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コピーライター→映像製作会社ロボット→広告代理店ビデオプロモーション→再びコピーライター(フリーランス)。 メディアとコンテンツの未来を切り拓くコミュニケーションをデザインします。講演・執筆依頼もお気軽に!

テレビとiPadはどうなるのか?〜iPadから見えるコンテンツの未来・その23〜

この土曜日の夜は久しぶりに自宅で映画を見た。DVDではなく、VODで。東急ケーブルのVODサービスは相変わらずインタフェイスがわかりにくく、映画を探し出すのがすごく大変。けれども、『2012』が視聴できるのを発見し、じっくり見た。地球が崩壊する大スペクタクルはやっぱり大画面のテレビモニターだと見応えあるね。

映画が終わったのでテレビ放送をつけると、ワールドカップでウルグアイが韓国に勝ち越し点を入れる瞬間が見れた。うーん、すごいシュート。サッカーの試合をリアルタイムで見るのも、やっぱり大画面テレビの本領発揮。

さらにそのあと、録画してあった『チューボーですよ』を見た。今回はフルーツロールケーキ。日曜日につくってみようかな。料理番組も、大画面テレビがいいよね。

さてiPadについて書いてきた中に「iPad = LIFE STATION」と題した記事があったでしょ。あ、読んでない人いたら、ざっとでいいから読んでみて。とくに最後の方。この時の図でも、いろんなメディアがiPadの枠の中に入っているけど、テレビだけ枠の外に置いてある。

iPadは新聞や雑誌は呑み込みそうだ。リビングのソファでゴロゴロしながら、いままで新聞や雑誌を読んでた代わりにiPadで電子メディアを眺める。すると明らかに新聞をあまり読まなくなった。

テレビはどうか。うん、やはり視聴時間は減ったかもしれない。減ったかもしれないけど、iPadをいじりながらつけてあったりする。ワールドカップなんか顕著で、日本以外の試合もなんとなーくつけておいて、見るともなしに見ている。あるいは夜中に適当にザッピングしつつ、iPadでもニュースサイトをザッピング的に読んだりする。

そして最初に書いたように、VODで映画を見たり、スポーツ中継を見たり、録画した番組を見たり。そうそうそれから、ぼくはいい年こいてウイニングイレブンで遊ぶためにプレステをつけたりする。

映画や、スポーツや、ゲームなどのスペクタクルな映像は、やっぱりテレビがいい。iPadには向かないと思う。

だからテレビは安泰かと言えば、そうとも言えない。いままでのように放送された番組を見る時間はぐんぐん少なくなっている。最初に書いたぼくの使い方もまさにそうだったわけで。

一方でGoogle TVなんていうコンセプト映像も発表されたりしている。
Introducing Google TV

つまり、ここで言いたいのは2点だ。

1)iPadはテレビを駆逐しない。両社は並存できる
2)でもそれは多様な映像サービスのプラットフォームとして

つまり既存の放送形式でのテレビの使い方が大きく変わるということ。iPadはそれを加速させるだろう。

そう聞いてがっくりする?確かに既存のビジネスモデルはより一層危機に見舞われる。でも一方で、コンテンツの作り手には新たな機会も生まれてきそうだ。しかも、これまで番組を作っていた人も、広告をつくっていた人も、両方ともに新たな機会がもたらされる。しかも、両社は渾然一体となってきそうだ。

そのあたりを、ちょっとしばらく考えてみようかな・・・

iPadはぼくらのタコ壺をぶち壊す!〜iPadから見えるコンテンツの未来・その22〜

iPadコンテンツをどう作成するかについて書いてきて、CMSの例も紹介したりした。WIREDやTIMEをiPadで見た時、直感的にCMSだなこれは、と思ったのだけど、TIMEのWoodWingはまさしくそうだった。

CMSについてはまだまだ情報はあって、もう少し調べてからまた書きたい。

ところで、CMS=Contents Management System、と書くと大仰に受けとめたくなるけど、例えばこのブログサービスだって一種のCMSだ。この枠の中にテキスト入れてね、画像はこうやってアップロードしてから指定してね、そしたらこんな見せ方になるからね。テキストや画像などのコンテンツを一定のルールで管理構築する。それがCMSだ。

ブログはこんなにいろんな人が書いているこの国で、もっとちゃんとしたCMSを企業が導入するのは遅れていた。遅れていたのは、他ならぬコンテンツ業界で。コンテンツを制作する業界で、コンテンツを効率良くマネジメントするシステムがあんまり普及してなかった。どゆことやねん?!

実際、CMSは海外の製品がほとんどだ。欧米ではもうとっくに多様なコンテンツ制作にCMSが導入されている。ネットワーク製品ともうまく組み合わせて(というかCMSはサーバー込みで使うものだったりするし)パッパパッパとコンテンツを制作している。でもって、国をまたいでの制作なんかもぐんぐん進んでいる。

気がつくと、世界のコンテンツ業界のサーキュレーションの中で、日本だけが取り残されようとしている。

ハリウッドの企画をヨーロッパで撮影しポストプロダクションはニュージーランド、そしてCGの人海作業は中国で!そんなことがどんどん行われている。日本の連中も優秀だから使いたいけど、あいつらつながってないからさ。ここでいう”つながってない”とは、ネットワーク製品もCMSも導入してない上に、言葉も通じないから、つながってない、ってわけ。

何しろぼくらは、国内のコンテンツ業界でさえも細分化され、タコ壺化し、つながってなかった。そしてそれぞれが、伝統と歴史にのっとったワークフローで作業していた。交流なんて、してなかった。ほとんどまったく!

iPadコンテンツの作成を具体的に考えていった時、ぼくたちはそのことにようやく気づきはじめた。ぼくがiPadについて書きはじめた「iPadから見えるコンテンツの未来・その1」の中で言ったように”iPadはコンテンツのジャンル、表現の分類を無意味化する”のだから。これまでタコ壺化していたグラフィックデザイン、WEBデザイン、映像制作(その中でもCM制作と番組制作は全然ちがう!)といった各カテゴリーの叡知とノウハウを結集しなくてはならない。さらに、プログラミングだITだ、という人たちの力も必要だ。

ぼくたちはどうしてこんなにタコ壺化し、またCMSのようなITの導入が遅れていたのか?欧米では、そしていまや中国では、ぐいぐい進んでいたというのに。

ぼくはそこに、”この二十年間、この国はまったく進歩してこなかった”ことの鍵があると思う。

それは例えば、経営の不在、ということでもあるのだろう。IT化とは、社員全員がパソコンで仕事するっちゅうこっちゃろ?という経営層の体たらくぶりも大きかったのだと思う。システム導入といえば、大手にまかせりゃええんじゃろうが、だってうちは一流メディア企業じゃろうが、と、自分たちの思考をシステマティックにしようとはしてこなかった。そのつけが、いまに至っている。

でもそれだけだろうか?そうなのよ、上が悪いのよ、上層部がマヌケなのよ。そうかもしれないけど、それだけだろうか?

