公園を守る法律は、守られているのか。議決の条件は、守られているのか。〜杉並区の保育園問題(2)

公園の工事は、着々と進行している
昨日の記事「公園の代わりの場所が、公園の代わりになっていない。〜杉並区の保育園問題(1)〜」の続きを書いていきたい。その前に、昨日の記事を読んだ方からメールをいただいた。8月8日の向井公園の様子を写真に撮って送ってくれたのだ。

向井0808_2

前回説明した通り、向井公園は奥にネットで覆われた運動場がある。ネットがあるので安心してボール遊びができたのだ。近所の保育園の子どもたちもそこでボール遊びをするのだが、この写真ではネットが取りはずされている。あの子たちもがっかりしていることだろう。考えると本当に切ない。

この工事を進めるのは、もちろん正当な決定プロセスにのっとっている。田中区長もインタビューした時に言っていた。民主主義の手続きを経て進めていることだと。

確かに行政として立てたプランを議会が承認している。その議員は選挙で選ばれた人たちだ。正しい進め方だ。

だが私は、本当に正当な進め方といえるのか、今日の記事で疑問を投げかけたいと思う。

疑問1:この計画は、都市公園法に添っているのか?
まず、公園はそもそも、法律上どんな存在なのだろう。ちゃんと規定があるのだ。「都市公園法」という法律がある。公園は「たんなる子どもの遊び場」ではない。様々な役割を都市の中で求められている重要な施設であり、だからこそ都市公園法によりバックアップされているのだ。この点はまず重要なことなので、認識してほしい。

さてその都市公園法には「都市公園の保存」と題された条文がある。第十六条だ。

第十六条  公園管理者は、次に掲げる場合のほか、みだりに都市公園の区域の全部又は一部について都市公園を廃止してはならない。

この条文の構造に注意してほしい。「次に掲げる場合のほか、みだりに・・・廃止してはならない」のだ。つまり都市公園は基本的に廃止してはならない、というのが都市公園法の基本精神なのだ。「全部または一部について」なので、向井公園のように全部廃止されるのも、久我山東原公園のように40%廃止されるのも、基本的に”してはならない”ことなのだ。

ただし「次に掲げる場合」は例外だとしている。それはどんなことだろう。十六条はこう続いている。

一  都市公園の区域内において都市計画法 の規定により公園及び緑地以外の施設に係る都市計画事業が施行される場合その他公益上特別の必要がある場合
二  廃止される都市公園に代わるべき都市公園が設置される場合
三  公園管理者がその土地物件に係る権原を借受けにより取得した都市公園について、当該貸借契約の終了又は解除によりその権原が消滅した場合

後ろから見ていこう。「三」はようするに土地を借りていた場合の話で、杉並区の今回のケースは関係ない。「二」は代わりに公園が設置される場合だ。これは気になる。杉並区は向井公園と東原公園の代替地を用意している。だが「代わるべき都市公園」とは言えないだろう。実際、昨日の写真にもあった通り、「遊び場」とあり、「公園」とは表示されていない。

そして「一」だが、これは微妙な文章だと思う。まず「都市計画法の規定により公園及び緑地以外の施設に係る都市計画事業が施行される場合」とある。都市計画法とは、まさしく都市計画のための法律で、市街地をどう開発するか、どこを住宅地にしてどこを商業地にするかという計画ということだろう。であれば、大きなグラウンドデザインを構築する際の、ということで、どうやら保育園をつくる、という単発の話はあてはまりそうにない。

さらにそのあと「その他公益上特別の必要がある場合」とある。保育園への転用が認められるとしたら、ここにあたるかどうか、という議論が必要だろう。ものすごく微妙だと思う。少なくとも、調査や議論が必要なことだと言えるのではないだろうか。

さらに、だ。この都市公園法には国土交通省都市局が平成24年に出した「運用指針」がある。WEBで誰でも読むことができるので見てもらうといい。→国土交通省都市局「都市公園法運用指針」のリンク

