メディアの未来をこのブログで論じてきた一方で、子育てについても発言したりしていると自分が何者かわからなくなったりするのだけど、ぼくのもともとの本業はコピーライターだ。ただ広告制作の仕事は黒子的なものだと思ってきたのでブログでは仕事について書かないできた。でも、世の中の流れ的にはオープンにしてもいいのかな?と思いはじめていた。仕事によってはブログで書いちゃうのもありだな、と考えていたら、いまやっている仕事はそれにふさわしいと思えたので、今日はそれを書く。
日本テレビは視聴率で他局とせめぎ合う一方で、社会との関わりにも取り組んでいる。民放でいちばん最初にできたテレビ局だからだろう、世の中にとってのテレビ局とは、社会と日本テレビとの関係は、という問いかけをある意味DNAとして持っている。『24時間テレビ』のような取組みが、何十年も続いているのはそういう真摯な姿勢を企業文化として持っているからだと思う。
その日本テレビが去年から『7daysチャレンジTV』という活動をはじめている。「一緒に、未来貢献」をテーマに一週間の間、いろんな番組が参加して子供たちとその未来を考える企画だ。今年はゴールデンウィーク期間に展開され、5月6日の特番で完結する。その広告で使われるコピーワークを担当することになった。できあがったのが、これだ。
ボディコピーは画像を拡大すれば読めるが、ここに文章として掲載しよう。
子供に向き合うことは、
未来に向き合うこと。子供を見つめる。愛くるしさに思わず微笑む。
親として、大人として、この上なく幸せな瞬間です。
でも、子供をただ見ているだけでなく、きちんと向き合い、
彼らが成長した未来を想像することも大切です。
日本が、世界がこれからどうなるか。
そこには、期待や希望だけでなく、不安や困難もひそんでいます。
だからこそ私たちには、未来へのヒントを見つけ出し、
伝えていく責任があるのです。
7daysチャレンジTVの一週間、子供たちにしっかり向き合ってみませんか。
そして未来のために何ができるのか。みんなで一緒に、考えましょう。
コピーを書く作業は”仕事”なのだから、あまり思い入れ強く書くものでもないのだけど、この文章はとくに思い入れをたっぷり込めて書いた。ちゃんと届く文章にしなければと思ったのは、最近子育てのことを考えるからだろうか。ちょっと恥ずかしいけど、書きながら目頭が熱くなっていた。とくに「不安や困難もひそんでいます」という箇所は、子供たちの未来を想って目が潤んだ。
自分が関わった広告についてこんなに語るのは普通しないことだけど、この番組については欄外でもどんどん語るべきではないかと思う。そこで、番組のプロデューサーの大澤さんに”取材”させてもらうことにした。さらにこの仕事をぼくに依頼した宣伝部デザイン室の布村さんにもご登場願った。番組というコミュニケーション、それを伝える宣伝というコミュニケーションに携わる方々に、そのコミュニケーションの一端を担ったぼくが取材する。不思議な記事だね、これは。
日本テレビではecoウィークのタイトルで環境問題に取り組むキャンペーンを10年続けてきた。去年からそれを進化させ「一緒に未来貢献」をテーマに掲げて『7daysチャレンジTV』に衣替えした。子供たちとその未来をより良いものにしようという趣旨で、立体的なコミュニケーションを組み立てた。
去年は募金ならぬ募本という活動を行った。要らなくなった絵本を持ち寄ってもらい、絵本を読みたい子供たちに配ろうというもの。COWCOWの二人に全国を回ってもらい、”あたりまえ体操”を披露したあと募本を呼びかける。子供たちは楽しみながら参加してくれてステキな活動になった。こうしたキャラバン活動は番組には一部しか使われない。でも、だからこそ番組では伝えにくい熱が伝わり、コミュニケーションに厚みが出る。局内にはすぐさま理解してもらいにくいのだが、大澤さんはこうした”面”の活動に強く手応えを感じたそうだ。
大澤さんはバラエティ畑を歩んできた。そして30代後半で二人の子供を産んだワーキングママだ。テレビのしかも制作の仕事だと子育てとの両立は大変だと想像するのだが。「それが意外と逆なんです。制作の仕事は働き方が自由な側面があるんですね。時間配分を自分で決められるので、打合せと撮影の間に家庭のことを入れる、なんてやりくりができるんです。かえって楽と言えるかもしれませんね」と快活に笑う。人知れずの苦労もないわけでもないだろうが、大澤さんはすべてを楽しもうという大らかさにあふれている。
そして驚いたのはご主人の育休の話だった。「最初の子の時、8カ月産休を取りました。それとバトンタッチする形で夫が育休をとってくれました。それが9カ月。私の休んだ期間より長いんですよ」ご主人は金融機関にお勤めなのだが、”男子社員も育休とらせよ”と上層部が号令をかけたタイミングだったので長く休めたようなのだ。「麦茶を持って行ったらお母さんたちが”よく準備してましたねえ”と感心されたんだけど、それくらいできるよ」などと不満めいたことも言いつつ、子育てを楽しんでいる様子だったという。