ぼくたち自身も、同じくらいぬるぬるやってきたからではないだろうか?

CMSを導入したりなどのIT化は、ワークフローの変更を迫る。言わば”働き方”を変えねばならなくなる。そしてどうしても、どこかに”おれたちが大事にしてきたこと”を無下に捨て去れ、と迫られる。働き方を変えるのはとても面倒なことだし、大事なことを捨て去るのはすごく傷つくことでもある。そんなのいやだ!そうやってぼくたち自身が、進歩を拒んできたのではないだろうか?そして結局いままで通りのやり方を守ってきて、”徹夜したおれはえらい!”と自分で自分に言い聞かせてきたのではないかな?

ぼくたちはいまiPadを前にし、ここでなにをやるべきか半ばぼう然としながら考えはじめた。考えはじめたことをつぶやいていると、気がつけばいろんな人たちが反応してくれる。なんと!その人たちは、これまで交流のなかったあっちの分野、こっちの世界の人たちだった。みんな同じようにiPadを前にして考えはじめている。なんだ、ぼくたちの世界は、なんと小さく広かったんだ?!ほんの数メートル、いままでより広くネットの中で歩き回るだけで、実に多様な人たちと問題を共有できるんじゃないか。

iPadによってぼくたちのタコ壺はぶち壊され、周りの海をつぶやきながら泳ぎはじめてみると、すっごく気持ちいい。タコ壺の中にいないと生きていけないと思い込んでいたけれど、なんだ、外に出た方がずっとのびのび生きていけそうじゃないか。

というわけで、iPadを片手にぼくはすーいすーいと泳いでいるよ。あ、そうなんだね、あなたも、タコ壺を出たんだね。ちょっと軽く、一緒に泳いでみる?

ワークフローを再構築する〜iPadから見えるコンテンツの未来・その21〜

今日は、昨日書いたProBridgeDesigner-iにつづいて、DTPboosterでもうひとつ紹介されたソリューション、WoodWingについて解説するよ。

WoodWingも、InDesignでの紙媒体の編集作業を、プラグインツールでiPadコンテンツもつくれるようにするものだ。そこは同じなんだけど、規模が違う、というのかな。まあ簡単に言うと、TIME誌の編集にも使われているシステムの総体。ああいうものを、紙とiPadと、ついでに言えばWEBでも、同じ作業から同時に生み出すためのもの。オランダの会社のソリューションで、日本では、ビジュアル・プロセッシング・ジャパンという会社が取り扱っている。

ProBridgeDesigner-iが、とりあえずプラグインでiPad化するぞ、というツールなのに比べると、出版社全体のシステムを再構築するんだったらWoodWingだ、と捉えればいいのだろう。

WoodWingはプラグインツールだけのシステムではないのだ。ここで何度か書いてきたCMS(Contents Management System)も含めたシステムソリューション。出版社全体でサーバーを共有し、画像やテキストなどをそこに放り込んでは、デザイナーが出版物として組立てていくためのもの。紙のものと同時並行で、iPad向けのものも作成していける。

WoodWingは、毎日新聞社のiPad写真誌『photo J』にも使われた。TIME誌と見比べると「言われてみればフォーマットが似ている気がする」と感じるだろう。だからと言って、WoodWingで作成するとみんな”似ている気がする”ことになるわけではないそうだ。『photo J』も今後、少しずつ進化するかもしれないし、WoodWingではもっともっと多様なフォーマットも可能。

ただ、CMSだからひとつのデザインフォーマットを持つ雑誌を定期的にスムーズに世に出していくために使う。最初に、どんなフォーマットで作っていくかを決めることになるのだろう。一度決めると、同じフォーマットでどんどん編集できる。その上で、定期的なフォーマットのリバイズをしていけるようだ。とは言え、”すぐに別のフォーマットで!”ってわけにはいかなさそう。システム全体をリバイズするわけだろうからね。

そうやって考えると、WoodWingは、それこそ出版社や、特定の雑誌の編集を任されているプロダクションに向いていると言えるだろう。

価格もそれなりにする。プラグインツールだけでなく、CMSと、サーバーなどにもかかるので、年間で百万単位のコストがかかるだろう。

ProBridgeDesigner-iも、”とりあえず導入しやすい”製品をめざしているので、プラグインツールと開発キットだけを提供しているけれども、コンスタントにiPad雑誌をつくるつもりなら、やはりCMS的な導入をすべきなのかもしれない。

別の見方をすると、特定の雑誌を任されているわけでもなく、スポット的にiPadコンテンツを作成したいのなら、両方ともよく考えた方がいいのかもしれない。導入しておいて、結局コンスタントに稼働しないのならば、宝の持ち腐れになりかねないからだ。

単発でiPad向けに何かをつくりたいのなら、あるいはいろんなパターンのものを作ることになるのなら、別の方法を検討した方がいい。まあつまりは、iPad用のプログラミングができる人材、あるいは会社と組むことだ。その場合は、プログラミング費用を相手に支払わねばならないだろう。美しい中身を作れるとしても、開発費をちゃんと予算に組み込んで取組む必要があるってわけだ。

そんなことできる人も会社も知らないって?だったら探せばいいんじゃない?DTPboosterでも主催者の方が言っていたけど、もうねえ、どんどん情報収集したり人と会ったりするしかないよ。文明開化の頃、西洋の技術はどうなってるんじゃろうのお?と思った人たちは、きっとどんどん人に会って情報を探して歩いたにちがいない。「誰かこれこれに詳しい人を知らんかのお?」と叫びながら歩いていれば、必ず誰かに行き着くもんだ。

そもそもぼくがここで、DTPboosterの直後に2つのソリューションの解説を書いているの、不思議でしょ?これは魔法でも何でもなくて、iPadを手に入れて以来、毎日どんどん情報収集していたら、たまたまDTPbooster前後にこの2つにたどり着いた、ってだけ。どうやらこの2つらしいぞ、と思ってたら、DTPboosterでそれが確認できた、という流れ。

みなさんも、自分でどんどん歩き回らないと、置いてっちゃうかんね。

さてところで、CMSというものは、iPadに限らず今後のコンテンツ制作ですごく重要なものになってくるぞ、と気づいた。そしてこの国のコンテンツ業界はそこがすごく遅れていたようだ。ここにはけっこう、奥深い問題が潜んでいるので、そのうちほじくり出してみようと思う。

