素晴らしい映画に、ぼくは100円さえ払えない

ミステリー好きの娘は、面白そうな作品を嗅ぎ分けるようだ。『鍵泥棒のメソッド』という映画に前々から目をつけていた様子。公開日に観たいと言う。ぼくも面白そうだなと思っていたので、こないだの週末にさっそく観に行った。

娘は堺雅人が出るから面白そうだと思ったと言う。この春にフジテレビで放送していたドラマ『リーガルハイ』の効果かもしれない。いや、彼女の好きな伊坂幸太郎の小説の映画化『ゴールデンスランバー』で主演してたのもあるのかな。

『鍵泥棒のメソッド』はその堺雅人が演じる青年、売れない役者が、銭湯で転んで記憶を失った香川照之演じる殺し屋と入れ替わる、というお話。そこに、婚活宣言した生真面目な雑誌編集長、広末涼子がからみ、物語がどんどん転がっていく。こんなに器用に、アイデア満載のストーリーテリングはなかなかない。原作ナシのオリジナル脚本を自ら監督した内田けんじは天才だ。天才ってやっぱりいるんだなあ。

物語の面白さと完成度にいたく感心したぼくは、内田けんじの他の作品も観たいと思った。調べると、『WEEKEND BLUES』『運命じゃない人』『アフタースクール』と過去の作品が並ぶ。まだ4作目なんだなあ。それにしては手だれな映画だった。

これは過去の作品も観たい、観なきゃ、観ないとイライラしちゃいそうだ。そこで、AppleTVで、ケーブルテレビのVODサービスで、過去の作品を探してみたのだけど、ない・・・どこにも入っていないよお・・・

そこで久々に、ほんとに久しぶりにTSUTAYAに行った。AppleTVを買うまでは毎週末通っていたものだが、半年ぶりくらいだろうか。いや今年に入って初めてかもしれない。

「アフタースクール』をさっそく発見。しかもBlueRay版もあったのでそっちを選ぶ。早くみたいといさんでレジに行った。

えーっと、いくらだっけ?400円?新作じゃないから350円?BlueRayって少し高いの?どうなの?まあとにかく500円玉でお釣りがくるだろう。・・・・久しぶりにTSUTAYAでレンタル代を払おうとするぼくに、レジの女性が言ったのは・・・

「100円になります」・・・

ん?あれ?ひゃ、百円?!?!

ああー!そう言えば、TSUTAYAのテレビCMでやってたなあ。旧作はすべて100円になったって。忘れてた。そうだったのか。でもびっくりした。映画一本、たった100円で観れちゃうの?いいの?そんなことでいいの?

レジの女性はそんなぼくの驚きと戸惑いは知らず、さらに駄目押しする。

「ポイント使えますが、どうなさいます?」

なんとなく思わず「はあ、じゃあ使います』

「了解しました。では本日ポイントお使いいただきましたので・・・無料ですね」

む、む、無料?!タダってこと?100円でさえなく、タダなの?すっげえ観たいと思った映画が、タダで観れちゃうの????

いやTSUTAYAはえらい。半年も来なかった冷たいぼくにも、ポイントを忘れずにちゃーんと割引してくれる。さすがだよ。顧客満足を考えてるよ。・・・それはそうなんだけどね・・・

素直に喜べばいいところだが、なぜか納得がいかない、という気分になってしまった。新作映画観てあんまり面白いんで、同じ監督の旧作を電車に乗ってTSUTAYAまで借りに来たら、タダだった。意気込んだ気持ちが価値ナシ!と言われた気分だ。そんなことでいいのか?!

むしろぼくは「この監督の作品は大変面白いので、特別価格1000円になります」と言われた方が納得したのかもしれない。うんうん、そうだろうそうだろう。だって新作すごい面白かったし、どう見ても監督の手腕だしね、ぼくは払うよ、内田けんじの旧作、すごい観たいから1000円払うよ。・・・その方がいいんだ!盛り上がった気持ちにはフィットする。

もちろん無理やり1000円払うなんてことはせず、拍子抜けしながら”タダで”借りた『アフタースクール』を手に家に帰った。娘とじっくり観て、『鍵泥棒のメソッド』に負けず劣らずの面白さに浸った。十分堪能したよ!タダで借りた映画にね!

ぼくが直接お金を払わなかったからといって、この映画の制作者が損したわけでもないだろう。TSUTAYAはレンタル用のディスクを購入してそれで商売しているのだから。

でもなんだか不思議だ。こんな風にしてコンテンツ界にはデフレが続いているのかもしれない。ぼくたちが払うコンテンツ消費料金はスパイラル状に無料に近づいている。その価格を押し上げてくれそうな動きは、いまのところ見当たらない。

ぼくたちがTSUTAYAやHuluを上手にリーズナブルに使いこなすほど、コンテンツ制作にまわるお金が減っていくということなのかな。そう言えば、ブラッド・ピットも、俳優の出演料が下がっていると言ってたみたいだしね・・・

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