原子力とマスメディア、そこからの自由の代償

今朝更新した「原子力とマスメディア、その抱える原罪」の続きを、夕方にまた書くという珍しい展開。前回のを読んでない人は、ここクリックして読んでから戻ってきてね。

さて前回はそのアゴラブックスのセミナーの内容にはほとんどふれずに正力松太郎の話ばかり書いたので、ここでは田原総一朗氏と池田信夫氏の対談にふれていくよ。

田原さんがしきりと言っていたのが、「日本では原発が危険かどうかの議論をほとんどしてこなかった」というもの。原発は安全だ、という前提ができていて、いやそうなの?という見方は避けられてきた。原発という略し方は最近で、戦後当時は「原子力発電」とうやうやしく言っていた。池田氏によれば「原発」という風に「原爆」を想起しやすい略称は反原発派の意図によって80年代以降になって流布したものらしい。

原子力発電を正力松太郎が導入すべく奮闘したのも、日本が世界に遅れないためだった。原爆とちがい、原子力発電は科学の成果であり人類の進歩の象徴だったのだ。そう言えば、鉄腕アトムの動力は原子力だ。だから「アトム」なのだ。明るい未来のヒーローである鉄腕アトムに対してぼくたちは「でも原子力で動くってどうよ?」などと疑問視することはまったくなかった。「♪そ〜ら〜を こ〜えて〜」と素直にすこやかに唄ったものだ。

池田氏はTwitterなどでの言動から原発推進派だと誤解されているが、と本人が言う。池田氏だって原発はもう先がないと感じているという。安くて安全な発電だったはずなのに、安全ではないし、今回の補償などを見るとちっとも安くはない。リスクが高すぎて経済性が見合わないと今回はっきりしてしまったのだと言う。

池田氏が批判するのは、だからと言って感情的に自然エネルギー信奉に流れる風潮。池田氏によれば、自然エネルギーでは経済的にうまくいかない。補助金を政府がどんと出す前提じゃないと事業として成立しないのだと。

いま注目されてるのは天然ガスなのだそうだ。最近、北米で安価な天然ガスが豊富に掘り出されるようになった。自然エネルギーよりも経済効率では、天然ガスだろう。ただその場合、CO2の問題がまた浮上する。原子力は事故さえなければ圧倒的にクリーンなエネルギーだった。天然ガスはまた化石燃料に戻るということで、CO2出すけどどうしようとなってしまう。もっとも鳩山さんの25%宣言はもう白紙になったも同然だろうけどと。

それからもうひとつ、いまの電力事業の地域独占の仕組みを再検討すると、発電と送電の分離という議論になる。分離して発電を自由化するのはひとつの考え方だが、だから料金が安くなるかというと必ずしもそうでもないのだそうだ。むしろ、安定供給に不安が生じる。電力需要が高まったからここは発電ぐいぐいしてくださいと送電側が言っても、発電側が経営上今日はこれ以上タービン回せないんだと言われたらどうしようもない。

アメリカでは一年に延べ3時間程度の停電はある、という前提でみんな生活しているのだそうだ。だから突然電気が止まった時に備えて、工場などでは自家発電設備を持っていたりする。自由化の代償とはそういうものなのだと。

なるほど、そういうことなのか。

地域独占はよろしくない。今回の事故だって東京電力が競争相手もなくあぐらをかいてきたからいけないのだ。それはそうかもしれない。自由化すべきかもしれない。でも自由化ってのは、電力の場合でいうと停電も覚悟しなきゃね、ってことなんだ。別の見方をすると東京電力は地域独占で発電も送電も一括して担っていたから電力供給の全体に責任を持って取り組むことができた。あぐらをかくより、皆さまのために安定供給頑張るぞ、って意気込みでわりとまじめにやってきたんじゃないだろうか。

だから自由化はまずいよね、と言いたいわけではない。ぼくたちには覚悟が必要だ、っていうことだ。

正力松太郎みたいな巨大な怪人物が日本の未来のために奮闘するのを指をくわえてぼーっと見てた。鉄腕アトムの未来には安直に憧れていた。そこにはどんな危険が潜んでいたか、調べようともしていなかった。

なんだ!早く教えろよ、ウソつきめ!原発ってこんなに危なかったんじゃないか!だいたいなんであいつらが独占してたんだ!許すまじ独占!自由化すべし!・・・そうやって大騒ぎして自由化したあと、もし停電が起こったら、そしたらそしたでぼくたちは、誰かを攻撃しちゃうんじゃない?停電するとは何たることか!って。

自由化はいいと思う。自由化すべきだと思う。いままでの仕組みを変えた方がいいと思う。でもその代償を払う覚悟はしないといけない。覚悟なしに自由とかウソつきとか言っちゃいけない。

巨大な怪人、正力松太郎がつくったもうひとつの装置、テレビ局、マスメディア。これも自由化、ではないけど、その既得権の解放は必要だろうし、起こるのかもしれない。でもそれは、ぼくたちがマスメディアの利権のおこぼれで生きてきたことの代償も払うってことだ。

その代償の支払いは、けっこうきついだろう。そうとうしんどいだろう。

その時になって「何事だ!」って怒っても仕方ないんだよなあ・・・・

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