はい、今日はここまで。いまのうちに言っておくと、明日は酔っぱらってしまうので、更新しないだろうなあ。ははは。たまにはね・・・

プラグインでiPad化できる〜iPadから見えるコンテンツの未来・その20〜

土曜日のDTPboosterでは、InDesignからiPadコンテンツをつくりだすいくつかの方法が紹介された。純粋な電子書籍、テキスト中心のものはePub形式のファイルにする。そしてもうひとつ、雑誌的なもの、画像もふんだんに使ったものについては、ProBridgeDesigner-iとWoodWingの2つのソリューションのデモンストレーションがあった。

で、今日はぼくから、前者のProBridgeDesigner-iについて解説するよ。

このツールは、日本の会社、プロフィールド社によって開発されたもの。詳しくはこのリリースを読んでみよう。同社はAdobe InDsignの様々なプラグインツールを開発してきた。

今回のProBridgeDesinger-iは、”既存のInDesignのデータをiPadコンテンツにする”ことをメインコンセプトに生み出されたもの。DTP業界のツールをサポートしていて、iPadに対応するにはどうしたらいいか、との相談を受けてのことらしい。

だから、これまで雑誌やカタログなどをルーチン的にInDesignで制作していたDTPの会社にぴったり、ということだね。

「電子雑誌はPDFじゃダメなんだよ!」の記事でぼくがさんざん書いたように、雑誌の入稿データ(=PDF)をそのままiPadに展開したものが現状は多い。そうすると、A4ページや、その見開きページをほぼA5サイズのiPadのモニターで表示せざるを得ないため、すごく小さな画像になり、文字なんか読めやしない。

もちろんピンチインアウトで拡大縮小はできるけど、それはユーザー本位の読ませ方とは言えない。ProBridgeDesigner-iはこれを解決してくれるのだ。

InDesignのプラグインとしてインストールしておき、画面の中の大きく見せたい部分を指定する。すると、その部分をタップすれば新たなウィンドウが起ち上がり、見やすいサイズで表示できる。

ピンチインアウトとタップで別ウィンドウと、そんなにちがうのかと思うのかもしれないけど、そんなにちがう。ピンチインはどこか「読みにくかったら大きくすれば?」とユーザーに強いている感じなのに対し、タップで別ウィンドウは「はい!みにくいところを見やすくしました!」というサービス感がある。そのちがいは、とても大きいと思う。

他にも、動画も載せられたり、アプリを閉じずにWEBを表示できたりする。よく知らなかったけど、InDesignはすでにインタラクティブな要素を組み込める仕立てになっており、それをiPad化するのを助けるプラグイン、ということのようだ。

もうひとつ、重要な点として、ProBridgeDesigner-iはプラグインでiPad用コンテンツを生成するけど、それを読み取るリーダーアプリを別に作らないといけない。このアプリが、サーバー上に置かれたコンテンツを読み取る、ということ。既存のアプリだと、Wall Street Journalが近いやり方をとっている。

そして、そのリーダーアプリも”開発”しないといけない。プロフィールド社ではそのためのキットも提供している。つまり、プラグインツールと、開発キットをセットで購入しないと意味がないのだ。開発キットでアプリを作るにはある程度のプログラミングの知識は必要だそうだ。

いろいろ調べてProBridgeDesigner-iにたどり着いた時、ひょっとしてこれは、紙媒体の入稿のように、制作作業だけでiPadコンテンツがつくれちゃうのかな?プログラマーはいらないのかな?と思ったのだけど、まあそんなわけはないね、と。

それでも、InDesignをメインで使っている編集プロダクション、デザイン会社だったら、数十万の投資でiPadコンテンツが作れちゃう。これはいちばん導入しやすい手法ではないかなと思う。

というのがProBridgeDesigner-iの概論。ぼくはDTPboosterの直前にこれを知ったので、会場でデモも見られていろいろと理解できた。もっと詳しく知りたければ、みなさん自分でコンタクトしてみてね。

という感じで、このあともわかったこと、続々お伝えしていきますよー

プラットフォーマーは他人に任せろ!〜iPadから見えるコンテンツの未来・その19〜

DTPboosterに行ってiPadでのパブリッシングについていろんなことがわかってきた。わかってくるほど、実際どうするよ、という問題が出てくるなあ。

日本語の書籍とePub形式にはまだまだ課題が多い。DTPboosterでは、Adobe InDesignからePub形式のファイルをつくる手法が説明された。もともとInDesignはePubでの書き出しができるのだそうだ。ただ、そのままだと思い通りの表示にならないので、ePub用のエディターで整える必要があるという。Sigilというフリーウェアがあり、いわゆるWYSWYGで操作できる。

その際に、多少WEB的な知識が必要。ここに、DTPデザイナーとWEBデザイナーのこれまでの知識の融合が出てくるわけだ。面白いけど、大変でもある。

そうやってePub形式でデータを作っても、いま現在はAppleの公式書籍アプリiBooksで売ることはできない。これがいつ日本でも販売できるようになるのか、全然わからない状況。iTunesでの音楽販売のように何年もかかるのだろうか?

一方、日本ではドットブック形式やXDMF形式の電子書籍を販売する動きが出てきた。日本電子書籍協会はiPhone上で読める本を売るパブリのサービスを開始。さらにはモリサワがMy本棚というiPhoneアプリを出して、そこでも本を売りはじめた。ダイヤモンド社も独自に開発した書籍リーダーを出しているし、『電子書籍の衝撃』のディスカバー21社はもともとiPhoneでのリーダーアプリを出していた。

ぼくはそれぞれで試しに1〜2冊ずつを買ってみたのだけど、こういう状態だとけっこう悩ましい事態になる。自分がどのリーダーアプリでどの本を買ったのか、さっぱりわからなくなるのだ。

電書協のパブリも、モリサワのMy本棚も、ディスカバー21のD21 Viewerも、iPhone上ではリーダーアプリのアイコンが表示されている。だから、それぞれのどこにどの本があるかわからない。一方でダイヤモンド社のものはそれぞれの本が単独のアプリとして表示される。だからわかりやすいけど、たっくさんあるぼくのiPhoneのアイコンの中から探すのは大変だ。

リーダーアプリが乱立し、それぞれが囲い込もうとすると、こうなってしまう。自分たちだけの売場を確保して読者を囲い込み、ついでにApple3割を回避しようということなのだろう。でも売る側の都合を押し出せば押し出すほど、買う側にとって不便になりかねないのだ。(パブリの場合だと、購入する際にはSafariが起動してECサイトで決済する。これがすごくややこしい)

