前回の記事で話がそれちゃったけど、もともとは1月末に日本映画製作者連盟から発表された2011年の映画産業統計から思うところを書いてきたんだった。そして前々回は90年代から邦画と洋画の興行収入トップ作品を書き並べて見えてくることを書こうとした。書こうとして、作品を書き並べた段階で眠くなって中身を書いてなかったんだよね。というわけで、今回はその続きから。
でもわかりにくいので、もう一度その”書き並べた”ものを見てみよう。
邦画 洋画
1990年 天と地と(101億) バックトゥザフューチャー3(110億)
1991年 おもいでぽろぽろ(37億) ターミネーター2(115億)
1992年 紅の豚(56億) フック(46億)
1993年 ゴジラ対モスラ(44億)ジュラシックパーク(166億)
1994年 平成狸合戦ぽんぽこ(52億) クリフハンガー(80億)
1995年 耳をすませば(37億) ダイハード3(96億)
1996年 ゴジラ対デストロイヤ(40億) ミッションインポシブル(72億)
1997年 もののけ姫(226億) インディペンデンスデイ(133億)
1998年 踊る大捜査線(100億) タイタニック(320億)
1999年 ポケモン(70億) アルマゲドン(167億)
2000年 ポケモン(48億) M:I−2(97億)
2001年 千と千尋の神隠し(304億) A.I.(97億)
2002年 猫の恩返し(64億) ハリーポッター(203億)
2003年 踊る大捜査線2(173億) ハリーポッター(173億)
2004年 ハウルの動く城(200億) ラストサムライ(137億)
2005年 ハウルの動く城(196億) ハリーポッター(115億)
2006年 ゲド戦記(76億) ハリーポッター(110億)
2007年 HERO(81億) パイレーツ・オブ・カリビアン3(109億)
2008年 崖の上のポニョ(155億) インディジョーンズ(57億)
2009年 ROOKIES-卒業- (85億) ハリーポッター(80億)
2010年 借りぐらしのアリエッティ(92億)アバター(156億)
2011年 コクリコ坂から(44億) ハリーポッター(96億)
※ハウルの動く城は11月公開のため二年にまたがっている。ちなみに2004年のハウルの次は「世界の中心で愛を叫ぶ」(いわゆるセカチュー)
まずはっきりわかるのは、90年代半ばがいかに危機的状況だったか。邦画だけでなく洋画も大きく稼げず、このままでは日本の映画産業がひたすら衰退していくんじゃないかと不安だった。この頃は、映画のポスター製作をコピーライターとしてやっていたので、すごくよく憶えている。
それが97年、「もののけ姫」のおそるべき大ヒットで救われ、翌98年の「踊る大捜査線」の信じられない大ヒットで勢いづいた。2001年には「千と千尋の神隠し」のわけわからないほどの大々ヒットでイケイケになり、2003年の「踊る大捜査線2」の宇宙がひっくり返る大々ヒットで有頂天になった。
そこから2000年代はずーっと、有頂天だった。有頂天にならなきゃ、例えば「ALWAYS 三丁目の夕日」のような作品に出資はできなかっただろう。いま思えば幸福な時代。
「ALWAYS」は最初の作品が登場後、運良くシリーズ作品になれた。でもそれ以外の作品は、時代のあだ花のように生まれてはウハウハと映画界を潤わせてぱーっと散っていった。そんな作品群が次々に咲くことができたのも、ハリーポッターや踊る大捜査線のようなメガヒットシリーズのおかげだ。メガヒットが映画関係者を安心させたから、他の作品も世の中に出てこれた。
でもなぜか、ハリーポッターはシリーズが終わってしまった。ジブリアニメはもう100億は超えられないだろう。そういう”牽引役”がもう退場しはじめた。
ずいぶん前にこのブログで「メディアの選択肢が増えるとデフレが起こる・カッコ仮説」という記事を書いた。ほぼ同じことは『テレビは生き残れるのか』にも書いた。たぶんこの”仮説”はあたっていると思う。
コンテンツがあらゆるメディアで湯水のように楽しめるようになると、メガヒットが出にくくなる、というのが仮説の要約で、これは音楽業界でいち早く起こった。90年代はメガヒット目白押しだったけど、配信で音楽は新旧合わせて洪水のように楽しめるようになった。ロングテールが足をどんどん伸ばすとともに、トップセールスの作品の頂点は下がっていく。メガヒットが出なくなるのだ。論理的に理由は言いがたいけど、感覚的にはわかるっしょ?
例えばいま、ぼくは映画をCATVの映画専門チャンネルで録画すればいろいろ観れる。もちろん地上波でも頻繁に放送する。CATVのVODサービスにも入っているし、AppleTVでは新旧多様な作品が400円とか500円とかで家にいながら視聴できる。その上、Huluでは溢れんばかりの作品群が見放題だ。HuluはPlayStation3経由で視聴できるので、リビングの液晶テレビでソファに寝転がりながら見ることができるのだ。
そんな中で映画館に出かけて観る理由がどんどん薄くなっている。3Dも正直飽きた。疲れる。よほど鳴り物入りじゃない限り人々は映画館に足を運ばなくなるのだろう。
日本の映画産業は、興行収入2000億円でやってきた。それはハリーポッターとジブリと踊る大捜査線的な作品たちのメガヒットのおかげだ。メガヒットがもう出ないなら、2000億円の水準は1800億円にぐいっと下がり、その後もじわじわと下降線を描くのだろう。そしてそれは不思議と、2兆円水準だったテレビ広告費がリーマンショックで1兆7000億円にぐいっと下がり、そこから下降線をたどりそうな状況と一致している。
メガヒットが出ない。そんな状況についてもう少し語っていきたい。というわけで、まだまだ続くよ・・・
そうそう、ところで今年に入って境塾の活動をまだやってなかったんだけど、3月にちょいと開催しようと思ってます。詳細は、もうじき発表できるんじゃないかな。まあ、お楽しみに!
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