テレビについて語る際、とくにネット上の言論では視聴率がやり玉に上がることが多い。視聴率至上主義でテレビがつまらなくなったとか、視聴率なんてアテにならないんだろうとか。
もろもろ問題点もあるのかもしれないが、参考になる数値なのはまちがいない。ドラマ『家政婦のミタ』が40%を超え、『半沢直樹』がそれを超えた視聴率をたたき出した時は、実際多くの人びとがこれらの作品に熱中していた。40%の数字に見合った反応が、そこいら中にあふれ返っていたと思う。
今クールのドラマもいまひとつだと言われつつ、『アイムホーム』『Dr.倫太郎』『天皇の料理人』あたりは面白いなあと思っていると、ちゃんと視聴率にも反映されているようだ。
ただ、この3作品は10%台前半で、20%にはほど遠い。10%に届かないドラマが普通になっているのは、視聴率の水準がずいぶん下がった証しだろう。するとそうしたドラマはダメなドラマだと受けとめられてしまいかねない。
視聴率というデータにはおかしな点も何もないのだが、世帯視聴率だけでテレビを測ることに閉塞感が滲みだしている気はする。
まずよくわからなくなっているのが、世帯視聴率が10%だと「日本人の1割が見た」と言っていいのか、という点だ。そういうイメージでとらえていたが、そう考えにくくなっている。
不破雷蔵氏が運営するGarbagenewsは様々なデータをグラフ化してわかりやすく見せてくれる。つい最近、テレビの普及率をグラフ化していた。
→カラーテレビの普及率現状をグラフ化してみる(2015年)(最新)
内閣府の「消費動向調査」にあるテレビの世帯普及率についての記事だ。これによると、一般世帯(非単身世帯という意味のようだ)では97.5%と、相変わらず高い普及率であることがわかる。だがこれが、単身世帯になると91.6%とずいぶん下がる。
さらに世代別まで含めてみると、「単身世帯・男性29歳以下」の普及率が76.2%とどんと低い数値で驚いてしまう。
ぼくが子どもの頃は日本人のほとんどが「テレビがほしい、カラーテレビを手に入れたい」と望んでいたものだが、いまは逆に「テレビを家に置かない」層が無視できないくらい増えているようだ。
さらに「世帯視聴率」とはその世帯の誰かひとりでも見ていれば当然カウントされるので、「世帯視聴率10%のドラマは日本人の1割が見ている」とは言えなくなってしまっているとわかる。なにしろ、家族みんなで同じ番組を見る場面はもはやあまりないのだから。
実はビデオリサーチの世帯視聴率はあくまで「自宅にテレビを所有している」世帯のデータだ。これは隠しているわけでもなんでもなく、わざわざ調査のための機械を設置してもらうのにテレビがない世帯を選ぶはずもないのだから、当然のことだし同社はちゃんとそのことを明示している。だから視聴率の母数=日本のすべての世帯、だととらえないほうがいい。
もうひとつ、視聴率データで重要なのが「代表性」の問題。ビデオリサーチの調査対象世帯は、ちゃんと日本の人口分布を反映させて抽出しているのだそうだ。これが手間のかかるところだろう。だから、いまの少子高齢化の状況もきちんと反映させている。
これは総務省の人口ピラミッドのグラフ(平成24年現在のもの)に、視聴率の世代区分とその割合を算出して重ねたものだ。これを見ると、F3M3(50才以上)が44%にもなっており、F2M2(35-49才)も合わせると65%を占めることがわかる。ざっくり言えば、視聴率は”おじさんおばさん”に左右されているのだ。そして男性が会社に縛りつけられているこの国の場合、”おばさん”に視聴率を握られていると言っても過言ではない。
だからドラマで言うとおばさんウケするものが視聴率を取りやすい。男性に偏った志向のものや、若者に極端に寄った企画は数字がとれないのだ。このクールで言うとNHK土曜ドラマ『64』は極めてハードな物語で男臭いからか、視聴率はいまひとつだが一部には非常に評価されていた。少し前の日曜9時枠の『ごめんね!青春』は視聴率が悪くて脚本家の宮藤官九郎氏が悩んでいたという記事を読んだ。このドラマはInstagramを駆使して若者たちの熱い支持を受けていたようだが、視聴率には反映されなかった。いずれも”おばさん”が見てくれなかったからだ。