でも何しろいま現在は、iBooksで売ることができないのだから、しかたないとも言える。

そんな中、ディスカバー21社はマルチプラットフォーム戦略に出るらしい。ある記事で「いちいちあちこちに合わせて作っているとお金がかかるので、一発でぴゅっといろいろなプラットフォームに流せるようなシステムをいま開発してもらっているところ。」と干場社長が語っている。さらに「アパレルメーカーと同じように考えている。直営店でも売るし、デパートにも出店する。顧客はどこで買ってもいい。」(これは日経の記事なのだけど、個別の記事へのリンクは原則禁止だと言うので引用だけしている。結果、記事を読んでもらうチャンスを逸してると思うのだけどなあ)

たぶん、これが正しいのだと思う。

出版社はプラットフォーマーになる必要はないのだ。

これ、かなり重要なポイント。みんな頭に入れておいた方がいい。

プラットフォームを握られるのはいやだ、困る、死んじゃう。そうとらえると、Appleは黒船に見える。スティーブ・ジョブズが「カイコクシテクダサ〜イ(宮崎吐夢調で読もう)」と迫るペリーに思えてくる。

そうじゃなくて、プラットフォームはジョブズに任せるし、誰がどう作ってもいい、自分たちはお客様が欲しいと思うコンテンツをつくるだけだ。そうとらえれば、Appleはノアの箱船だ。しかも、iPad内で他にもプラットフォームができるのなら、あるいは他社が別のタブレットPCを出すのなら、それもこれも全部ノアの箱船になりうる。だったら全部に乗っちゃえばいいわけだ。

ただしこれは、”電子書籍”の話だ。ePubかXDMFだか、とにかくほぼテキスト中心で、挿し絵や図がはさまる程度の”いわゆる本”の電子版。雑誌なんかはまたちがってくる。

という話はまたつづきでね・・・

番外:DTPboosterに行ったのだ〜iPadから見えるコンテンツの未来・その18〜

19日土曜日は、セミナーに出かけた。「DTP booster 014」という、その名の通りDTP業界のためのセミナーだ。今回のテーマは電子書籍、そしてiPadに関する内容で、12時半〜19時頃までという長時間に渡る濃いセミナーだった。すごく刺激になったよ。

DTP業界のセミナーだから、主に出版デザイン関係の人たちが参加してたのだと思う。かなり専門的な内容で、iPad出版はどうすればできるのか、具体的にレクチャーしてくれた。とくにAbobe InDesignのようなデザインアプリケーションから、ePub形式やアプリケーション形式のiPadコンテンツにするにはどうすればいいか、実際に使うツールのことなどもわかった。

全体を通して、ぼくは自分がここで書いてきたことがまちがってなかったし、皆さんとっくに考えたり実現したりしていることも多く、勇気づけられた気がした。

例えば「その13・システム化を解決せよ」で書いた、ひとつのデザイン作業から印刷物もiPadコンテンツもアウトプットするためのプラグインツールやCMSの話も出てきた。WoodWingとProBridgeDesigners-iがそれだ。

この2つについてはもう少し調べてからじっくり取り上げるからちょっと待ってね。

それから、「その6・国産の電子雑誌も頑張ってるぞ!」でとりあげた毎日新聞社の『photo J』のデザインを担当したCrossDesign社の黒須さんという方の講演もあった。その中で、こんな例え話をされていた。「大根の煮物から、漬物や切干し大根はつくれない」。

つまり、大根(コンテンツの素材)から煮物(紙の雑誌)をつくったあとで、その煮物を漬物(iPad雑誌)にするのは無理があると。ぼくが最初の方で書いた「その2・電子雑誌はPDFじゃダメなんだよ!」とほぼ同じことを言っているのだ。うんうん、やっぱりちゃんとした作り手は、同じように考えるのだなとうれしくなったよ。いやこれ、当り前だよね。いい例え。

会場では<#dtpbooster014>のハッシュタグが告知され、たくさんの人がTwitしていたので、Twitterでいまから追いかけても内容や雰囲気はわかると思う。

そのハッシュタグで参加した人たちの発言を読んでいると、出版デザイン関係の人たちとともにWEBデザイン関係の人たちも多く来ていたことがわかった。ぼくのような広告映像の会社の人間も来ていたのだから、もっと多様な参加者がいたのかもしれない。

iPadについて書きはじめたいちばん最初の記事の中でぼくはこう書いた。”iPadはコンテンツのジャンル、表現の分類を無意味化する”。そうなんだ。iPadコンテンツには、表現に関わるすべての分野の能力が使えるんだ。デザインでも、出版デザインとWEBデザインと広告デザインは、別々に育って別々に暮らしていた。ましてや映像制作なんかさらに遠くで暮していた。iPadはそれらを融合していった方が楽しいものができる。さらにプログラミング、ITといった分野の力も必要。ビジネスモデルを開発するような力もあった方がいい。

そういった、多様な分野の能力が結集する。iPadとはそんな場なのだと思う。そしてうまく力を合わせれば、既得権だのに縛られることなく、世界ともつながった何かが引き起こせる可能性がある。

だから、みんな、集結せよ。iPadの未来のもとに、集まろうぜい!・・・

追記:このイベントは主催側の対応がスピーディでもうもうフォローアップサイトができている。そこでさっそくこのブログもとりあげていただいたので、こっちもバナーを置いておく。

DTP Booster 014(Tokyo/100619)

Apple3割の大きな意味〜iPadから見えるコンテンツの未来・その17〜

なんだか毎日毎日iPadについて書いている。この分だと、今月は丸きりiPadの記事になっちゃうのかな?でも本来このブログは、クリエイティブビジネス論なので、そこんとこ、よろしく。

まあしかし、少し落ち着いて一回の分量をコンパクトにしていこっと。

さて昨日の記事では、ものすごく強引な試算でiPadにはじまるメディアタブレットのコンテンツ市場が、2012年には1兆2000億円になる、という結論に至った。○○総研の人たちが行なう試算に比べるとどえらくいい加減な試算なので、あまりアテにしないでね。大まかにiPad市場をつかむ頭の体操みたいなもんだ、ぐらいに受けとめて。

そうは言っても導き出したこの1兆2000億円という数字。これはどれくらいのものなのか。

あ、ぴったしの数字を思い出したぞ。少し前にぼくは「日本映画産業論」のサブタイトルで15回ほど記事を書いた。その中の『アバター』を追いかけられない日本、という少し切ない記事の中で、映画興行の市場規模について語った。さらにその中で紹介したこのサイトの、いちばーん下のページの表を見てみよう。各国の映画興行市場規模があるでしょ。日本は1948億円、アメリカは9791億円。足すと1兆2000億円に少し届かない。まあでも四捨五入して1兆2000億円、ってことだ。

