うちの娘(高一)はかなり変わった女子高生だ。小説が好きで中学生の頃は伊坂幸太郎などの人気作家のものを読んでいてまだ理解できたのだが、最近は純文学に走っている。芥川賞受賞時にワイン片手にテレビに映ってひんしゅくをかった田中慎也がお気に入りなので十分変なのだが、最近は遠藤周作を買いあさっている。遠藤周作ってあの狐狸庵先生とも呼ばれ違いが分かる男としてゴールドブレンドを飲んでいた作家、くらいしか知らない。もはや父の理解を超えてしまって今後が楽しみではある。
そんな娘は映画やドラマも好きで、やはり変わった趣味嗜好、もはや日本のテレビドラマは見なくなった。いちばんのお気に入りは『ウォーキングデッド』。ぼくも一緒に見て、今回はひときわ残酷シーンが多かったなあと娘に言うと「うん、満足した」と答えたりする。
『ウォーキングデッド』を発見したのはhuluだった。うちはAppleTVがあるのでhuluもAppleTV経由でテレビで見ている。娘はhuluでゾンビものをほとんど見たあげく、『ウォーキングデッド』にたどり着いた。シーズン3あたりまで入っていたのをひと通り見て、ついに放送に追いつき最新話をFOX TVで見るようになった。放送で見るに越したことはないが、何らか見逃してもhuluで視聴できて便利だった。もちろん録画はするのだけど時々忘れてしまう。ある時期からはhuluからdビデオに配信先が移った。こないだ最新話を見逃し、録画もしそこねていたので娘に責められた。そこでdビデオに加入して許してもらった。
『ウォーキングデッド』だけでなく、娘はhuluを利用し尽くそうとしている。ぼくの知らない間にあらゆるドラマ、映画を視聴し倒している。それにhuluのコンテンツは日テレが買収して以来ますます充実していて、メジャーな作品がかなり増えた。
いつの間にか彼女は、スピルバーグやタランティーノなど監督で作品を選ぶようになった。ぼくは一緒に見たいので「これもタランティーノ作品だよ」と勧めて見たりする。彼女はドライなので、「パパって映画のこと詳しいね」などと褒めたりはしないが、心の中ではリスペクトしてくれているにちがいないと勝手に信じている。
高校生がhuluやdビデオであらゆる映像作品を視聴できるなんて、すごい時代だと思う。ぼくは80年代に大学に入って東京に出てきて、東京中の名画座を、ぴあとシティロードを片手にさまよい歩いた。ヒチコック特集、鈴木清順特集、なんてプログラムが組まれると毎日通った。銀座にあった並木座へ行けば小津安二郎や黒澤明の作品が気軽に見れた。
でもお金も労力もかかった。大学時代に何していたかと言えば、名画座で映画を見ていた時間が5割くらいではないだろうか。アルバイト代は映画代と飲み代で簡単になくなった。
そんな努力をしなくても古今東西の映画が観られるhuluやdビデオは当時からすると魔法みたいだ。娘は合計1500円を月々払うだけで、学生時代のぼくより映画通になろうとしている。いや1500円はぼくが払っているからタダだな。
huluの会員数が100万人を超えたという。dビデオは400万人程度いる。JCOMのVODサービスは視聴可能世帯が300万位らしい。光テレビも確か100万世帯は軽くいる。他にもU-NextやAppleTVなどVODサービスは多様にあり、それぞれ数十万は会員がいる。重複は置いとくと、VODサービスの加入世帯は1000万程度いるのだ。
そんな中に、うちの娘は極端にしても、VODを頻繁に利用する若者たちが登場している。彼ら彼女らにとって、コンテンツワールドの入り口はVODなのだ。ぼくが何年もかけて名画座を回って得たコンテンツ体験を、娘たちは家にいながら一年間で獲得してしまう。
コンテンツ体験が加速している。娘たちの世代は、史上なかったほど目が肥えた視聴者になるのかもしれない。そこからどんな未来が見えてくるのか、見当もつかない。
コピーライター/メディアコンサルタント
境 治
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