先週は「ヒカキンのCMデビューは、放送と通信の融合の具体化かもしれない」という記事で、YouTuberヒカキン氏がテレビCMにデビューしたことの意義について書き、続いて「2014年のはじまりはメディアの変化を思い知らされた」と題した記事では、ネット動画が今年は盛んになりそうだと書いた。
2つ目の記事の中で触れたように、”もっとTV”で民放ドラマの定額見放題サービスがはじまった。これだけで十分びっくりしたから書いたのだけど、この連休中にさらにびっくりなニュースが飛び込んできた。
1月11日(土)21時からはじまった『戦力外捜査官』というドラマ。武井咲とEXILEのTAKAHIROが主演のコミカルな刑事ドラマで第一話はなかなか面白かった。鴻上尚史氏が脚本というのも注目だ。だがここではその内容はちょっと置いておこう。
びっくりなニュースとは・・・日本テレビがこのドラマを無料でネット配信しはじめたのだ。 具体的には、翌週の第二話放送前まで、第一話が無料で観れる。第二話も放送後から無料配信する。第三話も・・・といった流れで、つまり放送を見逃しても一週間はいつでもネットで視聴できるということだ。
ドラマ放送後のネット配信は、この数年で各局が体制を整えてきた。いまや、いわゆるキー局はすべてそれぞれ見逃し視聴のサービスを行っている。ただし有料だ。一時間ドラマだと300円程度を支払う必要がある。また視聴するためには各局のオンデマンドサービスに登録したり、あるいはGyaOなどの配信サービスに登録したりする必要があった。 ところが『戦力外捜査官』は無料なのだ!これは画期的、大英断だと思う。しかも登録手続も何も要らない。いきなり再生できてしまう。
ネットでの見逃し視聴を積極的に展開した方がいいのではないか。そんな議論は去年あたりから巻き起こっていた。『半沢直樹』ではtwitterなどで話題が盛り上がったのを見て、第3話とか第4話から見はじめた人も多かった。それまでの見逃した分を、たまたま録画してあればいいが、そうでないとネット配信で見ることになる。正規のサービスで見た人も多いと思うけど、違法にアップされているのをよくわからないまま検索で出てきたからと見た人も相当多いだろう。結局は違法で見られちゃうなら、局として無料で見せた方がいいのではないか?そしてそうすれば、話題になったドラマを途中から見てくれる人が増えるのではないか?そんな議論があちこちで聞かれた。かくいうぼくもそんなことを言っていたのだけど。
でもハードルは高い。無料で見せるならCMもそのまま一緒に見せたくなる。そして番組の提供スポンサーに、ネットでさらにこんなに多くに見られました、と広告収入をお願いすればいい。・・・のだけど実際にはそう簡単に成立する話ではないだろう。
また、せっかく各局ともオンデマンドサービスを整えて黒字になる局も出てきている中、無料にしてしまっていいのかという議論もあるだろう。何年もかけて努力してやっとビジネスになってきたのにと。きっと巻き起こったであろうそんな議論を乗り越えた日テレは、やるなあ、というところだ。
やるなあというのは、視聴する際に何の登録も要らない点にも感じた。他のサービスでもそうだけど、登録の手続きはコンバージョンを下げる大きな要因だ。でも普通に考えると、無料で見せる代わりに日テレオンデマンドへの登録だけはしてもらおうぜ、としたくなるものだろう。そこを割りきって、とにかく見てもらうことを重視したのは、やるなあ、ということだ。
無料配信するのは大サービスだが、例えば第四話を放送後に第三話を無料で見たら、第一話第二話も見たくなるのが人情というものだ。中には、前までのものを有料で見る人も出てくるはずだ。結果的にはオンデマンドサービスにプラスをもたらす、との皮算用もあったのではないだろうか。
<日テレいつでもどこでもキャンペーン>というタイトルが掲げられている。だから、これからずっと無料配信するとは限らない、ということだろう。キャンペーン期間中なのでサービスしてます、と。15日からはじまる水曜10時枠の『明日、ママがいない』もキャンペーンとして同様に無料配信するようだ。
また日テレのオンデマンドサイトだけでなく、GyaOやドガッチでも展開されている。自社サービスだけでなく多様なアクセスを可能にしているのも面白い。
この施策が例えば視聴率にどんな影響を与えるのかはわからない。プラスに働くはずだとは思う。「半沢直樹」では、ふだんテレビドラマをあまり見ない若者層も引きつけた。『戦力外捜査官』も、ネットで見て面白かったから放送で見てみよう、という人も出てくるかもしれない。それが視聴率という巨大な人数を動かさないと目に見える変化になってこない世界で、明確な影響を及ぼすに至るかはわからないだろう。ただとにかく、トライアルの精神が大事だと思う。
これを契機に、各局のドラマが無料配信されると面白いなと思う。そしてドラマに限らずすべての番組が気軽に放送後にネットで視聴できるようになったら、テレビ番組に接触する人が増え、やがては放送で見る人も増えるのではないか。あるいは、ネットだけで見ることでも、ビジネス化は可能なのではないか。行き詰まりつつあるテレビ放送の新しい形が見えてくるかもしれない。
それにしても今年は、やはりネット動画が加速しそうだ。その影響はあちこちに及んでいくと確信している。ぼくはネット動画にどう取り組むべきかについてもアドバイスできると思うので、何らか考えたければコンタクトしてください。ローカル局や、映像を扱ってこなかったメディア企業に対して、いろいろ助言できるつもりだ。
コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント
境 治
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@sakaiosamu
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