つまり、1兆2000億円とは、アメリカと日本(世界の映画市場の一位と二位)の映画興行市場を合わせたのとおんなじ、ということだ。あくまで映画興行であって、DVDセールスなどは含まないから気をつけて。

世界一位二位の映画興行の市場と同じだ、と考えると、これはなかなか、コンテンツ産業の市場として大きいんじゃないか、ってことが感じられるよね。うん、かなりの規模だぞ。

ところで、映画興行における流通マージンの話。これも少し前に書いたこの記事の中で語っている。日本の場合、ものすごくざっくり言って(実際には作品個別でかなりちがう)65%を小売と卸し売がとる、と説明した。(そしてこれも前に書いたけど、それでも映画館の経営はきびしく、配給会社はいくつか倒産したりしている)

アメリカの場合、日本と少し商習慣がちがうので65%は適用できない。適用できないけど、話をわかりやすくするために、アメリカも65%で計算する。そうすると1兆2000億円の35%が作り手(日本だと多くは製作委員会=出資社)に戻る計算。そうすると4200億円。そこから製作費を引いたのが利益だね。もちろん、けっこうな金額だよ。

では、iPadコンテンツの場合はどうか?これが昨日最後に書いた最重要ファクター。iPadで売られるコンテンツは、Appleが30%とる。それが唯一のルール。言ってみれば、流通マージンが30%だと。てことは、70%がコンテンツ製作側に戻ってくる。1兆2000億円の70%は?・・・8400億円だ。映画興行のケースとちょうど倍ちがうわけだ。35%と70%だから当り前だね。

わかる?そこがポイント。そこが革命。コンテンツ流通の構造を、劇的に、衝撃的に変えてしまうのが、iPadなんだ。強引な試算だけど、製作側に入るお金が、倍ちがう。倍だよ、倍。

もうひとつ加えて言えば、この流通構造では、小売や卸売りの説得、がいらない。映画興行では、映画館側が売れると判断してくれるか、配給会社が配給してくれるか、そこはパートナーシップなのだから、説得しないといけなかった。あらかじめ説得しておかないとお蔵入りになりかねないから製作に着手できなかった。

Appleは売れるかなあ、とか気にしない。審査して、問題なければAppStoreに置いてくれる。もちろんそこで、性的なものは拒まれるとか、問題なのかもしれないけど、そんなことより、とにかく置いてくれるんだからこんなにやりやすい流通もないんじゃないか。ただ、Storeに置く以上のことは、何もしてくれないけどね。

別の言い方をすると、iPad市場では、製作者が配給もやる、ということだ。プロモーションも自分でやらないといけない。あるいはそのうち、AppStore市場を得意にした配給会社ができるかもしれないけど。

とにかく、既存のコンテンツ市場と比べると、まったくルールがちがう。ヒットする自信さえあれば、製作者にとって圧倒的に魅力的な市場だってことだ。理屈上は、だけどね。

あれ、あんまりコンパクトになってないぞ。そろそろ今日はおしまい。次回はもう少し踏み込んだシミュレーションに入っていくので、お楽しみに。次は明日か週明けかはわかんないけど・・・

皮算用をはじめるぞ〜iPadから見えるコンテンツの未来・その16〜

昨日の記事はその意図に反して、プロローグ部分で紹介した@higekuma3さんの(少しだけ年上だとわかったのでやっぱり”さん”をつけることにした)ブログのiPhone物語りについて、グッとくるという反応が広がっていった。

彼はすぐさま「Appleのクラウドと、それ以外のクラウド」という次のエントリーで、本来の辛口コメントを交えながらiPhone物語りの企画意図を書いているので、うるうる来た皆さん、読もう。うるうるで頭がいっぱいの人は、何だそういう話だったの?と感じるのかも。

さてそれぐらい、クリーンな世界をジョブズがつくってくれようとしている中、iPadコンテンツとはどんな市場なのかを考えてみよう。とらぬたぬきの皮算用ってやつね。

iPadは何台売れたか。Appleはあまりそういう数字を明らかにしないのだけど、発売以来2カ月で米国で200万台、という数字が珍しく出てきた。それから、米国のある調査会社が4月に出した今後の世界での販売予測数は、今年700万台、2011年1400万台、2012年2000万台というものだった。合計すると、今後三年間で4000万台のiPadユーザーが世界で誕生するというわけ。4月以降の勢いからすると、もう少し上乗せして5000万台とか言っていいんじゃないかな。(大ざっぱすぎ?)

それから、iPadが火をつけたタブレットPC市場。これはまだ明確な予測数字を探し出せていない。でも少なくとも、他社タブレットは全部合わせてiPadと同じくらいあるいはそれ以上になると思う。同じと考えると5000万台。つまりこれから3年でタブレットPC全体が1億台行き渡ると考えてみよう。(ものすごく適当だね、しかし)

1億台のタブレットPCで、人びとは毎月どれくらいアプリや電子書籍などコンテンツを買うだろう。2週間使ってきたぼくの個人的実感としては月1000円ぐらい使うと思うんだよね。

でえー?そお?それはちょっと甘い予測なんじゃないの?って思う?

確かにいまぼくはちょっと使いすぎかなってところはある。仕事上の研究のためだし、買ったばかりでひと通り必要なものを揃えようとしているってのもある。Twitterアプリなんか3つで1800円も買ってしまった。iPhoneでは有料アプリは数えるほどしか買ってこなかったのに、これは不思議!

ただ、ここんとこ書いてきたように、iPadのコンテンツはなぜか高めの価格設定でも納得してしまう上に、いちいちクレジットカードを登録しなくてよいのでひとつのパスワードでほいほい買ってしまう。

それからね、ぼくたちはいろんなコンテンツにかなりの金額を使って過ごしているわけで。

例えば本。ぼくはさほどの読書家でもないけど、二三日に一度は書店にふらりと行ってしまう。アマゾンでついつい購入ボタンを押してしまう。すると月に数冊は買ってしまうよ。毎月5000円以上は使っていると思う。

映画館には娘を連れて月に一回くらいは行っている。DVDレンタルは最近はめっきり減ってしまったけど、一時期は毎週2本ぐらい借りて見ていた。

新聞は日経をとっているので、毎月4300円払っている。雑誌を買う頻度は気がつくとすごく減った。でも週刊ダイヤモンドなどのビジネス誌を月に2回ぐらいは買っている。

雑誌について言うと、思い返すと昔はもっともっと読んでいたなあ。90年代は毎週4誌のマンガ雑誌を買っていたし、Mac誌やファッション誌、ビジネス誌と、月に1万円ぐらいは平気で使っていたんじゃないかな。

そうやって支払っているコンテンツ代金の一部、1000円ぐらいがiPadに流れていっても、ちっともおかしくないんじゃないか。

月1000円、年12000円のお金が1億台のメディアタブレットで使われるとすると、1兆2000億円ということになる。うーん、あまりにも大ざっぱな算出方法だ。誰かもう少しちゃんと試算してくれないかなあ。まあでも、軽く1兆円ぐらいのコンテンツ市場になると言っていいんでない?

