原子力とマスメディア、その抱える原罪

昨日、6月2日の夜はアゴラブックセミナーってのに行った。田原総一朗の「原子力戦争」という35年前の本がアゴラから電子書籍で出る記念ということで池田信夫氏と田原氏が対談する催し。・・・正直、どうしてこれに申し込んだんだっけ?5000円も払ってまで!って感じ。まあ、6月はヒマだからいろいろセミナー行くぞ、って意気込みだったんだろうなあ。

どうして申し込んだか忘れたくらい、さほど興味なく行ったのだけど(雨もけっこう降ってたし前もってお金払ってなければ行かなかったかもしれん)、行ったら行ったで面白かった。

田原氏はそんな本を出してたほどだし、池田氏もブログで盛んに原発について発言している(そして物議を醸し出してる)くらい取材してきているようで、原発関係の知識は豊富。当然ながら正力松太郎の話も出てくる。

若い皆さんは、それ誰?って感じだろうけど、このブログの読者ならこの機会に知っておこう。正力松太郎は読売グループを今日の姿に押し上げた実業家だ。日本ではじめて民放テレビ局を起ち上げて日本テレビ放送網という会社にしたのも正力松太郎。そして、原子力発電所を日本ではじめて作ったのも正力だ。

だから今日のセミナーでもその名前が挙がったわけ。最近見つかった資料から、正力はCIAのエージェントだったという、映画みたいな嘘っぽい、でも本当だったらしい事実もわかっている。つまり、正力がテレビ局と原発を興したのはアメリカの意図が背景にあったと。日本テレビの社名が「放送網」と「網」がついているのは、テレビ局だけでなく電話やファックスも含めた放送と通信を融合させた情報”網”を作ろうとしていたからだという。それをスパイ活動の情報収集ツールにしたかったってことね。

日本を反共の砦にしたかったアメリカと正力の意気投合があった。なぜなら正力は元々警察官僚で、徹底的な反共産主義の意識があった。

佐野眞一というノンフィクション作家が書いた『巨怪伝』という本がある。これが正力の人生を徹底的に取材して書いたもので、素晴らしくよくできている。日本の昭和史としても読める興味深い本だ。メディアについて考えたい人なら読んでおくといいと思うよ。分厚いけど。時間かかるけど。

巨怪伝〈上〉—正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫)
クリエーター情報なし
文藝春秋
巨怪伝〈下〉—正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫)
クリエーター情報なし
文藝春秋

ぼくは昔ハードカバーで読んだけど、文庫本で上下巻に分かれて出てるのね。上巻1100円、下巻900円って元々いかに分厚い本だったかわかるよね。

20年近く前に書かれたもので(1994年だって)古いようでまったく内容は古びていないはず。とにかく面白いのは佐野さんの手によるものだからだけど、それ以上に正力の人生が面白すぎるから。CIAとか原発とかいうと陰謀だらけみたいだけど、タイトル通り巨大な怪人物の不思議な生き様の物語だ。

東大を出て警察官僚になったがある事件の責任をとって辞職。ここでなぜか後藤新平が登場し、当時はあまたの新聞社のひとつだった読売新聞社を正力に託す。数万部の新聞社をあの手この手で成長させ、あっという間に大新聞に育て上げる。あの手この手のひとつが、読売巨人軍の創設だ。日本にプロ野球リーグができる前に巨人軍は誕生している。なんと、アメリカ野球と戦うためだ。だから巨人”軍”なわけ。巨人軍がアメリカ野球と戦う姿を新聞でレポートし大いに拡販に役立ったと。

野球でアメリカと戦うチームを作ってそれを新聞拡大に役立たせる。すごい発想でしょ?そういう人なの。

そんな勢いで新聞と野球とテレビ局と原発と遊園地とプロレスとサッカーと・・・ぜーんぶ起ち上げた。まさしく”巨怪”だ。

そんな巨大な怪人がはじめたのがテレビ局と原子力発電所なんだね。CIAの意図があったとは言え、正力としては日本の今後に必ず役に立つという思いで起ち上げたんだろう。

だから原子力とテレビ局は同じように戦後の発展への意図が込められており、だからこそ同じ”原罪”を背負っているとも言える。日本の高度成長に両方とも大いに役立ったのだ。ぼくたちがいま、いかに原発を疑問視し、一方でテレビ局を”マスゴミ”などとくさしたとしても、ぼくたちが原発とテレビ局の恩恵にどっぷり浸って生きてきたのはまちがいない。生きてきただけでなく、その二つがもたらす享楽に浮かれて楽しんできたのだ。

ぼくたちはあらゆる電気製品の利便性に囲まれて生きてきたし、どうでもいいタレントばっか出てるぜとけなしながら一日数時間もテレビをつけて生活してきた。

原発が抱えてきた”原罪”は、ぼくたちもまちがいなく共有してきたのだ。

ここまですでに長くなっちゃった。まだまだ話は終わらないしセミナーの内容にもふれてないので、続きはすぐ書く、明日書くよ・・・

ちなみに「巨怪伝」についてはこの松岡正剛氏のブログをざざっと読めばだいたいわかるよ。

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