前回の”映画興行10年グラフ”を見つつ、あるいは日本映画製作者連盟のデータを参照しつつ、興行から見た日本映画の基礎情報を書いていこう。
まず昨日の”ひま人”さんのコメントでもあったように、2009年の10億円以上の34本のほとんどが東宝配給。東宝以外は12本だけ。2/3が東宝だってわけ。かなりの”寡占”状態だと言える。
コメントでも書いたように、これははっきり言ってこの15年間ぐらいの経営努力の差が出た。東宝には戦略があったのに対し、東映と松竹にはなかった。戦略に差があったのではなく、戦略があった1社と戦略がなかった2社ということ。実際、20年30年前のヒット作リストを見てもらうと、東宝・東映・松竹に大きな差があったわけではないのがわかる。
もともと東宝の映画館は繁華街のいい場所にあった。その上、改装をしっかりやってきれいな劇場にしていた。東映と松竹は繁華街での陣取りがヘタだった上に改装も遅れた。
そこへシネコンがやって来た。映画は郊外のショッピングセンターのシネコンで観るものになり、繁華街にはいらなくなった。でも東宝の映画館は陣取りが良かったのでけっこう生き残った。そいでもって、ヴァージンを手に入れた。東映と松竹もシネコン展開をやろうとしたが、ヴァージンを手に入れてドカンとシネコンを手に入れた東宝は戦略的勝利を収めた。
一方、この15年間ぐらいで、テレビ局+配給会社、が映画製作の軸になった。これも東宝がいちばん上手にやった。ある意味、変に意地を張らずにテレビ界と手を組んだのだ。
90年代前半あたりまでは、テレビ局が映画製作にからむのは”そういうこともある”感じだった。それがこの15年間で、”それが当り前”になった。
10億円以上が34本。邦画の興行収入が1173億円という快挙は、こうした東宝戦略の総決算的な結果だと言える。
さて一方で、日本の映画興行市場はこの10年間、2000億円を行ったり来たりしてきた。どうもこれ以上増えそうにないのだ。あるいは、入場者数は1億6千万人前後を行ったり来たりだ。興行市場は増えない。日本人はこれ以上映画を見ないのだろう。
そうすると、1173億円は、臨界点かもしれない。2000億円市場の6割。これがいいとこなんじゃないか。
もしそうだとすると、2009年は、東宝+テレビ局による映画づくりのひとつの到達点なのかもしれない。そしていま、テレビ局は急激に体力を失いつつある。
これから、また別のパターンの映画づくりがはじまるのだよ、おそらく。いや、新しいパターンを試行錯誤していかないと、まずい。ああ、2009年は良かったな、最高だったよ、でもあの頃にはもう戻れないよなおれたち。10年後、青春を振り返るおじさんみたいなことを言ってるのかもしれない。
うん、そうなっちゃ、いかんよね、やっぱね・・・
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「東宝の独り勝ち」について、疑問に思っていたことを詳細に解説していただきましてありがとうございました。そういえば、シネカノンが会社更生法申請しましたね。http://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/3209.html関わりのあった企業なだけに、寂しい気がします。