ただし、この1兆なんぼは、舞台が世界だ。世界だとしたら、なんだか大したことないね。

でもねえ、この世界中で1億台、金額で1兆円の市場には、あなどれないファクターがある。そしてそのファクターこそが実は最重要ポイントだったりする。あながちじゃないぞ、ということになってくる。

それはまた明日書くね。ぼくのブログ、ここんとこちょっと長すぎ。少しコンパクトにして進めていきますんで

追記:iPadもしくはタブレットPC全体の今後の市場予測について、このサイトにあったよなどの情報あったらコメントお願いします。私が思うにこれぐらいになりますな、という個人的な試算でも大歓迎!

興味購入共有のすべてがここで〜iPadから見えるコンテンツの未来・その15〜

昨日はTwitterにクジラが居座り続け、昼間は大混乱だった。同じTweetが何度も乱れ飛び、アクセスが途切れ途切れ。そんな中、ぼくのmentions上で、今度コンビを組むことになった(という名目で飲み会をやることになった)@higekuma3さんの(と表記するとヒゲクマさんさんの、と読んじゃうのでやっぱりさんはいらないかな)ブログの最新のエントリーが話題になった。

彼のブログの「iPhone物語り」と題されたエントリー。読んでないなあという方は、ちょっと読んでみて、この先の話と関係するから。ここで待ってるから、すぐにリンクをクリックしちゃおう。

はい、戻ってきましたね?

これがお話としてよくできていて、読むとほとんどの人が、ほろりと来たと思う。なんだ@higekuma3たら、辛口なだけじゃなく、メランコリーなストーリーも書けるんだ。

って話はここでは深追いしない。ここで気づいてほしいのは、彼は何も急にメランコリーな話を脈絡なく書きたくなったわけでもなさそうだ、というところ。iPhoneには、信子さんが離さずにはいられないくらい、夫のずべてがつまってる、じゃなくてつまっている、ことを描いているわけ。

その意味合いをもっと理解するのなら、今度は彼のブログの「Appleの戦略」と題した一連のシリーズを読むといいだろう。

Apple製品に、ぼくたちのありとあらゆる履歴が吸いこまれていく、ということ。そして@higekuma3はそれを意外に肯定的に捉えているらしいことがわかる。

最近もIT企業がユーザーの履歴を手にしてしまうのはいかがなものか、という議論があったりする。かなり個人の感覚的な問題なのかもしれないけど、ぼくなんかぶっちゃけそれで便利になるならいいじゃない、と思う。

そこでiPadの話になるのだけど、そして少し論点がずれていくのだけど、iPadが革命的なのは、今後ぼくのコミュニケーションとアプリやコンテンツ購入の流れは、かなりの部分がここで行われてしまうことになりそうだ、という点だ。そしてそんなスティーブ・ジョブズの野望にのることで、ぼくたちはかなりの利便性を手に入れられるのだと。

インターネットが普及しても、コンテンツ流通でぼくたちはまだまだ不便だったんじゃないかな、これまでは。

例えばいまもっとも渦中の書籍にしても。ブログで紹介されて興味を持った本を、アマゾン前までは翌日会社や学校の帰りに書店で探していたわけだ。探しても見当たらなかったりしたわけだ。アマゾンによってこれはWEBで即購入、翌日には届く、という便利な状況になった。でもこれも、アマゾンに在庫があればの話。在庫がないと待たされる。この状況についても@higekuma3はこのエントリーで彼の本領発揮な辛口コメント満載なことを書いている。

もっと言うと、こないだ@hhoshibaさん(またもや登場)が『ティッピングポイント』という本についてTweetしていた。ぼくは強い興味を持ち、アマゾンで見たら中古しかなかった。いわゆる絶版状態だったのだ。ほんの10年前の本なのに。う〜ん、中古かよ、と、ぼくは購入をためらったままだ。

あるいはアプリケーションはどうだったか。とっても便利なPCソフトが欲しくなった。アプリケーションならダウンロード販売もあったりはする。探すと、あるオンラインPCショップがいちばん安かった。さあ買うぞ。ところがまず、会員登録とやらをさせられる。メールアドレスを入力し、パスワードを決め、住所だ電話番号だのを無愛想な入力フォーマットに入れて、”次へ”ボタンを押すと、住所は番地も全角で入れろやり直せとか言われる。そうやって苦労して会員になったサイトのパスワードが、次に買う時にどこに書きとめたかわからなくなったりする。

映像コンテンツはもっと不便だ。アマゾンで売ってはいるが、セルだけだ。興味を持っていちいち購入していては身が持たない。というわけでTSUTAYAにレンタルしにいくことになるのだけど、お近くのTSUTAYAはクルマで10分ほどのところにしかない。サラリーマンのおじさんとしては土日しか行けないよ。それでも、『LOST』のシーズン5が出る日だってんで金曜日の夜に帰宅するやいなや、勢い込んでクルマで乗り込んだら、全部レンタル中でがっかりするわけだ。

現状のiPadが、こうした煩わしさをすべて解消できるわけではない。なぜならば、肝心のコンテンツが少ないからだ。いっそ古今東西、新旧すべてのコンテンツを電子化して、購入できるようにすればいい。そうすればぼくたちは、Twitter上で教わった本をすぐさま読み、ブログで興味を持った映画をその場で視聴できるわけだ。ポイントなのはTwitterもブログも、つまりコンテンツに興味を持つことから、購入して楽しむまでが、”同じ端末で”できてしまうことだ。その上パスワードはたったひとつ、頭の中に書きとめてあるAppStoreのもの(=iTunesStoreのもの)を入れればいいのだ。

iPadのことをMedia Tabletと定義しているニュースを読んだことがある。本質をついた言い方だとぼくは思った。一方で、iPadをノートPCと比べて使いづらいよと評する人もいる。それは購入理由がまちがってたね。Media Tabletってのは、前に書いたようにLIFEで使うもので、記事を読んだりコンテンツを楽しむことがメインになるのだ。WORKに使おうとするから話がおかしくなる。LIFEの中で、コンテンツを探し、教わり、楽しみ、共有するためのものなのだ。新しい技術の粋、などではまったくなく、AppStoreとセットで、コンテンツ流通をイチから捉え直し、すべてが電子化する前提で構築されたプラットフォームなんだ。

