あらためて思い知ったハリウッドシリーズ大作の奥行きとスケールの大きさ
連休中に映画館で「アベンジャーズ/エンドゲーム」を観た。ご存知の通り、マーベルコミックのヒーローが総動員されて壮大な戦いを繰り広げるハリウッド大作だ。「アベンジャーズ」とタイトルについたシリーズとして4作目、それぞれのヒーローが主役の関連作品まで含めると22作目。上映時間も3時間と、かなり見応えある作品で楽しめた。
私は実は、このシリーズを見くびっていて、これまで見ないで来た。ヒーローが全員集合するなんて馬鹿みたいに思えたからだ。最初のを観てないと次のがわからなくなるので、前作から見るのがめんどくさかったのもある。今回は、異様に盛り上がっているので「おさえておく」気になったのと、テレビ朝日が最初の「アベンジャーズ」を放送したのも刺激になった。「エンドゲーム」は前作の「インフィニティウォー」と繋がった物語だというので、それは配信サービスで事前に見ておいた。
馬鹿にしてたくせに見たらハマってしまい、この10連休は関連作品の制覇に取り組んだ。見れば見るほど、キャラクターの奥行きや、関係性も理解できて「あの場面であいつが言ったセリフは、この作品に伏線があったのか」などと感心したりした。
一方、私は「ゲーム・オブ・スローンズ」というテレビドラマシリーズにもハマっている。アメリカのケーブルチャンネルHBO製作で、中世のイギリスをモデルにした架空の世界で七つの王国が繰り広げる壮大な戦いが描かれる。何十人もの主要キャラクターが登場し、次々に殺され物語を退場していく。ドラゴンや魔法、氷のゾンビも登場しファンタジーの要素も強い。見応えがありすぎてたまらないドラマだ。こちらも、これまで7章が放送され、最終章が今放送中。日本ではスターチャンネルで放送されている。私はこの「ゲースロ」を娘に勧められて見るようになり、最新作が見たくてスターチャンネルに契約した。huluの契約者なら7章まで視聴できるので、興味ある方は見てもらうといいと思う。
ハリウッド大作の巨額の製作費をカバーする、世界という市場
「アベンジャーズ」も「ゲーム・オブ・スローンズ」も、見ればわかるが莫大な製作費をかけている。「アベンジャーズ」第1作目だけで2億2千万ドルだったと聞く。「ゲースロ」は1話に1千万ドルかけているとの噂だ。ハリウッドの普通の映画やドラマと比べて格段に高い。なぜそこまで予算をかけられるのか。答えはシンプルで、莫大な利益が出るからだ。「アベンジャーズ」第1作目はアメリカ国内だけで6億2千万ドル、世界全体ではその倍以上、15億ドルの興行収入を稼いだ。興行収入がそのまま製作側に入るわけではないが、仮に劇場や配給が10億ドル持っていったとしても5億ドル戻る。2億ドルが5億ドルになって返ってくるなんて普通の金融商品ではあり得ないだろう。だからアベンジャーズシリーズはメリルリンチの資金調達でスタートしたそうだ。莫大なリターンを想定して融資を受けられるから巨額の製作費がかけられる。
ここで注意したいのは、自国市場だけでは6億ドルだったことだ。2億が6億になればいいように見えて、劇場や配給会社の取り分を考えると金融的には旨みが今ひとつ薄いことになるだろう。メリルリンチも融資の二の足を踏んだかもしれない。だが世界興行で15億ドルになるなら話は別だ。この原稿のポイントはそこだ。スケールの大きなハリウッド巨編は、世界市場があるから製作できるのだ。自国市場だけでは、アベンジャーズは地球を出ることはできなかった。彼らが宇宙でのびのび戦えたのは、世界の映画ファンのおかげだったのだ。
テレビドラマも同じことだろう。資料がなく詳しい数字はわからないが、HBOのドラマシリーズは世界各国で見ることができる。だから壮大なファンタジーを映像化できるわけだ。自国市場だけではドラゴンも空を飛べず、魔法は効かなかっただろう。私のスターチャンネルへの契約料が、巡り巡ってドラゴンを飛ばせているのだ。
ひるがえって、我が日本の映画やドラマはどうだろう。宇宙や魔法どころか、日本の小さな世界から出ることはない。しかも、警視庁や弁護士事務所、東京の会社や家庭が舞台だ。”壮大な”世界に出ることは決してない。何故ならば日本の映画やドラマは、世界で市場を作れていないからだ。
放送コンテンツの海外展開は業界のホットイシュー
映像コンテンツ産業が世界市場に出ていないことへの苛立ちは、霞が関でも感じているようだ。2018年6月に提出された規制改革推進会議の第3次答申の中でも、「グローバル展開・コンテンツの利活用」の項目が設けられ、「放送コンテンツの海外展開の支援」が求められた。そうだ、上述の通り、日本の映画やドラマは海外に展開できていない。ハリウッドのように世界市場を確立できていないのだ。
