NetflixはVOD事業者として以上にユニークな企業らしい。だからVOD事業者として期待したい。

昨日(5月18日)発売の週刊東洋経済に、NetflixのCEO、リード・ヘイスティングス氏のインタビュー記事が掲載された。今年のメディアコンテンツ業界の最大のトピックである日本での秋のサービスインを控えた中、業界内インパクトがある記事だ。4月に京都で行われた、全世界から同社のマネジャーが集まる会議の場に、東洋経済が取材を申し込んだようだ。そんな情報をいち早くつかんで独占インタビューをものにした東洋経済の俊敏さにも驚くが、彼らが京都に集まったこともびっくり。つまりそれだけ、日本市場を重視しているということだ。

おそらく日本のメディアがものにした初めてのNetflixのインタビューだと思う。貴重なその内容は、同誌を読んでもらうのがいちばんだ。ここではその中で注目すべき発言を少し取り上げたい。

・日本では5〜10年かけて成長をめざす
・初年度は顧客満足が最重要
・当初は数値目標を設定しない

このインタビューで、ぼくが最重要だととらえたのがこの部分だ。

Netflixがやって来る時、「どれくらい本気なの?」というのが気になった。人によっては「世界中の市場進出をめざす中、日本はそのひとつに過ぎない、そんなに力を入れないんじゃないか」と言っていた。だが日本は世界第二のコンテンツ市場だ。だからあまたの中のひとつ、とはとらえないはずだがと考えていた。かなり本腰を据えてくるんじゃないか。このインタビューから、他の国への進出との比較はできないが、世界レベルの経営会議が京都で開かれたことを併せてとらえても、日本市場をかなり重要視していると見ていいだろう。

それとは別に、上に挙げた箇所でよくよく考えると興味が湧くのが「数値目標を設定しない」点だ。そんなことあるの?とくに外資が。

外資の日本進出とは、よく市場特性を調べもせずやって来て、本国でのやり方を1ミリも変えずに強引に暴れ回って、結局日本にあまり溶け込めず目標達成できんかった!と突然撤退、というのがひとつのパターン。実際、huluもたった3年で売りに出された。日テレというメディアコンテンツ界の有力プレイヤーが買収したから別の展開になってきたが、あっさり諦めたとも言える。

外資ならそれもよくある話。・・・でもNetflixはそういう外資と少し違うようだ。

別に日本に思い入れてくれてるということでもないだろう。そうではなく、NetflixにはVOD事業者としてとは別に、企業としてかなりユニークで合理的な方針を持っているようだ。そんな”噂”は前々から漂っていたのだが、このインタビュー記事からもはっきり伝わってきた。

先日、ある催しで知人が発表した中に、Netflixの企業姿勢についての話が出てきた。米国で、あるイベントで彼らが示したことのいくつか。

例えば、Netflixはユーザーに適切なレコメンデーションをする。作品を解析し、ユーザーの行動履歴と照らし合わせてその人が見たくなる作品、見たら満足しそうな映画やドラマを勧めてくる。レコメンデーションで作品を選ぶのが7割だか8割に達しているという。

そのことに関し、Netflixが言ってたのは「われわれは、もう属性データをとってさえいない」なのだそうだ。

これはちょっとでも分析に関わった人なら衝撃を受けるだろう発言だ。そのユーザーが男性か女性か、年齢層はどのあたりか、どこに住んでいるか。ユーザー分析をする際はそこからはじまるのが通例だ。若い女性だったらとりあえず恋愛ドラマをお勧めしよう。それくらいは誰だって考えるし、リアルな人間関係でも使う基本の基本の考え方だ。

Netflixはそれをやらない。そこを見ない。ということは、純粋にユーザーがこれまでに見た作品からレコメンするのだろう。でも性別くらいは気にしないのだろうか。不思議だ。

徹底的に合理的に考える人たち。この話からくみ取れるのは、そういう雰囲気だ。

実はぼくの旧い知人がNetflixの日本での展開を手伝っていると知り、先日会ったのだが、彼も似たことを言っていた。

曰く「決断がものすごく早くて、その場で立ったまま話し合って大きな結論を出してしまう。余計な気配りや根回しはまったくなくて、合理性だけで決めている。一緒に仕事をしていて実に気持ちいい。彼らはVODだなんだの前に、企業としてユニークで面白い」

そうかあ。Netflixについて書くと放送界の一部の人がなぜか過敏に反応することがあるのも、そうした合理精神を嗅ぎ取って、反応しているのかもしれない。なにしろ、日本の放送界は合理性とかなんとかと対極に行っちゃってるから。

Netflixはそう考えると、VOD事業者としてを越えた面白さがあるようだ。そしてだからこそ、日本のメディアコンテンツ界をかき回せるのかもしれない。

記事の中にも出てくるが、Netflixにとって既存のVOD事業者は敵ではなく、むしろ相乗効果をもたらす味方になるだろう。とくにhuluとdTVと合わせて三つ巴のプラススパイラルを巻き起こすのは間違いないと思う。秋から、例えば家電量販店に行くと店員が熱心にVODについて語ってくるかもしれないし、東洋経済に限らず経済ニュースの重要な題材になりそうだ。

そしてそれは、映画やドラマのファンにとって楽しみな状況をもたらすだろう。三者が競い合って、テレビの地上波放送では見れない新しくて面白いコンテンツを作って見せてくれるなら、こんなに楽しいことはない。それに、制作者にとっても新しい選択肢と未来をもたらす可能性が大きい。これについては、Market Hackが今日、面白いことを書いているので読んでみるといいだろう。

日本の映像コンテンツ黄金時代は、すぐそこまで来ている

これからVOD業界から目が離せない。追い追いまた書いていこうと思う。

コピーライター/メディアコンサルタント
境 治
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