iPadは「セカイテレビ」だ、というタイトルで昨日は「iPad=テレビ=現在」という内容で書いた。で、今日は「セカイ」の方を書こう。タイトルに「セカイ」がくっついてたのはダテじゃないのだよ。
ここんとこ、iPadはショートムービーを浮上させ、5分だの10分だのの映像コンテンツ市場ができるのかもしれない、と書いてきた。それはわりとまちがってないと思う。
でも問題はここからだ。
iPadアプリは”中抜き”市場だ。
例えば映画の場合、興行収入のだいたい半分は小売、つまり劇場が持っていく。そして残りの3割くらい(ということは50%×30%=全体の15%)を卸売り、つまり配給会社が持っていく。そうすると、100%ー50%ー15%=35%。そこから宣伝にかかった費用などを引いた額が作り手に戻ってくる。ここで言う作り手とは出資者で日本の場合はだいたいが製作委員会だ。
製作委員会の中身を考慮しだすと話がややこしくなるので、ここではとにかく、いままでの劇場での映像コンテンツ流通は小売と卸売りがおよそ65%とるシステムだったと捉えておこう。(そして劇場も配給もそれぐらい大変な事業なのだと言っておく。映像コンテンツはとっても特殊な商品なのだ。実際シネコン運営は大変らしいし、配給会社もこのところ深刻なニュースが飛び交っている)
これがiPadアプリの場合、Appleのマージン30%がかかるので、70%が”作り手”に戻ってくる。ここでもし、製作委員会ではなく、制作会社が100%のコスト負担をしていれば、その70%がそのまま戻ってくるのだ。
これが”中抜き”だということ。いままで65%だった流通マージンが30%で済むわけ。
そこだけ聞くと、なんだそれならもうやるしかないだろ、はぁはぁ、とみんな息を荒くして身を乗り出したくなるだろう。
ところがそんなに甘くはないんだな、当然だけど。
あなたが制作会社のプロデューサーだとしよう。クリエイティブビジネス論とかいうブログにそそのかされて、iPadでショートムービーを売るんだ!と息巻いた。なかなかの作品ができたので、Appleに登録してもらい、めでたくAppStoreで売りだすことができた。そしたらなんと!1万本も売れたじゃないか。やった!すごいぞ1万本も!
さてここで計算してみる。ショートムービーをあなたは1本300円で売りだした。1万本だから・・・あ、なんだ300万円か。そしてAppleは30%さっぴくので、あなたが手にするのは、210万円だ。・・・な、なんだ210万円か。
ま、いいや、とにかく210万円を手にしたぞ!・・・あれ?あのショートムービーは仕事仲間たちに頼みまくって友だち価格でやってもらって、なんとか制作費300万円でつくったのだけど、戻ってきたのが210万円なら、90万円赤字じゃないか・・・なんだよ、おい・・・あーしまった!クリエイティブビジネス論とかいうブログにそそのかされたからだ!ちっくしょー!
てなことになる、のかもしれない。
いやこのケースでは1万本売れたことになっている。しかし、映像コンテンツを1万本売るのは大変なことだろう。いまの状況で、DVDを1万本売るのは大変だ。メジャーな歌手もCDを1万本売るのが難しくなっている。書籍だって1万冊売れたらちょっとしたベストセラーだ。
何言ってんの?そこに革命起こすのが電子流通なんでしょ?1万本ぐらい売れないの?Twitterで話題になればいいんじゃないの?
Twitterの普及率は確か3月のデータで8%ぐらいだったろう。いまの勢いなら6月ごろまでには10%ぐらいになってるかもしれない。それでも全人口の10%と言えば1300万人だ。日本中に書店がある中で1万冊の本を売るのも大変な中、1300万人相手に話題になってどうなるものか。
さらに、iPadはアメリカ本国で大ヒットして100万台だという。日本でもセンセーション巻き起こったとしても、人口は3分の1だ。初速で30万台だと試算できる。年内でやっと100万台なら万万歳だろう。そのうちの1%の端末に果たしてあなたの作ったショートムービーを売りつけることが可能だろうか?
ところでさっきのシミュレーション、1万本だとトホホな結果だった。これがまぐれの大ヒットで5万本だとどうなるかな?
300円×5万本=1500万円で、そのうち70%を手にするのなら・・・1050万円だ!制作費300万円を引いても750万円残るじゃないか。そしてさらに10万本だと?3000万円の70%なら2100万円だぞ!1800万円も残るじゃないか!
制作会社、そして広くクリエイターは、依頼を受けて、作って、渡して、なんぼです、という商売をやって来た人が多いだろう。だから、こういう感覚は慣れない。でもリスクをとってディストリビューションも自分でやるということは、こういうことなんだ。
だったら、1万本じゃなく、5万本、10万本売るにはどうすればいいか。これを考えてみようじゃないか。
iPadのもうひとつのポイントは、これがグローバルな製品だということだ。だから映像コンテンツをiPadアプリにして売ることは、グローバル市場が目の前に広がる、ということでもあるんだ。
さっき、日本では年内で100万台がせいぜいだろうと書いた。これが世界だと話がちがってくる。ある試算によれば、年内では世界で700万台のiPadが売れるだろうとあった。2012年までには2000万台のiPadが売れているだろうとも言われている。この試算はiPadアメリカ発売前後だったし、そのあとの予想以上に売れている様子からすると、もっと勢いがつくのではないかな。
まあとにかく、2000万台のiPadに映像コンテンツを売る、と想定すれば、5万本、10万本もあながち夢でもなくなってくる、かもしれない。だって、100万台の1%は1万本だったけど、2000万台の1%は20万本なんだよ。
日本のコンテンツ市場を考える上でも、”ガラパゴス市場”があてはまっていたと言える。1億3千万という人口は微妙なのだ。ずいぶん前にも書いたことだけど、日本の映画興行市場は世界第2位だ。でもアメリカ国内と5倍ぐらいちがう。中途半端に大きかったのだ。ハリウッド映画の強さは、国内だけでも3億人の市場である上に、世界でその倍以上の市場を獲得できている点にある。
だからハリウッドになろう、と言いたいわけではない。でもグローバルに映像コンテンツを売ることをきちんと意識すれば、10万程度の市場が確立できる、その可能性がある、と考えたいのだ。考えられるのだ。考えるべきなのだ。
そうすると次に、”ではグローバルに映像コンテンツを売るにはどうしたらよいか”ということになってくる。もちろんそんな壮大な話の答えをぼくはまだ持っているわけではないよ。でも、だいたいこんなことやっていけばいいんじゃないかなー、という程度の方向性をぼんやり考えはじめている。そこはまた、少しずつ書いていく。すんごく単純なことなんだけどねー。
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