スティーブ・ジョブズのたくらみにまんまとはまったぼくは、自分の知的体験のかなりの部分をiPadに残していくことになりそうだ。いつかぼくの奥さんは、ぼくが死んだあとでほんとうにぼくのiPadを大事に抱きしめるのかもしれないね・・・

なぜここでのアプリはちょい高いのか?〜iPadから見えるコンテンツの未来・その14〜

iPadを使っていて、不思議なことがある。

例えばさっき。Twitterで@hhoshibaさんがRSSリーダーアプリのReederを入れてみたとTweetしていた。@m_kanekoさんがこのアプリについてTweetしていた流れで。(このお二人は、2月に書いたこの記事に登場する、ぼくがiPhoneを買うきっかけとなった人びとだ。)

ぼくはiPad用のRSSリーダーとしてMobileRSS HDをすでに600円で買って使っていた。それなりに便利なアプリだ。だがこのお二人が名前を挙げたと思うと、Reederも気になり少し調べたら(こういう局面では検索するのね)かなり評価が高い。うーん、としばし悩んだ末、Reederを600円で購入した。

ReederはiPhone版で評価が高かったアプリで、満を持してiPad版も登場ということらしい。iPhone版は350円だが、iPad版だと600円だ。

買って使ってみると、とにかく情報を読み込むのが速く、なるほど評価が高いだけのことはあった。だけどふと、iPhone版との価格差は何よ、と思った。この手のアプリで、iPhone版とiPad版で、開発コストがそんなにちがうもんかね?と。

と、思ったけど、別に暴利だとも感じない。まあ、いいアプリだから、いいんじゃないかな、てなもんだ。

iPad上のアプリは、こんな風にiPhone版よりひとまわり高い。ゲームなんかだと、画像も高精度でなんとなく理屈が立つ気がするけど、全体的に開発費は実はさほど変わらないんじゃないか。・・・でも、許せている自分がいる。

少し前、iPhoneでアプリのヒット作が出た、なんて頃、だからって企業がまともに取組む場だとはあまり思えなかった。個人でアプリを作れる人たちが、運良くヒットを出せてよかったね、という受け止め方。そういう場所なんだろうと思っていた。そしてアプリの単価は200円とか300円。無料のものも多く、いかにも個人の活躍舞台、というイメージ。

それがどういうわけか、iPadでは話がちがっているらしい。

例の『WIRED』はコンデナスト社が渾身の開発をして600円で発売し、9日間で7万本以上売れたらしい。講談社が京極夏彦氏の『死ねばいいのに』を700円で売り出して5日間で1万部売れたとも聞く。もちろん、iPadが出たばかりでアプリの数が少ない状況もあるだろう。でも、600円とか700円とか、iPhoneのアプリの一般的な価格の倍以上でコンテンツを出して万単位で売れている。これはよく考えると画期的なんじゃないだろうか。

インターネットが登場して以来、WEBはコンテンツをまともな価格で売る場にはついぞなりえなかった。無料でコンテンツを入手するのが当然な場所で、広告モデルで成立させられるかどうか、だった。それが常識のはずだった。

iPadは、そういう常識を覆しつつあるようだ。少なくともいままでよりはまっとうな価格帯で、コンテンツが売れるのだ。

それがなぜかを、ぼくは論理的に説明できない。ただ、日々使っていて感覚的にはわかる。それはここでさんざん書いてきた、アートディレクション云々とか、美しくなきゃとか、そういう印象と深く関係しているのだと思う。

WEBと比べると、iPadは”ちゃんとしてる”からだ。

うわ、まったく論理もへったくれもないね。でも、そうなんだ。そうとしか言いようがない。

というわけで今週は、コンテンツ市場としてのiPadについていろいろ考えてみる。今日はもう疲れたから寝るわ。物足りない人には、一カ月ほど前に書いた「iPadはセカイテレビだ!(と思う、のつづき)」を紹介してお茶を濁そう。でもこれ、今週書くことの予習になるから読んでもらって悪くないと思うよ・・・

システム化を解決せよ〜iPadから見えるコンテンツの未来・その13〜

ぼくは料理が趣味で、この日曜日は夕飯にオムライスをつくった。子供たちに(無理矢理)おいしいと言ってもらうのがこの上ない幸福。そんなキッチンでレシピを見るのにもiPadはうってつけだったよ。これについても語りたいことあるんだけど、それはまた別の日に。

ところでこのブログでiPadコンテンツについて毎日書いてきたけど、大事なことというか、基本の基本の話に触れてなかったことに気づいた。

「電子雑誌はPDFじゃダメなんだよ!」の記事を皮切りにぼくがずっと書いてきたのは、電子雑誌の話だ。でもiPadでにわかに盛り上がってるのは電子書籍の話題だよね。そこに触れてなかったよ。

電子雑誌と電子書籍は似たようなもんだろうって?うーん、似てるけど、問題は相当ちがう。90度ぐらいはちがうかな。(その分類も、前に書いたよね)

電子書籍とは、”本”の電子版だ。ほぼ中身がテキストでできている出版物のこと。加わるにしても”挿し絵”や”図表”程度で済むもの。これについてはデータ形式の問題がある。

iPadにはiBooksという書籍アプリがデフォルトでインストールされている。これがその、電子書籍を読むためのアプリだ。あらかじめ、『Winnie the Pooh』(つまりクマのプーさん)が”本棚”に入っている。開くと、英語の本が読める。”Store”ボタンを押すと、いろんな本が並んでいる。無料のものもいっぱいある。

でも、これらはすべて、日本語ではない。

iBooksで読めるのは基本的に”ePub形式”のデータだ。これは世界標準になりかけている電子書籍のフォーマット。日本語も通るのだけど、縦書きに対応しておらず、漢字の読みがななどルビも表示できない。日本語の”本”で当然の要素に対応していないんだ。

日本語の電子書籍のデータ形式はいーっぱいあって、最有力(らしい)のはボイジャー社が開発したドットブック形式。でも他にもXMDFとか、マンガ用のコミックサーフィンとか、とにかくたくさんある。これを統一するとか、ePub形式でも日本語を表示できるようにしてもらうとか、縦書きはあきらめるとか、決断しないと先へ進めないらしい。

さて一方で、電子雑誌(含む電子新聞)。これについては、データ形式の統一なんてあまり関係ない。「電子雑誌はPDFじゃダメなんだよ!」の記事について誰かが「データの統一は大事だからPDFにした方がいい」とコメントしてたらしいのだけど、それはちょっと話がかみ合わない意見。電子雑誌では、テキストは要素の一部で写真だの音声だの映像だのまで含んだコンテンツなのだ。独立したアプリと捉えた方がいい。