この指針の17ページから19ページにかけて「都市公園の保存規定について(法第十六条関係)」というパートがある。まさしく、いま挙げた第十六条についての解説部分だ。その最初の部分にはこうある。

都市における緑とオープンスペースは、人々の憩いとレクリエーションの場となるほか、都市景観の向上、都市環境の改善、災害時の避難場所等として機能するなど多様な機能を有しており、緑とオープンスペースの中核となる都市公園の積極的な整備を図るとともに都市住民の貴重な資産としてその存続を図ることが必要である。
このような趣旨から、法第16条に都市公園の保存規定が設けられ、従来は「都市計画事業が施行される場合その他公益上特別の必要がある場合」や「廃止される都市公園に代わるべき都市公園が設置される場合」を除き、みだりに都市公園の区域の全部又は一部について都市公園を廃止してはならないとされてきたところである。

なぜ第十六条があるのかをわざわざ書いているのだ。このあとは、「三」の賃借契約の部分が加わった理由を説明している。そして最後にこういう部分もある。

(参考「公益上特別の必要がある場合」について)
「公益上特別の必要がある場合」とは、その区域を都市公園の用に供しておくよりも、他の施設のために利用することの方が公益上より重要と判断される場合のことである。その判断に当たっては客観性を確保しつつ慎重に行う必要がある。

さっきの「公益上特別の必要」について解説している。これを読むと、公益上より重要と判断される場合は、廃止してもいい、ということだ。だから保育園への転用もありだろう。ただしだ。「判断に当たっては客観性を確保しつつ慎重に行う必要がある」のだ。議論をし尽くすべきだと受けとめていいだろう。

今回の判断は、「客観性を確保」して「慎重に行う」ことをきちんとやっただろうか。やったと言えるだろうか。

疑問2:公園の廃止を慎重に議論したのか?
今回の緊急対策第二弾で公園の保育園転用が計画された。そのプロセスとしては・・・
5月10日 区議会臨時会告示。区議会議員に対象地区を正式通知
5月13日 区長記者会見 計画の具体案を公表
5月18日 区議会臨時会で審議。緊急対策のための予算を可決
(出典:杉並区議会議員・松尾ゆり氏のブログより→「わくわくの日々:杉並区の保育園問題についての要約」。松尾氏は一貫して公園の転用に疑問を投げかけている)

向井公園と久我山東原公園が計画に含まれていることが5月10日に議員に対して通知され、それから一週間で臨時議会が開催されて行政側の案が可決された。

このプロセスは、客観性を確保し、慎重に判断されたと言えるだろうか。

少なくとも、公園以外の候補地と、公園とは分けて議論すべきなのではないだろうか。だって公園は上に述べたような保存規定があるのだから。基本的に廃止してはいけないし、公益上必要がある場合も慎重に判断すべきだと書いてあるのだ。資材置き場のような候補地と、法律で保存規定がある公園を、一緒に議論する、そのこと自体が大変おかしなことではないか。議会での決定がルールだと田中区長は言っていたが、そもそもの都市公園法のルールに基づいて議論を進めていたと言えるのだろうか。もしそうじゃないようなら、この決定はルール通りとは言えないと私は考える。

ではどのように議会で議論されたのか。杉並区のWEBサイトにはちゃんと議事録のアーカイブがある。だが5月の臨時議会の議事録がずーっとあがってなかった。時間がかかるのだろう。それがようやくあがっていたので読んでみた。

疑問3:議決の際についた条件は守られているのか?
18日の臨時議会の前に、総務財政委員会が17日に開催されており、緊急対策については事実上、この委員会で議論が済んで、その結果に追従する形で議会承認が出ている。実質的な議論を委員会で行うのは国会と同じでそのことは問題ではない。

臨時議会で、委員会での各会派の意見を報告している。その概要をここで紹介しよう。(→出典は杉並区議会アーカイブ・このページの「5月18日-09号」)