このように視聴率はある意味”わりと年配の女性”に偏ってしまっており、それは人口分布を反映したものだし世帯の視聴率として精緻であるのはまちがいないにしても「それでいいんかい!」と言いたくなる傾向になってしまっている。
視聴率は広告枠を買う際の指標なのだからそれでいいと言えばいい。番組の価値や評価と必ずしも結びついてはいないと認識したほうがいい。
とは言え、別の尺度はないのだろうか。
ビデオリサーチ社自身がその取り組みをはじめている。「TwitterTVエコー」では、TwitterJapan社と協力して、個々の番組がソーシャルメディア上でどれだけ影響力を持ったかを数値化している。
録画した番組の再生も無視できなくなっているということで、タイムシフト視聴の動向調査もやっているそうだ。これは定期的に発表もしている。
だがテレビのデータとはそれだけではない。例えばテレビメーカーはネットにつなげて使われている受像機の視聴データは収集しているという。これにはプライバシーのデリケートな問題もあるが、承諾を得られているデータだけでも何万世帯分もあるわけだろう。これはある意味、非常に正確な視聴データとなるはずだ。ビデオリサーチのデータのような「代表性」はないので取って代わるデータにはならないが、実際にどの番組を見たか、何を録画してその中で実際に再生したのはどれか、などがわかるのだから分析しがいがありそうだ。
また、いまテレビは放送以外にも多様な使われ方をしている。ゲーム端末でもあり、VODの受像機でもある。今後はスマートテレビに進化して多彩なサービスのターミナルになるとも言われる。放送だけでなくどう使われているのか、今後は調べていくべきだろう。
テレビは若者離れが進んでいるとは言え、いまだに多大な影響力を持つメディアだ。そしてリビングルームの真ん中にどんと据えられ、家庭と社会との接点として役割は広がりそうだ。そのモノサシが「放送の世帯視聴率」だけというのは、逆にそのポテンシャルを引き出せない事態になりかねない。
ぼくがお手伝いしているエムデータという会社があり、以前にも記事を書いた。テレビ放送のすべてをデータ化している変わった会社だ。
→テレビとネットの融合の鍵はテキスト化にあった〜エム・データ社データセンター訪問記〜
そのエムデータが主催するカンファレンスイベントが7月10日に開催されることになり、ぼくも企画などを手伝っている。いま書いた、テレビに関するデータの最前線を探るセミナーイベントだ。テレビという端末が今後、新しい価値を開拓できるかどうか、ここで少しでも垣間見えればいいと思う。
興味ある方はぜひご参加を。→http://eventregist.com/e/TVdaigaku2015
【 プログラム 】
14:00 開場 14:30 スタート
●オープニング ●
エムデータとTV Rankのご紹介
● 第一部 ●
・ビッグデータ解析から見えるテレビの役割、サービスの変化
横山隆治氏(株式会社デジタルインテリジェンス 代表取締役)
・新視聴率測定システムSMARTから探るテレビの価値
福羽泰紀氏(株式会社スイッチ・メディア・ラボ 代表取締役)
—- 休憩 —-
● 第二部 ●
・VODディスカッション「コンテンツとの幸福な出会い」
船越雅史氏(HJホールディングス社・社長)
村本理恵子氏(エイベックスデジタル・常務)
モデレーター:境 治(エムデータ・顧問研究員)
—- 懇親会 —-
データは物事を立体的に見せたり、パッと見てもわからなかった側面をあぶり出してくれる。テレビの知らなかった部分に焦点が当たれば、また面白くなるかもしれない。
コピーライター/メディアコンサルタント
境 治
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