ぼくががっかりしたのはあくまで、紙の雑誌のPDFデータを”そのまま”iPadで読めるようにしても読みにくいしツマラナイよってことを言いたかったわけ。PDFにはインタラクティブな要素も載せられるので、PDFそのものがダメだって言ってたんじゃない。データ形式は何だっていいから、iPadらしいものにしようよ、と言っていたわけ。

さて次に、課題も出てくる。紙のものと並行してiPad用の雑誌もつくるなんて大変すぎるよ、という状況。そうなんだ。雑誌を毎週とか毎月とか、次から次に出版するだけでも大変なのに、その上「iPadらしく作る」なんて手間が余計にかかるだけだ。しかもいま、新聞や雑誌は広告出稿が減って大変の度を越してる。作業を余計に増やすなんてできっこないだろ、と言われてしまう。

これに対する100%の解決策ではないけど、でもここで出版業界が絶対に検討した方がいいことが、ひとつある。

上の図を見てほしい。これは「美しくなきゃ便利じゃない」というタイトルで書いた時の図の進化系だ。進化といってもひとつ要素が加わっただけだけどね。でもあの図は、今日の図の伏線だったんだ、実は。

雑誌の編集では、写真やテキストをデザインして、たぶんデータにして印刷に渡すのだと思う。そのプロセスに何らかのシステムを導入しよう、ということが言いたい。いわゆるCMS(Contents Management System)ってやつね。

あー、もちろんぼくはシステムのことがよくわかってる人間ではないので、ここで胸を張ってCMSについて語れるわけではない。でも大枠の考え方はこの図のようなことだ。ひとつの作業から、紙用、iPad用、ついでにWEB用と、いくつかのアウトプットを作成するためのシステムをあらかじめ構築しておくのだ。その段階で、その雑誌のアイデンティティを、つまりはアートディレクションを固めておく。フォーマット化しておく。こういう時はこう、でもああいう時はこう組む、というデザインルールを決めておき、そこに作業の結果が流れていく、そんなシステムを作るわけ。

このシステム構築には時間も労力も費用もかかるだろう。でも絶対にここでやっておいた方がいい。iPadに限らずタブレット型コンピュータは成長市場になるし、そこには新聞や雑誌の”生きる道”を見出せる可能性がある。生き残りをかけて、取組んだ方がいいんだ。

システム投資なんてうちは細々やってる出版社だから無理なのよ、うちは10人でやってきた編集プロダクションだからできっこないよ、そんな声も聞こえてきそうだ。だったらだったで、”システム”というほどでもないやり方もある。既存のアプリケーションにプラグインを加えるだけでiPad対応ができたりもするんだ。

このあたりはいま、いろいろ調べているのでそのうちまとまった記事にして書こうと思う。

ただどうやらいろいろ調べて感じたのは、出版の世界もIT化が日本と海外とで差がついちゃってたらしいってこと。日本はIT化が遅れている、とよく言われる。池田信夫先生もよくそういったことを書いているしね。そのひとつの現れが、出版の電子化の遅れにもつながっているんじゃないかな。出版だけじゃなくて、メディアコンテンツ業界全体でIT化が遅れていたんだ。日本の行政は電子化が遅れている、なんてニュースで言う前に、自分たちの足もとを見てなかったね、ぼくたちは・・・

アプリが広告になっていく!〜iPadから見えるコンテンツの未来・その12〜

前回の記事「iPadの広告にSearchはいらない」はやや軽い気持ちで書いたのだけど、意外に反応してもらえたみたい。Twitterでいろんな方のコメントもいただいた。

その記事で書いた”広告”とはもちろん、iPad上の雑誌コンテンツの中の広告ページについての話。それとは別に、iPadならではの広告(広報?)展開を発見した。

ひとつは化粧品のクリニークのブランドコンテンツ『SMILE』というマガジン型のアプリだ。サッカー選手やカメラマンなどへの取材記事を読ませながら、クリニークの商品案内へと導いていくもの。これ、いろんな意味で驚いた。

驚き・その1は、このタイミングで”iPadコンテンツ”を出していること。『SMILE』はこのブログの中でさんざん腐して書いたPDF型ではない。ちゃんとiPadらしいページめくりができて、画面をタテにしてもヨコにしても読みやすい、楽しめるコンテンツになっている。アートディレクターも実績のある方らしく、まさにArt Directionがちゃんと存在しているのだ。

驚き・その2が、WEBとのつながり。商品紹介のページから、クリニークのECサイトに飛べるのだけど、Safariが起動するのではなく、『SMILE』アプリの中で必要なページだけをブラウズできる。海外の雑誌でもSafariが起動して雑誌に戻るにはまたアプリを起動しなければならないものが多かった中で、上手な処理をしているのだ。

『SMILE』にも驚くのだけど、『情熱の系譜』にもまたびっくりした。これは同じタイトルのテレビ番組があり、それをiPadコンテンツにしたものだ。番組の企画に添ってマガジン的に構成してあり、番組映像そのものもアプリの中で視聴できる。

これも驚いた点で、番組映像を、放送後にiPadで視聴できるのは、そうとう新しい試みだと思う。そして番組と同じく、協和発酵キリン社の提供だとなっている。つまり、これも広告(広報?)目的のアプリなのだ。

iPadでは、コンテンツそのものが広告にできるのだという、その先行的な事例だ。しかも、ちゃんとつくってある。これらはビルコムという急成長のPR会社が担当したものだった。こういったことをクライアント企業に提案するのは、もはや総合広告代理店とは限らなくなっていくのだろう。

ぼくはこのブログで、これからメディアの仕組みが変化していく中、クリエイティブの価値を高めなければ、と訴えながらいろんなことを書いてきた。例えば「コンテンツとメディアの関係を変えろ」と題したこの記事ではメディアの価値低下に引きずられてクリエイティブの価値まで下がらないように考えねばならない、と書いた。あるいはこの記事では、クライアント企業の変化に合わせて広告を提案する側も何でもできなきゃというようなことを書いた。機能分化していては、ほんとうに必要な総合的なコミュニケーションを提案できないよと。

その突破口がTwitterなんじゃないかと考えていたのだけど、それもひっくるめてiPadはナイスな受皿になるのかもしれない。コミュニケーションのすべてがTwitterとiPadになるわけではない。でもこれらを軸にコミュニケーションの全体像をとらえることが、鍵になってくるのではないかと思える。

そんな”野望”さえ持たせてくれる予感を、『SMILE』と『情熱の系譜』に感じた。

そういうのがありだったら、こういうのもありじゃない?そんなことを、考えてみようぜ。いっぱいいっぱい出てくるから。そしてそんなことを考えるのは面白い!面白いことの先には、きっと、必ず未来があるもんだ・・・