「ネイティブ広告ハンドブック」はライターなら読み込んだほうがいい。それがなぜかを解説しておく

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ネイティブ広告ハンドブックは、JIAAが会員社に配布するために作成された
11月9日から10日にかけて「ネイティブ広告ハンドブック」について、とても残念な盛り上がりがソーシャルメディア上で展開された。とくに10日はヨッピー氏のブログが多くの人に拡散されたことで「祭り」状態になり、やじ馬根性で参加した人びとも含め盛大なことになった。

私はここで、誰がどう言ったからどこがいいだの悪いだのを書くつもりはない。ただとにかく、この騒動が原因でなぜか多くの人がこのハンドブックを、馬鹿にしていると言っていいレベルまで揶揄しているのが残念でたまらない。私はJIAAの人間ではないが、この団体がネイティブ広告について地道に努力してきたことを遠目で見てきた者として、みなさんに伝わっていない事実と考えを書いておきたい。

まずJIAAはインターネット広告に関する業界団体だ。そのWEBサイトを見ればどんな団体かがわかると思う。
→JIAA WEBサイト

会員社は電通や博報堂のような総合代理店からサイバーエージェントなどのネット専業代理店、そしてヤフーのようなWEBのプラットフォーム事業者、新聞社、雑誌社、ハフィントンポストなどのWEBメディアといったところだろう。広告主企業は入っていないので、ネットでビジネスを行う代理店とメディアの団体と言っていい。

そのJIAAはこの二年間に渡りネイティブ広告を研究してきた。その成果は、時折開催するセミナーで会員社に共有している。そのプロセスはこのページで公開されている。
→JIAA「ネイティブ広告に関する活動」

私は取材と称してセミナーに潜り込ませてもらい、できる限り参加してきた。ネイティブ広告はこの二、三年で急浮上した概念で、事例や実績が少ない段階から多少発展したこれまでの間、日本での研究の最先端をJIAAは走ってきた。そして研究するメンバーは、講談社の長崎亘宏氏をはじめ、手弁当で作業を進めてきている。言ってみればボランティアだ。

今年の10月19日のセミナーでは、これまでの研究のまとめ的な場として様々な成果が発表された。同時に、成果をいったん、冊子にまとめて会員社に配布することが告げられた。セミナー参加者には当日配られたので、私も会員でもないのに受け取ることができた。冊子は会員社に配布されるとともに、会員社以外でも広告に関係する企業なら読めるように後日PDFでWEBに置かれることも告知された。

何しろ手弁当で、書き手は広告関係の人たちだがライターではない。別の職種の人びとだ。だが成果をきちんと理解できる文章にまとめてくれている。読む対象は、会員社もしくは非会員社でも広告業界の人びとになる。専門用語が自然と多くなっているが、配布の対象者ならもちろんわかる単語ばかりだ。知らない単語があったら自分で調べるだろう。そういう種類の文章だ。

さて、ここで私が残念に思っているのは、こうした経緯はまったく知らされないまま、この「ネイティブ広告ハンドブック」の存在が拡散されてしまったことだ。あくまで会員社に、紙で配布するために作成された。PDF化は二次的なものだし印刷して紙で読む前提だ。読む対象は広告業界のネイティブ広告に関心を持つ人間だ。それなのに、「スマホだと読めない」とか「読みにくい」とか「消費者も読めたほうがいい」とか、まったく筋違いのツイートがどんどん拡散されていった。なんと馬鹿馬鹿しく、無意味な現象だったろうか。

この冊子を、業界外の人間が読みにくいというのは、批判にも何もなってない。意味がないのだ。文章が下手だとか難解だとかのツイートもたくさん見た。プロのライターではない人びとが手弁当で書いた文章を、「下手」とののしる的外れぶりと言ったらない。それに読みにくいと私はまったく思わない。下手でもない。論文調なのは、ハンドブックとして、できるだけ正確に書こうとしているからだ。勘違いにもほどがある言葉が、このハンドブックに浴びせられる様子を、私は本当に見ていられなかった。事情も知ろうともしないでみんながけなしてる流れに乗ってひたすらけなす。それこそが上から目線だ。書いたのは、当然実績ある方々ではあるが、重鎮たちとか、先人たちとか、そういうことではない。私たちの仲間だ。仲間が業界のために業務時間外でがんばってくれた成果を、まったく関係ない人びとがやーいと囃しながら揶揄する。しかも大きな見当違いをしている。壮大なる馬鹿馬鹿しさに、私は一日中あきれ返っていた。

お金をきちんと稼げるようになりたいライターは、この冊子を熟読したほうがいい
もうひとつ、残念なことがある。この冊子は、広告業界向けに書かれたものだ。だがWEBでメディア運営やコンテンツ制作に携わる人びと、中でもライターを生業としている人は、読んだほうがいい。自分は広告業界に関係ない。そう感じている人も、ライターなら読んだほうがいい。いずれ関係する可能性が高いからだ。

私は80年代からコピーライターをやってきたロートルだ。そして最近はWEBを中心にライターも生業としている。いくつか連載を持ち、原稿を依頼されることもあり、Yahoo!個人でも書いている。つまり、両方の立場がわかる。

