼロです」と言い切っていた。

私が今、皆さんに大きな声で言いたいのはミドルファネルの喪失を、コミュニティ形成で埋めるべきということと、そこに過去の新聞雑誌くらいの予算を投じるべきだ、ということだ。

そんなことを話すセミナーが4月16日に開催される。日本マーケティング協会の主催で、前半は私が上のような講演をし、後半では電通メディアイノベーションラボ統括の奥律哉氏をゲストに、インテージ深田航志氏をモデレーターにディスカッションを行う。もし興味あったら来てください。ちとお高いけど、連絡くれれば会員価格で参加できるようにします。

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→日本マーケティング協会:4/16「境治氏出版記念セミナー」申し込みサイト

 
 
 
 
 

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