ちょっと遅ればせながらの話になってしまうが、9月18日にこんなニュースが出た。
おおーっ!ついにか。早かったなあ、と思ったものだ。
これについて、こないだの日曜日(9月28日)の朝のフジテレビ「ワイドナショー」で、取り上げられた。松本人志や東野幸治が、ネット配信についての不安を口にする。視聴率にマイナスにならないか、DVDの売行きに影響が出ないか、というもので、日々活躍するタレントとしての素直な気持ちが表れていた。
ただ、ニュースでセンセーショナルに取り上げられたのに対し、民放連のサイトで井上会長の発言をちゃんと読むと、そんなににわかに心配する必要もない気がしてくる。
気になる人は下記リンクで読んでもらうといいだろう。
日本民間放送連盟ホームページ>会長会見にある9月18日の井上会長会見要旨
ポイントとなる箇所を引用すると・・・
民放連の業務としての位置づけではないが、昨年末から在京キー5局で放送のメディア価値向上のためにどうすればよいかを協議していただいてきた。その中から、インターネットを使ったテレビ番組配信の一つとして、見逃し視聴サービスについての検討を5局で行うことで意見がまとまった、と説明した。これまでも各社が個別に取り組んではいるが、まとまって実施することまでは考えていなかった。民放内でも利害がからむ面もあり、難しいことは承知しているが、メリット・デメリットを含めて検討していただき、少しでも前へ進めるよう、理事の方々に理解を求めたところだ
ちゃんと読むと、1)検討を5局で行うことで意見がまとまった2)理事に理解を求めた ということを言っているとわかる。つまり、決まったのは、無料配信をすること、ではなく、無料配信を検討すること、なのだ。しかも、民放連の会長の口から出た話だが、民放連が取組むわけではない。
さらにその後の発言をきちんと解釈すると、来年度中に実験レベルのことができればと思っている、対象番組やジャンルは今後の検討、とあり、最初に読んだニュースの印象に比べるとずいぶん曖昧でゆったりした話だ。
だから松本人志や東野幸治の心配はまだまだ早いのかもしれない。
ということも踏まえた上で、言いたいのは、民放連の会長が曖昧でゆったりした言い方にしても「見逃し無料配信に取組む」意思を示したことは大きい、ということだ。全局まとまったサービスになるかは置いといて、テレビ局はネット配信を推進した方がいいのだと思う。
さてテレビ局はなぜ無料配信をしたいのだろう。そしてそこでタレントたちの不安は解消できるのだろうか。結論から言うと、タレントさんは心配する必要ない、とぼくは考えている。
わかりやすい話として去年大ヒットしたドラマ「半沢直樹」を例にしよう。ご存知の通り最終回で42%、歴代2位の視聴率を記録したのだが、もうひとつの特徴として、視聴率が上がる一方だったという点も注目したい。1話を見た人が面白さを伝えていったからだが、その際に役立ったのが無料配信だ。
ここで言う無料配信とは海賊版のことで、いま取締りが話題になっているFC2動画やDailyMotionのような、YouTubeよりさらにマニアックな動画サービスが舞台になった。ちょうどスマートフォンがどんどん普及した去年に、それまでネット動画を主に見ていた若い男性以外の、普通のおじさんおばさんでも気軽にネット動画に接するようになった。ネット動画から縁遠そうな人たちの「半沢直樹を途中から見て面白かったので、第1話第2話もネットで見た」という声は多く聞かれた。
もちろん正規のサービスで有料で見た人もかなり多かったので、TBSオンデマンドの一大ヒット作にもなっただろうが、検索すると違法な無料動画が先に出てきてしまうので、よくわからずそっちで見た人は相当数いたはずだ。その人たちは、無料だからこそついつい見入ってしまい、これが話題の半沢直樹か確かに面白いと、その次の回からはリアルタイムでテレビで見るようになった。だから、視聴率は上がる一方だったのだ。
無料配信は、うまく働けば視聴率を上げていく効果があるのだ。
さらに、無料配信ということはまったく収入がないというわけではなく、広告収入が得られるということだ。テレビ放送と同じモデルをネットでも展開するということ。
