映画「スティーブ・ジョブズ」公開の日にやって来た男、アンソニー・ローズ~All About Zeebox(1)~

このブログで何度かに渡って告知してきた「ソーシャルTVカンファレンス2013」が11月1日(金)に無事終了した。プログラムはイベントページを見てもらえればわかるが、目玉はロンドンからZeeboxのCTOであるアンソニー・ローズ氏を招いてキーノートスピーチをやってもらったことだ。

この日は偶然にも映画「スティーブ・ジョブズ」の日本での公開日だった。コンピュータを通して世界を変えた男に、ソーシャルテレビの分野でメディア界に変革をもたらそうとしているアンソニーを重ね合わせてしまうのは無理があるだろうか。いや、分野の違いはあってもぼくには相似形に思えるのだ。アンソニーが開発したZeeboxには、そんな連想をしたくなる大いなる可能性が感じられた。

Zeeboxは英国でスタートし、米国と豪州でも展開しているソーシャルテレビ用のサービスだ。つまり、テレビを見ながら使うためにPCやスマートフォン、タブレットに提供されるもの。テレビを見ながら別のデバイスを使うことを”セカンドスクリーン”と呼び、そのためのサービスが各国で数多く登場している。Zeeboxはその中で最も成功しているもののひとつだ。2011年末にはじまったのに、すでに英米ではデファクトスタンダードになりつつあるのだから、そのスピードの早さは目覚ましい。

このブログ上でその詳細を数回に分けて紹介しようと思う。何しろ、ソーシャルテレビはこのブログ「クリエイティブビジネス論」がもっとも注目する現象だし、だからこそぼくが運営する勉強会「ソーシャルテレビ推進会議」でアンソニーを招聘したのだ。今回、直接彼のプレゼンを何度か聞いて日本で一番Zeeboxに詳しい人間になってしまったので、こってり語っていきたいと思う。

アンソニーがプレゼンで使ったシートの中で公開できる一枚をお見せしよう。このチャートを見てほしい。テレビ視聴者を数種類に分けたものだ。
図をクリックすると大きく見られる

縦軸が、テレビをよく見るかどうか。横軸がZeeboxへの興味度が高いかどうか。その上で、赤い枠でくくられたタイプがZeeboxの対象者だ。

このチャートが新鮮なのは、これまでテレビとソーシャルメディアの関係を論じる上で、こんな風に視聴者を分類したことはあまりなかったことだ。だが、テレビを見ながらつぶやく人々は視聴者のあくまで一部のはずで、このチャートではそこをはっきり示している。

テレビが大好きな人たちは”TV Mavens”と括られている。Mavenとは”達人”のような意味。彼らは例えばドラマの次のエピソードは見逃さないし、常に面白い番組を探している。でも番組を見ながらソーシャルメディアはあまり使わない。視聴に集中するからだ。比較的年齢層も高いそうだ。

そして”Pop Idols”。アイドルが好きな人たち。彼らは「アメリカンアイドル」「ザ・ボイス」のようなリアリティ番組を好んで視聴する。番組を見ながら積極的にソーシャルメディアを使う。そして見知らぬ人でも同じスターや番組を好きな人とメッセージを交わしあう。日本で言えばAKBやジャニーズタレントのファンたちがこれに当たるのだろう。

それから”Social Watchers”。彼らは番組を見ながらソーシャルメディアを積極的に使うのだが、見知らぬ人とはコミュニケーションしない。実際の知人友人と言葉を交わすのだそうだ。なるほどと思ったのだが、ぼくは少し前まではtwitterで見知らぬ人と番組を見ながら交流していたが、最近はFacebookで友人たちと言葉を交わすようになった。めんどくさくなってしまったのだ。つまりぼくはSocial Watcherなのだろう。

こうした人びととは別に、例えばニュースを中心にテレビを見る人、スポーツばかり見ている人もいる。また”Connected Multitaskers”と分類される人もいる。これはテレビはつけているけど他のいろんなこと、メールを書いたりWEBを見たり、テレビ視聴と無関係なことをマルチにこなす人びとだ。こうした人びとには、Zeeboxのようなセカンドスクリーンサービスはいらないのだと言う。

さてZeeboxはどんな機能を持つのだろう。まず”Discovery”、つまり番組を発見するためのTVガイドの役割。それから”Social”つまりソーシャル機能。そして”Information”これは情報、要するに番組を見ながら知りたいことがわかる機能。さらに”Participation”つまり番組への参加を促す機能だ。最後に”Shopping”これは番組と連動した通販機能だ。

こうして機能について詳細を書いていくと、サービスとしての便利さはわかっても、なんで最初にスティーブ・ジョブズの話をしたかはわかってもらいにくいだろう。だがソーシャルテレビの概念にはそもそも、テレビ視聴をもっと自由にのびのび”解放”するような理念めいたものが含まれている。少なくともぼくはそういう理念を込めてソーシャルテレビに関わっている。

アンソニーと話していると、やはりそこに理念を感じるのだ。電波を軸にした技術的要素にテレビはどうしても縛られてしまう。そしてたくさんの人に視聴されるけれども一方通行のコミュニケーションの枠組みからは出られない。それがソーシャルメディアと連携することで、電波による一方通行の窮屈さから脱却することができる。そこにはマスメディアの未来の姿が見えてくる。アンソニーの言葉のひとつひとつの奥底には、そんな思いが流れている。ぼくは直接彼の話を聞いて、強くそれを感じたのだ。

というわけで、あと数回、Zeeboxについて書いていく。ソーシャルテレビに興味のある人、そしてこれからのメディアについて関心を持つ人、コンテンツ制作とメディアが今後どうなるのか考えている人には、ぜひ読んでもらえればと思う。

またカンファレンス各パートの詳細なレポートをブログ「Film Goes With Net」でソーシャルテレビ推進会議の一員でもある杉本穂高氏が書いているのでそちらも参考にしてもらうといいだろう。

Film Goes With Net:ソーシャルTVカンファレンスレポート
事前レクチャー編
①:Zeebox創業者Anthony Rose氏のセッション
②:日本のユーザー参加型テレビ番組事例
③:テレビ広告の真(新)の実力を考える
④:どうなる?どうする?ソーシャルテレビ

コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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sakaiosamu62@gmail.com

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コメント

  1. Anthony Rose氏の図を日本に当てはめるとかなり、腑に落ちるところがありますね。つまり日本のデータとさほど差がないんでしょうね。日本だと思ったより、アニメとポップ・アイドルが混ざって多くのグループ「オタク」が大きいこと、Caual Middleがより大きいことでしょうか?

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