子供ができてから、自分の生活から発想するようになったかもしれない、と大澤さんは言う。産休中に企画を立てた『心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU』も、人生の先輩たちからの”学び”を番組にしたいと思ったからだった。『PON!』の中のコーナーとして続けている『ママモコモ』も、子供たちに楽しんでもらいながら何かを吸収して欲しいとの思いからはじまったという。
「最近は他のテレビ局のワーキングママと横のつながりもできていて、業界もいい感じに変わってきた気がします。ただ、20代でADをやっていると子育ては難しいですよね。この業界もまだまだです」テレビ業界は家庭とか子育てとは隔絶された世界だったのだが、大澤さんのような先輩がいいモデルとなることで、いま変化しはじめているのかもしれない。
日本テレビは宣伝部の中にデザイン室というセクションがあり、局としての広告制作は社内で制作している。ぼくの知る限り、テレビ局で宣伝物を内製しているのは日本テレビだけだ。そのデザイン室を率いるのが、アートディレクターの布村順一さんだ。
ぼくは20年ほど前の一時期、日本テレビの広告制作の仕事をけっこうやっていた。その頃は入りたてだった布村さんといくつかの仕事を一緒にやった。その布村さんが久しぶりに声をかけてくれて、この『7daysチャレンジTV』に関わることになった。
「できるだけ幅広い人たちに”自分ごと”にしてもらいたいと思うんですよ」と、布村さんは言う。子供たちとその家族に向けた企画なのだが、それだけにしたくない。子供がいない人たちにとっても、若者たち、ティーンエイジャーにとっても、子供を鍵に未来貢献について考えてもらいたい。そういうコミュニケーションができないだろうか。そんな想いから企画づくりが始まった。
そこでビジュアルは、子供たちの顔、しかも、いまの大人の子供時代の写真を集めて並べることになった。テレビ局ならではの、タレントや著名人の顔も並べて興味を引く。子供のことって関係ないようで、ぼくもあなたも子供だったよね、子供の心って誰でも持っていたよね。そんなことをビジュアルから感じてもらいたい。
大澤さんは、そうやってできた広告表現をとても気に入ってくれた。「これがあったので、みんなに説明しやすかったんですよ」と言う。『7daysチャレンジTV』は複数の番組が力を合わせる取組みなので、自分たちがめざすべき意思統一にこの表現が役に立ったそうだ。広告には外に伝える役割とは別に、インナーの気持ちを合わせる役割もある。
布村さんは、大澤さんにぜひこの企画に関わりつづけて欲しいと言っている。「中心になる人間が必要じゃないですか」それに対し大澤さんはこう言う。「私としても関わりつづけたいんだけど、一方で引き継いでいくことも重要だと思うの。より若いパパやママたちがこの企画を引き継いでいくことで、何十年後にもっと価値が高まればいいな」時代を超えて引き継がれることで、『24時間テレビ』のような普遍的な価値を持つことが、最初のランナーである大澤さんの想いなのだろう。
『7daysチャレンジTV』は『ZIP!』から『NEWS ZERO』までの帯番組で一週間展開され、最終日の5月6日夜の特番『世界を変えるテレビ』で大団円となる。池上彰氏も取材に加わり、世界を変える活動をする子供たちを紹介する番組だ。あなたにも世界を変えるヒントをもたらすかもしれない。
子供と向き合うことは、未来と向き合うこと。子供たちの未来を、あるいはあなたの未来を、立ち止まって考えるために、この一週間に注目してください。
日本テレビ『7daysチャレンジTV』公式サイト
公式Facebookページ
今回の記事では、広告を作る黒子の立場を逸脱し、自分が関わった広告について自分で記事にした。さらには、番組のプロデューサーや広告制作の部署の方もふだんは表に出ないものだが、取材させてもらった。ソーシャルの時代には、黒子も名前を名乗り顔を見せ、自分の言葉で語っていいのではないか、という発想だ。余計な説明はしないものだったのを、逆に過剰に語って人間性を露見させる。その方が何らかの”つながり”に至れるんじゃないかと思う。『7daysチャレンジTV』という社会性が強く番組そのものも”ソーシャル”なものだからこそ、許されると考えている。今後も、”自分の仕事のソーシャル化”は試みていきたい。
コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント
境 治
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