1月から日本テレビがはじめた「いつでもどこでもキャンペーン」サイトでは、ドラマとバラエティ番組の一部をCM付きで無料で配信している。CMセールスは好調で、出演者にもある程度の還元ができたと小耳にはさんだ。それに視聴できるのはあくまで放送後一週間までなので、ビデオで録画してなくても大丈夫、という使い方になる。「ワイドナショー」で心配していたようなDVDセールスの妨げにはならないどころか、よいプロモーションになるはずだ。
つまり、番組を放送後に無料配信することはメリットはあってもデメリットはないのだ。海賊サイトで勝手に視聴されるくらいなら、安定した環境で高画質の映像を正規に見せた方が視聴者も「これ違法なのかな?」などと心配せずに安心して見てもらえる。
では無料配信にCMはつくのか?との懸念も出てくるだろう。
だが一方で今、ネットでの動画広告市場が勃興している。ネットでCMを出したいスポンサーはけっこういるのだ。テレビだとアプローチしにくい若者層にはネット広告の方がリーチできる。だが動画投稿サイトに広告を出すと、どんな動画にCMがつけられるかわからない。変な動画にCMがつくのは、スポンサーとしては困るのだ。
だからブランドに気をつかう大手企業ほど、テレビ番組のネット配信に期待しているらしい。いきなりテレビ広告市場ほどの規模になるわけではないが、これから数年間で成長するのは間違いなさそうなので、早めに取組むに越したことはないのだ。
一方、ビデオリサーチ社がTwitterTVエコーという名称の新しい指標を発表した。前々からやると宣言していたのを、正式にサービスとして提供開始したのだ。
このデータのポイントはTwitter社の協力のもと、投稿ユーザー数とともにインプレッションユーザー数を発表することだ。
投稿ユーザー数は言葉通り、ある番組についてつぶやいた人数だ。そしてインプレッションユーザー数とは、投稿されたTweetの波及効果を数にしたもの。具体的には、投稿を閲覧した可能性があるユーザーの数だ。ただしそれは投稿ユーザーのフォロワー数とイコールではない。投稿者のフォロワーの中でTwitterアプリを開いていた人数をカウントしたのがインプレッションユーザー数。もちろん、Twitterの公式アプリだけでなく、サードパーティ製のアプリも含んだ数だ。(この部分、筆者の事実誤認で、Twitterの公式アプリとPCのTwitterサイトだけの数字で、サードパーティ製のアプリは含まない、というのが正しいそうです。慎んでお詫びし、訂正します)
これにより、かなりの精度で番組について投稿した人の数と、それが波及した数を出せることになる。それはつまり、その番組のネットでの影響力の高さ、ネットでの番組の存在感を示すことになる。
上のリンクページでは、過去3日間のインプレッションユーザー数上位5番組を日々発表している。今後の番組評価のひとつの参考にできるだろう。
このTwitterTVエコーは、今後どう使われるのか何も決まっていない。ビデオリサーチ社の姿勢も、数値を出していくのでみなさんで使ってください、ということで、これによって何がわかるかを規定しているわけではない。
これから関係者で試行錯誤しながら使ったり使わなかったりするのだろう。ただ、「Twitterでこんなに盛り上がりました!」というのは番組の作り手にとって素直にうれしいだろう。そしてひょっとしたら、「視聴率はそこそこながらtwitterではこんなに盛り上がってます!」という風に関係者同士やスポンサーへの報告の材料になるかもしれない。
今週月曜日に終了した「テラスハウス」は実際、視聴率の前にtwitterで盛り上がった好例だ。それを受けた形で視聴率もじわじわ上がり、出演者の中からタレントとして巣立っていった者も出てきた。
見逃し無料配信とTwitterTVエコーの話題から見えてくるのは、テレビがはっきりとネットを舞台にすべきだと判断しはじめたことだ。ネットは敵だ、YouTubeなんか使うな!とほんの3年ほど前まで言っていたテレビ局上層部も、ネットを活用すべきだといまは考えている証しだ。
スマートフォンの急激な普及で今、メディア環境は激変している。これまでの考え方や基準を見直す必要が出てきている。これから数年で劇的な変化がやって来るだろう。それに対し、何をどう整えるか、本気で考えるべきタイミングが来た。
※Facebookページ「ソーシャルTVカンファレンス」ではテレビとネットの融合について情報共有しています。
コピーライター/メディアコンサルタント
境 治
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