高度成長という祭りの社〜「ALWAYS 三丁目の夕日」におけるテレビ

前回の記事に続いて「ALWAYS 三丁目の夕日’64」をネタに書くよ。でも今回はテレビの話。

「ALWAYS 三丁目の夕日」のシリーズを観てきた人なら、この物語にとってテレビが重要だってわかってるよね。とくに第一作では鈴木オートにテレビがやって来たシーンがあった。商店街の仲間たちがテレビを見に鈴木家に集まってくる。この頃は、お茶の間どころか、ご近所で共有するのがテレビの視聴スタイルだったのかな。生のソーシャルテレビ、ってとこだね。

これが今回の三作目では進んだ状況になっている。貧乏作家たる茶川家にも、64年になってようやくテレビがやって来る。でも白黒テレビだ。ところが、その白黒テレビを運んできた電気屋のトラックが、鈴木家にはカラーテレビを運び込むのだ。「もう主人ったら新しもの好きで」と近所に言い訳しながらうれしそうな薬師丸さん演じる奥さんが可笑しかった。

そしてこの1964年は東京オリンピックの年だ。これを、またもや商店街のみんなが鈴木家のカラーテレビに集まってきて応援するのだ。ブラウン管の中でブルーインパルスが五輪を空に描くのを観てみんなで盛り上がる。その時、外に出て空を見上げると、ブラウン管と同じ五輪がいままさに描かれていた。それを見て商店街中で空に向かって歓声を上げるのを上から見つめるシーン。素晴らしいシーンだし、この時代を象徴しているなと思った。

少し前の記事で、1969年に書かれたテレビ論の書籍『お前はただの現在にすぎない』について書いた。テレビとは何かをこれほど言ってのけた言葉もないだろう。

そしてブラウン管の中の”空の五輪”を、実際の空を見上げて発見するこのシーンは、まさしく「お前は現在にすぎない」ことの象徴だと思った。ただし”すぎない”ではなく「お前はなんと素晴らしい現在だ!」ってことだけど。

そしてテレビの役割が、これほど端的に理解できるシーンもないと思う。テレビは”日本”という共同体の気持ちをひとつところに集める壮大な装置なのだ。”日本”という人間集団にとっていま現在、何がいちばん大事で、見つめるべきもっとも大事な出来事が何かを指し示す、それがテレビジョンなのだ。

「おれたちあれを見たよな!」「私たちその瞬間を見たわよね!」と互いに確認しあうことで、「ぼくたちは日本というひとまとまりの共同体の”仲間”だよね」と認めあうことができる。こうして明治以来の新しい日本の建設が達成されたのだ。

だからいま、バブル後の失われた二十年が過ぎたタイミングで東日本大震災が起こり、さらには世界で”先進国”が経済的にダメになりつつあることと、マスメディアが斜陽なムードになり新たなメディア論が語られていることは、必然なのだろう。高度成長がとうに終わった2010年代には、1億3千万人が「ぼくたち”仲間”だよね」と能天気に確かめあうのは間が抜けすぎているだろう。

それよりも「集まるべき人同士で集まろうぜ」というツールであるソーシャルメディアが必要なのだと思う。それが先にある上で、そこにマスメディアがどう役割づけされるかがポイントなのだ。決して「はい、マスメディアは全部いらなくなりました!」ってことではなく、むしろ、ソーシャルの力を引き出す牽引役であり増幅するブースターとして、今までとは別の必要性が出てきている。

一平はその後、鈴木オートを大きくしたのだろうか。淳之介は育ての親を超えて芥川賞を受賞したのだろうか。おそらく両方ともそうなったのだと思う。団塊の世代は結局、成功し続けてきたから。でも彼らの子供たちはこの2012年、団塊ジュニアとして30代半ばになっている。父親達が無垢な心で日本の繁栄を謳い上げたのとはちがい、ジレンマだらけのニッポンを背負って夜中にこっそり集まって、それでもこの国の未来を考えはじめている。

テレビはもはや高度成長の祝祭の社ではない。そんな楽しいものではなく、自分たちが夜中にソーシャルメディアで語り合っている秘かな議論の増幅装置なのだ。増幅しても”日本中”という巻き込み方はできずにいるのだけど。

テレビに求められることは、これから複雑だなあ。でも、役割はあるよ。むしろ、ある。すごく、ある。

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