興行収入は作り手にどう還元されるかのつづきのつづき〜日本映画産業論その1.7〜

興行収入で20億円のヒットとなった、というケースを例に語ってきた。言っとくけど別にこれ、特定の作品じゃないからね。あくまで一般論。

製作費は5億円と仮定した。そうすると劇場からの収入では出資者である”製作委員会”にはお金は残らずトントンだと。でも作った人たちには製作費5億円が支払われている。5億円!だったらいいんじゃない?って気になってくるよね。

でもね、映画ってお金がかかるんだ。すげえかかるんだ。

この製作費は映画制作に責任を負っている会社、つまり制作会社とか制作プロダクションとかいわれる会社に入るわけだ。そこには制作を実際に進行するプロデューサーがいて、彼がそのお金を使って制作を進めていく。

はい、ここで豆知識。いま”映画をつくる”ことに関して”製作”と書いたり”制作”と書いたりしたでしょ。これはランダムに変換しているわけではない。製作と制作を使い分けているの。

製作、つまり”衣”のつく方は、出資する人を軸にした作業を言う。そして制作、つまり”衣”のつかない方は具体的な映画づくり、脚本を進めたりスタッフィングをしたりスタジオをおさえたりスケジュールを管理したり、そういう時に使う。

いつからかは知らないけど、そういう使い分けを映画業界ではしているらしい。はい豆知識終了。

で、とにかく5億円は”制作”側が使う。5億円もあったら余裕綽々でつくれそう。でも意外にそうでもないんだな。

映画は”絵”を作る作業だ。いろんなところにいろんな方向のお金がかかる。

いちばんお金がかかるのは広義での美術費にかかる。ようするに、セットやCGだね。

映画はセットをこさえて作るんだ。なにげに各場面に出てくる街並みだの家の中だの、なんとなーくみてるとわかんないだろうけど、その場所そのものがつくりものだ。未来の町、昔の町、そして現代の町でも、セットだったりする。そしてそこには莫大なお金がかかる。

だって考えてみて。家を一軒だけ建てるのに何千万円かかかるわけで。それが並んでる。いわゆる書割りで裏が平べったかったとしても、見応えのある映像にするにはかなり作り込まないといけない。

実際につくるのにはお金がかかりすぎるね、というので最近はCGがかなり使われる。コンピュータ上の絵だから実際に作るよりはそりゃ安く済む、っていったって、やっぱりスクリーンでどーんと見せてリアルにするには細かな動きまで、結局はつくりこむ。CGでもかなり時間とお金がかかってくる。

映画にはそんな風にあちこちに意外にお金がかかる。そしてまた人件費には意外にお金をかけられない。

例えばメインのスタッフ、監督とか脚本とかカメラマンには3百万とか5百万とか1千万とか、まあその人のランクによっていろいろだけど、そんなとこ。監督に5百万って高いと思う?でもね、映画監督ってすごい長丁場の作業なんだ。2年とか3年とかかかる。撮影前もなんだかんだ準備に時間とエネルギーをとられる。撮影に入ると2ヶ月とか毎日やることがある。仕上げまでにまたやることいっぱい出てくる。

次から次にこなしたとしても、多少は複数案件を走らせたとしても、5百万円は決して高くはない。でも何千万も払えない。

そんな感じで、人件費にはあまりお金をかけられないとかいろいろありつつ、5億円は決して法外ではない。かけ過ぎではない。

だから、5億円の製作費で、作り手たちは四苦八苦しながらなんとか乗りきる。制作会社はもちろん利益を残して使うだろう。でもなかなか多くは残せない。例え10%の5千万残せたとしても、2年とか3年とかの人件費だなんだかんだを考えると、ちっともウハウハじゃないわけ。

もっと言えば、5億円はいい方だ。3億円とか2億円とか、それぐらいの方が多い。

というわけで、5億円で作った映画が20億円の興行収入になっても、作り手には大して還元されないんだ。

ここまでは、あくまで劇場での収入はね、という話だった。この先にはまだ奥がある。奥まで行っても、結局は作り手には大して還元されないんだけど、もう少し奥まで語るね。あ、でもそれは次回にね・・・

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