1960年代のワーキングマザー。この国の保育園事情は、そこから進んでいるのだろうか。

今月から、子育てを取り巻く状況について、新しく創刊したプレジデントウーマンオンラインで「みんなで子育てできる町へ」という連載をはじめた。

保育の状況を支えるのは国家の前に自治体ではないか。そう考えて、町と育児の関係を取材していくつもりだ。

第二回では、90年代に反対運動を乗り越えて開設した町田市のききょう保育園が、待ちの人びとに受け入れられていったプロセスを、当時の園長で現理事長の山田静子さんに取材した。読んでもらえるとうれしい。

→「保育園は、反対を乗り越え、町の一員になれるか。」

山田さんは『保育園大好き 私の山あり谷あり保育人生』(ひとなる書房)という著書に、保育に身を捧げ波乱に満ちた人生を書き記している。記事を書く際に読み込んだのだが、いろいろ発見と感動があった。

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彼女は1936年(昭和11年)生まれでぼくの母親の少し年下。実際、ご長男は1962年生まれというから同い年だ。

鹿児島で看護婦をしていたが上京し、こっちで結婚した。当時は生活が大変で出産後も子どもを預けて働かざるをえなかった。つまり山田さんは1960年代のワーキングマザーだったのだ。

前に「ワーキングマザーは互いを発見することで生まれた〜博報堂リーママPJ〜」の記事で書いたように、”働く母親の困難”を社会が、そして母親自身が認識したのは、実はつい最近だ。ましてや1960年代、ぼくが生まれた時代のワーキングマザーは社会的に認められない存在だったろう。『保育園大好き』にはその頃のことが細かに描かれている。

まず0歳児の頃は、預かってくれるところがなかった。区役所に行くと男性職員が「あのね、あんた何考えてるの?」と言い放ったという。福祉事務所なのに、だ。

1歳になりようやく預かってもらえることになった。公立保育園を紹介された。だが保母たちは冷たかった。「あらかわいそうに、まだ小さいわねぇ」「まだ、おむつしてるのよねえ」預けるのがいけないようなことを保母たちが言うのだ。

園長さんは優しくこう言った。「本当は、お母さんが育てるのが当たり前のことなのよ。保育園はお母さんが働かなければ生活できないから、仕方なく預かるところなの。」いまの感覚だと信じられない言い方だが、山田さんはその時「本当にそうだ」と受けとめたという。

そういう時代だったのだ。

別の方への取材でも聞いたことがある。それは70年代の話だが、やはり「保育園は仕方なく預かってあげている、という態度だった」と言っていた。

その後、山田さんは別の町に転居することになり、そこでは公立保育園が見つからず、私立保育園で預かってもらうことになった。前の公立保育園に比べると、ずいぶん貧弱な施設に見えたそうだ。

ところがその保育園の園長さんが驚くようなことを言った。「女性だって人間、能力があるのよ。女が自立するためには、しっかり働くことが大事なのよ。頑張って働いてね」女性が子どもを預けて働くことを肯定的に言う人に初めて出会い、衝撃を受けたという。

山田さんがその後、自ら保育園の園長となり、子どもたちと働く女性たちを支える側になったのは、この経験が大きいのではないかと、取材して感じた。

そして、保育について取材しているとモヤモヤ感じていたことの正体がわかった。保育園に子どもを預けて働くことは、昔は蔑まれていたのだ。本来は父親が稼いで妻も養わねばならないのに、それができない悲しい家だと受けとめられていたのだ。そしてその一種の”差別”はいまもある。保育園開設に反対する声の裏にも、そうした偏見が透けて見える。

その蔑みや差別的な態度が、どれだけ時代とズレているかが、そちらの側の人びとは見えていない、わかっていない。そしてそんな態度こそが少子化の一因になっていることにも気づかない。

父親は満員電車に押し込まれて会社に通い、母親は主婦となって子育てをし家庭を守る。それは実は戦後の工業化の過程で成立した、かなり人類史上も一時的なライフスタイルなのだが、それにどっぷりハマってうまくいった世代、そういう時代の人びとにはそれがわからない。人類は過去も未来もそうするものだと思い込んでいる。

そう考えると、1960年代からほとんど変わってない、進んでいないのだなあとため息が出そうになる。欧米が70〜80年代に大きくシフトしたのに、バブルでぼけて失われた20年の間も過去の考えにすがってやってきたので、いまだに目覚めていない。

山田さんはだから、彼女の世代としてはかなり珍しい存在なのだと思う。1960年代のワーキングマザーだったからだ。ぼくたちは、彼女のような先達をリスペクトし、多くを学びとっていくべきなのだろう。

「みんなで子育てできる町へ」の連載も、そういう方々に学びながら、現状を追いかけていきたい。

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