ディスカバー・トゥエンティワンの人からも、そしてご本人からも少し前から聞いていたのだけど、志村一隆さんの新たな著作が発売された。
タイトルは『明日のメディア』。これに「3年後のテレビ、SNS、広告、クラウドの地平線」というサブタイトルがついている。
『明日のメディア』というタイトルはもちろん、去年出版された『明日のテレビ』に対応したタイトルだ。実際、志村さんというと”テレビのことを書く人”というイメージだが、この本ではテレビに限らず多様な事柄にふれている。
内容を解説する前に少し自慢すると、ぼくはこの本、先週ご本人から送っていただいて手にした。ふっふっふ。いいだろう!その上に、写真のようなメッセージも添えられていた。「イの一番に送ります」だよ!なんか”盟友”って感じ?でっへっへ。
さてこの本、いままでの志村さんの2冊の本(『明日のテレビ』『ネットテレビの衝撃』)に比べるとずいぶんちがう点がある。”熱い”のだ。うかつに触るとやけどするかも。ってのは大げさだけど。もちろん文体は落ち着いたものだし、いつもにも増して海外などの情報も豊富で、最新のメディア研究書だと言える。でも、熱いのだ。アジテーションしているのだ。
それがもっともあらわなのが”おわりに”の中のこの一文。「もう方向性は決まっているのです。あとは、行動するのみ。」
「行動するのみ」の部分だけ太文字になっていたりして、あからさまなアジテーションだ。もうだいたい見えてきたよな、次のメディア構造はさ。あとはもう議論するより、やってみるしかないんでね?なんだったらおれ、手伝うよ。そんなメッセージがはっきりと伝わってくるようだ。
メディア論として重要な要素はいっぱいある。例えば最初は「アメリカの雑誌は宅配が中心だった」という話からはじまる。なんでそんな話なの?と思ってると、「宅配だから顧客データが集まり、だから広告メディアとして価値があった」という流れになる。なるほど。気づかなかったけど、アメリカのメディア事業は最初から顧客データで成り立っていたのか。それがいまのネット広告の手法にもつながっているのかな、と感じとれるのだけど、つまり今回はそういう話なのだ。
広告の話はこの本の重要な要素で、アドテクノロジーの話も出てくる。ちょっと驚いたのだけど、実は志村さんはモバイルメディア事業の立ち上げを過去にやっているので、ネット広告の仕組みもよくご存知なのだろう。ネット広告の最新の仕組みの話が出てくる。アドエクスチェンジは今後日本でもすごく重要な仕組みになるから、みんなも知っておいた方がいいよ。広告は、場所から人にひもづくものになる、ということでね。
さらに志村さんは、人の価値観の話にまで踏み込んでいる。第6章のタイトルは「スマートテレビと表現論、そして自律した個の誕生」となっている。「表現論」で「自律した個」だよ。メディア論としてはメディアの話を逸脱している。・・・けれども、メディア論は表現論と切り離せないし、「社会と個人」の関係にどうしても至ってしまう。そこまで考えることで次のメディアも見えてくるのだ。
マスメディアはどうしても、大量生産によって形成された大きなコミュニティ(=国家)とセットなものだし、大量生産大量消費が崩れるとマスメディアの存在意義はどうあがいても薄れてしまう。
もちろんそこには志村さん自身の特質も関係している。墨絵作家としての一面も持つ志村さんは、だから表現者でもあるのだ。あるいは、WOWWOWに入社し、アメリカに留学してMBAを取得し、WOWWOWで新規事業を立ち上げ、というキャリアの中で強い自律意識を培ってきた、というのもあるのかもしれない。
メディアを語りたがる人は、個の自律を強く意識している人なのかもしれないね。ぼくもそうなんだろうし。
『明日のメディア』には志村さんの表現者としての側面がかいま見えるちょっとした仕組みがあって、このflickrサイトでこの一年の取材で訪れた世界各地の写真を閲覧できる。『明日のメディア』を読んでいると、日本のメディア状況は決して普遍的なものではなく、各国で多様な状況が生まれていることがわかる。写真を見ていると、そんな他次元的なメディア状況を、理屈でなく気分良く肌感覚で感じられる。これも、”新しい読書体験”なのかもしれない。
『明日のメディア』はぼくの『テレビは生き残れるのか』と同じディスカバー携書のラインナップ。書店の皆さん、ぜひ、並べて売ってくださいね!実際、続けて読むと、なかなか面白いんじゃないかなー、なんてね!
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きょう立ち読みしましたが、「ディスカヴァー21」になったからなのか、「ネットテレビの衝撃」よりはるかに読みやすい感じがしましたのし、目次見ただけでアツさは十分伝わりました。読むのが楽しみ。。。