90年代までは、広告の文章を作成するコピーライターと、雑誌などに原稿を書くライターは、まったくちがう世界でやってきた。接することが少なかったし、仕事のやり方も全然ちがった。

それが00年代になりWEBが活性化するとその垣根がやや下がった。そしてこれから、ネイティブ広告が活発になればなるほど、いよいよ垣根がなくなるだろう。現にいま、起こっていると思うが、ライターに広告としての原稿作成の依頼が出てくる。それがネイティブ広告だ。

ハンドブックにある「スポンサードコンテンツ」もしくは「ブランドコンテンツ」と分類される広告では、テキストが非常に重要になる。こうしたネイティブ広告をライターが依頼されるようになるだろう。そして、傾向としてはふだんWEBメディアから記事として原稿を依頼されるより、企業の広告予算から広告として依頼される原稿のほうが、おおむねギャランティが高い。だから、ネイティブ広告についてライターは学んでおいたほうがいいのだ。

あんなめんどくさい冊子なんか読まなくたって原稿なんか書けるよ。企業からの依頼だってできるさ。そう思うだろうし、そうだと思う。だが、広告としての理屈、その原稿がどういう役割を持つかなど、理論的な側面を知っておいたほうがいい。ハンドブックにはそうしたことが書いてあるのだ。

理屈を知ると何がいいのだろう。スポンサーの意見に理論的に答えたり、全体のクリエイティブをディレクションできるようになる。企業や代理店から信頼され、頼りにされるとギャラがもっと上がる可能性が出てくる。ディレクションもできれば確実に上げられる。

また、広告として原稿を作成すると、企業側や代理店が、こちらの意図しない指示や要望を出してくることが多い。そういうことに対して「なぜこの方がいいか」を説明できる。論理は立場を時に凌駕する。スポンサー企業に言われたことをただ鵜呑みにするより、「いえ、この原稿の役割はかくかくしかじかなので、このままのほうがいいのです。」と言えた方が信用される。

書くことさえできれば楽しいんだ、変な理屈を学ぶのはカッコ悪いよ。それで通せるならそれでもいいが、往々にしていずれ損をする。ギャラが上がらなかったり、いつまでも不本意な要求を受け入れざるをえなかったりする。だったら学ぶべきことを吸収した方がいいだろう。

「祭り」の波に乗ってみんなと一緒になってハンドブックに石を投げて喜んだライターのみなさんは、そういう将来収入を増やすチャンスを自分で断ってしまったようなものだ。

ネイティブ広告の役割と、広告のミッシングリンク
さらに突っ込んだことを書くと、この冊子でもっとも大事な部分と感じたのがP28-31だ。もう疲れてきたのでいずれこってり書くが、簡単に言うとまずネイティブ広告の役割として「コンテンツが介在することによる態度変容」がある。これまでのネット広告は、すでに購入意向のある人に対するターゲティングだ。「あ、そうそう、これ欲しかったんだよね」とバナーを押して購入に至る。

ネイティブ広告はそうではなく、潜在層に対してコンテンツを見せることで「あれ、このブランドいい感じな気がしてきた」と態度変容を起こさせて購入に導く。こうして書くと、あれ?広告ってそもそもそういう役割だったよね、と気づく。
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それがミッシングリンクの話につながる。下のファネルを見てもらおう。(パーチェスファネルなどと検索すればファネルが何かはわかる)テレビCMなど主にマスメディアによる「認知」のあと、本来は「理解」「好意度向上」などのプロセスが必要だった。その上でバナーから購入にたどり着くはずだ。CMで知ったからっていきなり買わない、という話だ。

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ところがいま、真ん中の理解、好意度の部分が失われていた。なぜならば、新聞や雑誌の広告が前はその役割を果たしていたのに、いまやそれらがネットに吸い込まれており、新聞広告、雑誌広告で理解させたり好意度を上げたりができない。そこをミッシングリンクと冊子では言っている。

この部分は重要で、ここにいま気づくことは、オールドアドマンこそ必要だと思う。意外にみんなわかってないようだ。

そしてこれを考え合わせると、ミッシングリンクの部分をネイティブ広告で埋める際、クリエイティビティが求められることに気づく。そこには新しいクリエイターの舞台があるかもしれないのだ。

WEBで書くライターにとってもチャンスかもしれない。だって、態度変容をうながすコンテンツが必要なのだ。面白かったり、素敵だったり、時には知的だったり、そういうコンテンツを制作できるなら、楽しいじゃないか。そういう野心も、ネイティブ広告は乗せていけるのだ。

さて、いまからでも遅くはない。昨日は祭りに乗っかって、読みにくいだのマウンティングだのとからかったネイティブ広告ハンドブックを、ライターのあなたなら読んでみよう。一度読んでわからなかったら二度三度、わからない単語は調べたり人に聞いたりして理解できるまで読み込もう。そして、WEB広告を楽しくしてほしい。未開の世界だからこそ、荒野をお花畑に変えられるかもしれない。
→JIAAネイティブ広告ハンドブック2017PDF

それにしても、今回感じたのは、人と人の間にあるミッシングリンクだ。広告業界とWEBの世界の間も上の図同様すっぽり抜け落ちており、埋まらないかに思える。このミッシングリンクこそ、ネイティブ広告が埋めるのかもしれないが、そんな日が来るのだろうかと不安になった。

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