赤ちゃんより経済を優先したら、赤ちゃんが減り経済が衰えている。

赤ちゃんより経済を優先

こないだの日曜日、5月31日のNHKスペシャルは『戦後70年 ニッポンの肖像 豊かさを求めて第2回 ”バブル”と”失われた20年” 何が起きていたのか』というものものしいタイトルの企画だった。土曜日の第1回は高度成長時代の今から思うと信じられない成長を遂げた日本を描いたのだが、第2回では一転、バブルがはじけて奈落の底からはい上がれない日本の今に通じる歴史をたどっていった。

バブルの原因とその経緯があらためてわかりやすく、新たな証言も交えて迫力ある番組だった。コメンテイターとして堺屋太一氏と野口悠紀雄氏が登場。この野口氏はぼくがこのブログで何度か取り上げてきた「1940年体制」を唱えた人だ。

日本の高度成長も、その後の凋落から立ち直れないのも、元をたどれば1940年代に整えられた戦時体制に原因があり、いまだにその体制から日本が変われていないせいだという。

これについては以下の記事で2013年の暮れに書いて、大きな反響を得た。いまの若い世代にも響く話なのだと思う。

日本人の普通は、実は昭和の普通に過ぎない。

番組の中で印象的だったのが、バブルの時代を振り返る中で堺屋氏、野口氏が口を揃えるように「日本はアメリカを超えたと過信したが、アメリカはその頃社会構造の大転換をしていた」と言っていたことだ。

このことは当時から解決できずいま表面化している問題のほとんどが詰まった話だと思う。

つまりは、日本が製造業中心の経済構造から変われないことと、少子高齢化をまったく克服できていないことは重なっているのだ。産業構造と少子化は、一見関係ないようで、実はからみあいよじれあったひとつの問題だとぼくは考えている。

アメリカも、ヨーロッパの多くの国も、大量のモノを大量の人が身体を動かして働いて作る工場を軸にした製造業中心から、企画や発想を価値化する産業中心に社会を変えた。番組の中で存命中のスティーブ・ジョブズが「iPodはソフトウェアだ」というシーンが出てくるのが象徴的。Appleは工場を持たずに台湾や中国の安価な労働力に製造を委託する。モノを作ることに主眼があるのではなく、発想した製品を形にすることに価値がある。

Appleはちとできすぎな例だが、欧米はそういう方向に社会を変えた。一方で女性も働く社会に変えた。これについては先日ハフィントンポストに掲載されたこの記事が素晴らしくまとまっていてわかりやすい。

「共働き社会化」の光と影――家族と格差のやっかいな関係

そういう変化を70年代あたりから長い時間かけてやって来た欧米に対し、日本はバブルで浮かれた80年代で感覚がマヒし、その後も社会構造を変えるより、なんとか今のやり方を維持できないか、成功体験を再現できないかとずるずる先延ばししてきた。

経済構造も変えられなかったし、少子化もほったらかしてきた。そこにある密接な関係に気づかないまま10年20年と時をムダにし、その時間丸々を”失われた”状態にしてしまった。

ぼくはこのことを考えていると奇妙に思えてくる。先延ばしにしてきたのは目先の経済を優先してきたからだろう。ところが、少子化がもたらす今後数十年間の経済的なマイナスは計り知れない。とりもどしようのない経済の衰退を迎えようとしている。

おかしなことだ。目先の小さな経済性を優先してきた結果、将来の大きな経済損失がもたらされようとしている。いったいこの20年間、ぼくたちは何をしてきたんだろう?

だからせめて、いまからでも遅くはないから、ぼくたちの子どもたち、子孫たちのために、ぼくたちは取り組まなければならない。経済構造の変化と、子育てを大事にする社会への変化を、実現しなければならないのだ。

もうひとつ、セットで考えるべき問題がある。雇用の問題だ。個人と会社の関係の問題だ。もう会社に人生を託すのはやめるべきなのだ。

最初に紹介した番組の後半でも、雇用の話が出てくる。ある大企業のトップだった人物がバブル崩壊直後を振り返りながら、「社員の雇用を守ることを最優先にした」と告白していた。何千人かの人員整理をせざるをえなくなった時も「子会社などに回ってもらい、給料が下がったら会社で補填した」のだそうだ。一見すると美談だが、ほんとうにそうだろうか。

人員整理で正社員は収入も守られたのかもしれないが、それに伴い非正規が増えたり、新人採用を抑えたりしたはずだ。大企業が雇用を守ると、より弱い非正規社員や中小企業、若者たちにしわ寄せが行くのだ。

だから非正規を正社員にしよう、と言いたいのではない。企業がそんなに社員の人生の面倒まで見るのはやめたほうがいい、と言いたいのだ。人生の面倒を会社に見てもらうなんて気持ち悪いし、一生を守ろうとするから社員はそのレールから外されないように、朝から晩まで働くのだ。だから男性が育児にかかわれない。また一日中働く男性を守るから、そこまで会社にいられない出産後の女性を排除する。

もっと流動性が高い社会にしたほうがいいのだ。会社の業績が悪くなったら辞めてもらっていい。社会全体がそうなれば、転職がずっとしやすくなるはずだ。いまは転職しにくいどころか、40代になるとかなり難しくなる。40才でも50才でも、会社を移るのが普通になれば、社会の新陳代謝がよくなり、生産性も高まり新しい事業が起こりやすくなる。

そういう世の中のほうが子育てもしやすいのだ。

実際、SHARPの退職者をアイリスオーヤマが雇用しようとしているそうだ。先がないのに延命ばかりしている会社にいつホントにダメになるかわからないのに居続けるより、とにかく経験を認めてくれる会社に移ったほうがずっといい。やっとそういう世の中になってきた。

会社の名前の前に、自分という個人がいるはずだ。会社に人生の面倒なんか見てもらわないほうがいい。これからは、そういう社会になるはずだし、それをみんなで促すべきだと思う。

育児と、社会と、経済は、実は強く関係している。

プレジデント社がネット上に新しく女性向けのメディアを立上げている。縁があって、そこで連載をさせてもらうことになった。

よかったら読んでください。社会と、育児と、そのからみあった様子を書きつづっていきたい。

→みんなで子育てできる町へ「赤ちゃんにきびしい国はどうしたら変わるのか」

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コメント

  1. 子育てをしながら、常々感じてしまう息苦しさ、ジレンマ、それらの正体を境さんの本、記事から見いだせたような気がしています。
    赤ちゃん、子どもは原動力です。
    この子の為ならなんでもできる。親がこどもに対してそう思う気持ち以上の原動力はないと思います。そんな気持ちが社会に満ちれば、それこそが経済を成長させていくと思います。

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