ただ、この方面にある程度アンテナを張ってきた私としては、進んでいないというより、ようやく進みはじめたように受け止めている。佛教大学の大場吾郎教授の労作「テレビ番組海外展開60年史」を読むと、日本のテレビ局は60年代には早くも海外展開に緒をつけていたことや、実は90年代には展開が開けそうな状況だったことがわかる。だが2000年代以降、なぜか進捗は止まった。
それが近年、あらためて海外展開が盛り上がる空気が漂っている。いろんな要素がありそうだ。長らく日本の放送に関与する人びとが「配信」に理解がなかったのが、さすがにビジネスのアウトプットとして意識するようになったこと。海外展開というとパッケージ販売と思いがちだがフォーマット販売やリメイク権販売など多様なビジネスも広がってきたこと。そして実際に”売れた”事例が出てきて、業界内でも知られるようになっていることもある。さらに今、ローカル局も事業目標の一つとして海外展開を掲げるようになり、うまくいった事例も見受けられるようになったのも大きいだろう。海外展開は、キー局ローカル局を問わず、放送業界のホットイシューになっているのだ。
とは言えまだまだ、放送コンテンツの海外展開について、知られていないことの方が多いだろう。どこに課題があり、どうすれば乗り越えられるのか。それを共有することは放送業界の喫緊の課題と言っていい。
海外展開の知見が豊富なメンバーによるセミナーを5月29日に開催!
そこで私は、SSK新社会システム研究所の企画として、放送コンテンツの海外展開をテーマにしたセミナーを立案した。以前からお付き合いもある、3名のパネリストを迎えて海外展開に関する知見を披露してもらう。また4月にカンヌでMIPCOMが開催された直後でもあり、そこでの最新動向もお聞きしたい。さらには、この秋にDisneyとAppleがそれぞれ新たなSVODサービスをスタートする中、配信市場の第2ステージが訪れることでどんな変化が起こるかも議題にしたい。そしてもし可能なら、放送コンテンツの海外展開の日本の成功モデルはどんな形かも議論から見出したいと考えている。
パネリストは以下のお三方だ。
佛教大学 社会学部教授 大場吾郎氏
TBSテレビ メディアビジネス局 海外販売事業部 担当部長 杉山真喜人氏
日本テレビ 海外ビジネス推進室海外事業部 次長 西山美樹子氏
大場教授は先述の著書をはじめ、このテーマを長らく研究しているが、実は以前は日本テレビの社員だった。内側の視点も持つ研究者としてその意見は貴重だと思う。杉山氏は何と言ってもTBSの「SASUKE」を世界中に売ってきたベテラン。フォーマット販売の分野を切り開いてきた第一人者だ。西山氏は番組制作の現場を経て、近年の日本テレビの海外展開をリードしてきた。「Mother」「Woman」などのリメイク権をトルコなどに販売し、新しい手法とルートの開拓に成功している。
杉山氏や西山氏などの活躍を遠くから見てきた私としては、日本のコンテンツの海外展開は進んでいると力強い実感を持っている。同時に、まだまだ課題も多く乗り越えるべきハードルの高さも見知ってきた。ただ、ここ数年で目に見えて実績が上がっているように思う。数字ではまだ小さいかもしれないが、耳に入る具体的な良い情報が増えているのだ。日本のコンテンツは今、確実に世界市場に踏み出していると思う。それを広げていく一助に、このセミナーがなればいいという思いだ。興味ある方はぜひ以下のリンクから申し込んでもらいたい。そしてあなた自身の活動に役立ててもらえればこんなにうれしいことはない。
セミナー申し込みページはこちら→SSKセミナー「【令和時代の日本のコンテンツ輸出】テレビ局海外展開の最新動向と将来像」
日本発の「アベンジャーズ」が、「ゲーム・オブ・スローンズ」が近い将来、世界中の人びとを楽しませる日が来ると私は信じている。一歩一歩進めば、決して絵空事ではないと思うのだ。
https://www.amazon.co.jp/dp/4479796827/←Amazonの書籍ページはこちら
※筆者が発行する「テレビとネットの横断業界誌Media Border」では、放送と通信の融合の最新の話題をお届けしています。月額660円(税別)。最初の2カ月はお試しとして課金されないので、興味あればご登録を。同テーマの勉強会への参加もしていただけます。→「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」はこちら。購読は「読者登録する」ボタンを押す。
テレビとネットの横断業界誌MediaBorderのFacebookページはこちら
What can I do for you?
sakaiosamu62@gmail.com
@sakaiosamu
Follow at Facebook
関連記事