この時間は”おいらとあんたの世界戦略・その7”の予定でしたが・・・ってなかなか世界戦略を書き進めないのだけど。
献本をいただいたのだ。もちろん佐々木俊尚さんの本だからさあ。書かないわけにはいかないっしょ。だって”第一使徒”だからね。
決闘 ネット「光の道」革命 (文春新書) | |
孫 正義vs佐々木 俊尚 | |
文藝春秋 |
ただこの本、佐々木俊尚著作、とはちょっとちがう。孫正義氏と佐々木さんのUst対談を書籍化したものだ。
この対談、たぶんこのブログの読者の方なら知ってるよね?うーんでも知らない人もいるかもしれないから、いちおうおさらいしておくとね。
孫さんが、「光の道」つまり光ファイバーによるインターネット回線を日本の全世帯に100%普及させるべき、と唱えた。しかもそのために税金は一切要らない。これによって日本の構造改革が実現するのだ!と訴えた。
これに対し、佐々木さんが反論した。CNET Japanで佐々木さんが「ジャーナリストの視点」というブログを時々書いている。そこに「ソフトバンクの「光の道」論に全面反論する」と題したエントリーを書いた。すごく長くて、上下2回に分かれているほどだ。
佐々木さんの反論のポイントはシンプルに言えば、インフラが整うかどうかの前に、ITの利活用が全然整ってないので、そっちが先だよ、90%も普及している日本のブロードバンドはインフラとしてはすでに十分だよ、というところだ。
この佐々木さんの反論を受けて、Twitter上で孫さんが佐々木さんに討論を申し出た。佐々木さんは承諾し、どうせなら公開の場で、だったらUstreamで放送しながら議論しましょう、となった。このUstream配信にはこれまたTwitter上でケツダンポトフのそらのさんが担当したいと申し出た。
こうして行われた孫さんと佐々木さんの討論を書籍化したのが『決闘 ネット「光の道」革命』だ。
さて、ここで重要なのが、この一連のやりとりがすべてTwitter上で行われたことだ。そしてそれがUstreamで配信されたこと。これはよく考えると、画期的な出来事だ。ソーシャルメディアというものが、革命的な現象を引き起こすことが明確になったと言える。
だってね、これまでの感覚で、大企業のトップとジャーナリスト(しかもフリーランス!)が対談しようという相談がこんなにおおっぴらに行われるなんて、なかった。ありえなかった。もちろん、孫さんだから、佐々木さんだから、成立したんだろう。でもそれにしても、いままでの感覚だと、ありえない。電話で、あるいはせいぜいメールで、秘書とかアシスタントとか出版社とかを通して私的なやりとりを経た上で行われたことだ。誰もが見えちゃうTwitter上で交渉して成立しちゃうなんて、前代未聞だ!
ということで、この本『決闘 ネット「光の道」革命』は、そういう経緯からして、普通の本として受けとめるもんでもないだろう。
だいたい、この本、全体的にヘンなの。討論の書籍化だからとは言え、本のタイトルに「決闘」なんて入れる?2段に分れているから気づかないけど、決闘 ネット「光の道」革命、という文字の並び方は本のタイトルとしてすごく奇妙だよありえないよ。
それに上の写真でもわかるけど、本の帯に佐々木さんと孫さん二人の写真がどーんとデザインされている。”時間無制限・一本勝負”とか書いてある。なんだそれは?プロレスの試合かい?
試合かい?と書いて自分で気づいたのだけど、この本は、そうなんだよ、試合のあとの本なんだよ、この本を読むために買うものじゃないんだ。試合のパンフレット、みたいなもんなんだ。試合を生で見た人は、その解説として読めるわけ。全部細かに読む必要ない。結局、孫さんの主張は何だっけ、と確かめるために読むの。途中でそうそう、風呂に入ったからこの部分、見れなかったんだよなー、と確認するために読む。最後の方はさあ、酔っぱらった孫さんの話を聞いてあげてる佐々木さん、って感じだったよなあ、この部分はホントはそうなんだよなあ、と笑うために、読む。
試合を見そこねた人にはもちろん、価値がある。ああ、あの時見れなかったんだよねえ。あとで見ようとしたけど、Ust番組ってあとで見る気しないんだよねえ。うんうんなるほど、そんな討論だったのか。そんな風に、直接見れなかった舞台のシナリオを読むように読むといいわけだ。
ちなみにね、この討論の内容自体がどれだけ価値があるかは疑問。Ust放送を見ていると、だんだん孫さんの独壇場になってきて、しまいにはホントに酔っ払いのおじさんがどんどんしゃべるのを、仕方なく聞いてあげてる佐々木さん、という構図になってしまった。ぼくにとって印象に残ったのは、孫さんのご高説の内容より、でかいことやる経営者って人の意見を聞かないんだなーやっぱり、ということだった。
でかいことやる経営者は、それでいいんだと思う。人の意見なんか聞いてたらでかいことなんかできない。その辺りは、この本のために佐々木さんが書いた「ソフトバンクは”モンゴル帝国軍”である」という文章に書かれていることともリンクしている。書籍らしい価値は、実はこの文章にあったりするんだな。
ということでこの本は、熱心に買って熱心に読む、というより、”例の試合のパンフレット”として買っておこうかな、という気持ちで接するといいと思う。2010年、ソーシャル元年の記念品、みたいな。
ところで孫さんの「光の道」の主張そのものに、ぼくはやや懐疑的。池田信夫先生も、ブログのこのエントリーで批判的に書いておられる。スマートフォンを使っていると、WiFiが日本中で使えればいいのに、と思う。たぶん、十年もすればありえる話になるんじゃないの?
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私も2度程ustで両方の意見を聴き分けました。孫さんはボーダーフォンを2兆円で買収して見事業績を立て直したキャリアのTOPです。NTTの経営資料から精密に分析した上だから、事業可能なプランだと評価するものです。佐々木さんはITジャーナリストの立場から、全部無理やり光に替える必要はない。コンテンツの充実等他に先にやることがあるだろうという意見だったと捉えました。でも、高度情報社会にする為、通信インフラを全国津々浦々に引く必要があること。メタルと光回線の2重投資は非効率でメンテナンスコストが将来大きな負担になること等の経済合理性では孫さんに一貫性があったと思います。一義的には、通信会社がコンテンツまで自己調達して何かサービスする義務は無い筈です。これを利用する需要家(コンテンツホルダー等)が用意して、ここで流通させて成り立つものです。21世紀の高度情報通信社会では、10年後に今の千倍の情報爆発が起こると孫さんがいっていました。”税金を1銭も使わずにこれをやって見せる”と大見えを切った”平成の坂本龍馬”だと信じてやってもらっていいのでは?孫さんなら、きっとやり遂げる人物です。めったにこんな提案をする人は経済界にいませんよ。