日本共産党杉並区議弾の委員・自民無所属クラブの委員・美しい杉並の委員はいずれも反対している。言い方に違いはあるが、やはり住民への説明なしに先に決めてしまうことには賛成できない、というのが理由だ。

他の会派は、賛成している。ただしそれぞれ、意見を言い添えている。

杉並区議会自由民主党の委員→賛成 ただし、説明責任を果たし、住民との合意形成を図ることが重要である。もし合意形成に至らない場合は、緊急対策の見直しも含め、柔軟な対応が必要である

杉並区議会公明党の委員→賛成 ただし、保育園建設への賛否という二項対立ではなく、住民との信頼関係を構築し、意見や要望を吸い上げ、検討するよう努めること

区民フォーラムみらいの委員→賛成 ただし、公園の転用に利用者の抵抗があることも当然であり、地域の要望に耳を傾け、代替地が必要であれば検討することや、今ある資源を限りなく有効活用し、将来を見据えた対策を講じることなどを求める

いのち・平和クラブの委員→賛成 ただし、今回計画にある公園を残してほしいという意見についてもしっかりと向き合い、粘り強く話し合いを進め、地域全体で子育てのできる環境づくりに努めることを求める

賛成の会派も、条件を付けているのだ。ようするに、住民の理解を得ないと賛成できないと言っている。自由民主党の委員はもっとはっきりと、住民との合意形成が必要であり、それに至らなければ見直しも、とまで言っている。

どの会派も非常にまっとうなことを言っている。都市公園法を持ち出さなくとも、公園が住民にとってどれだけ大事な施設か、どの会派もよくわかっているのだ。だから慎重に事を進め、住民との合意や理解が欠かせないとしたうえでの賛成だと言っている。

だが現状、どうだろうか?7月25日の説明会についてYahoo!に書いたが、説明会の体をなしておらず、合意形成はまったくできていない信頼関係は崩壊し地域の要望に耳を傾けてなどいないし、公園を残してほしいという意見にしっかりと向き合っても粘り強く話しあってもいない

こうして条件を付けて賛成した杉並区議会の各会派のみなさんは、現状をどうとらえているのだろうか。賛成する代わりにつけた条件がいま、まったく満たされたいないのは何しろテレビで報道もされているのだから、区議の皆さんが知らないはずはない。ネット上では事情をよく知らない人びとが、杉並区の住民はエゴ丸出しだなどと批判し、住民たちが苦しんでいるのが見えないのだろうか。どうして事態をほったらかしているのだろう。

杉並区側も、議会で各会派からつけられた条件を満たしていないのに、工事を進めるのはどういう辻褄になるのだろう。進めるなら、少なくとも住民の理解を得るために何度でも説明会を開くべきではないのだろうか。

民主主義のルールで決まったのだから従うべきだ、と田中区長は言っていた。だが都市公園法という重大なルールに沿っていると言えないように私には思える。国交省とも何らかのやりとりはしたと思うのだが、どういう話が交わされたのかも明らかにすべきだと思う。現状を見ると、都市公園法と進め方の間には整合性がとれてないようにしか見えない。

そしてまた、議会で賛成を得た際の条件を満たしていないようにしか思えない。「承認を得た」のはまちがいないが、各会派が一様に住民の理解を条件としている。だが私が見た説明会は、理解を得ようとの意志は感じられなかった。だから住民たちが強く反発し紛糾したのだ。議会での話を尊重した進め方には到底感じられない。

こういう状況をかんがみるに、いますぐ工事を止めるか、再度説明会を開いて住民の理解を得る努力をすべきだ。ルール通りと言うなら、そうしないといけないのではないだろうか。

今回は言わば「ルール編」だ。次回は「検証編」をまた書こうと思う。

昨日も書いたが、保育園と公園の二者択一は矛盾している。都市公園法になぜ保存規定があるのか、みなさんも公園の価値をもう一度考えてもらえればと思う。

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