朝日新聞の社長が交替した。木村伊量社長が辞任し、渡辺雅隆取締役が新社長に就任したそうだ。
それを報じた朝日新聞の記事がこちら↓
9月に朝日新聞が謝罪会見を行った時、このブログでこんな記事を書いた。
さらにそのずいぶん前、2013年の1月にはこんな記事を書いている。
これまでのメディアにデジタルが加わるのではない。メディアがデジタル化していくのだ。
この時は、朝日新聞の社長が、「紙媒体に書くことだけこだわる記者は数年後には仕事がない、くらいに思っていただかなければなりません。」と言ってのけたことを褒めぎみに取り上げた。デジタルの時代に対応するには紙にこだわってちゃダメだと、天下の朝日新聞の社長が言ったのは素晴らしいと思った。この時の社長が、木村伊量氏だったのだ。けっこう、時代を読もうとするポジティブな意志を持つ人だったのではないか。この時の記事を読み返すと、木村社長の辞任は残念な気もする。
とは言え、今回の件で社長が辞めるのはいたしかたないのだろう。
ただ、渡辺新社長の就任挨拶の記事を読むと、どうなんだろう?と疑問を呈したくなった。
改革のために掲げた5つの具体策と指針として、挙げたのが以下だ。
■車座集会を全国各地で開催します。
■言論の「広場」機能を強化します。
■誤報を防止する仕組み、訂正報道のあり方を抜本的に改革します。
■健全な批判精神を堅持します。
■調査報道をさらに強化していきます。
ぼくが疑問に思ったのは4つ目だ。「健全な批判精神を堅持します。」ここでいう”批判精神”とはようするに「反権力」のことだ。解説文の中に・・・
「報道機関にとって、健全な批判精神を持ち、権力監視を担うことは、存在意義にかかわる重要な役割です」
とある。そうなのだろうか。誤った報道により交替した新社長が、これをまたあらためて大事だとする必要があるのだろうか。
9月の謝罪会見の時、ぼくは朝日新聞の記者のツイートを追ってみたのだが、多くが「身を引き締めねば」との率直な反省だった中に「だが反権力と弱者への寄り添いを忘れてはならない」というのもあった。ぼくはあぜんとした。「反権力と弱者寄り添い」が行き過ぎて今回の問題になったのではないか。つまり行き過ぎた正義感が、誤った報道につながったのではないのか。
正義は容易に悪に転じる。
ジャーナリズムは、一度その正義を問い直した方がいい。正義感なんか忘れて、純粋に事実を調べて伝えることに徹した方がいいのだとぼくは思う。
そんなことを考えていたらこんなことが話題になった。
あー、またやっちゃったのかな?と一瞬思ったが、いやだが待てよ。この手の政治家の揚げ足取りはそのまま信じちゃいけないかもしれない。それはこの数年で学んだことだ。
そしたらこんなTogetterが出ていた。
麻生氏「子供を産まないのが問題」が各新聞で様々な表現をされている件
報道では「子どもを産まない方が問題」となっており、麻生さんが子どもを産まない若い世代がいかん、と言っているように受け取れる。だがTogetterで麻生さんの発言全文を読むと「(若い世代が)子どもを産まない(という現象)のが問題」だと言っているのだろう。
そこまで理解してもなお、ぼくはこの演説が高齢者に気に入られようと若い世代をダシにしているのがいやだなと思うし、「子どもを産まない」という言い方をしてしまうのはいつもながら不用意だと思う。
ただ、報道では「子どもを産まない方が問題」とした上で、記事の中で「批判が出る可能性がある」と第三者の言い方をしている。だが記者自身が批判しているのは明白だと思う。
これが誤報とまで言わない。でも、反権力たろうとする基本姿勢が記者の目を曇らせ、事実を少しずつゆがめてしまっていないだろうか。実際、この報道は憶測や識者のコメントもついてばーっと広がった。
もうジャーナリズムに、正義はいらない。反権力の姿勢をいったん忘れて、ほんとうにあったことは何か、きちんと調べて伝えることに徹してほしい。
それは朝日新聞などの旧マスコミだけの話ではない。ネット上に次々に登場するメディアについても同様だ。キュレーションアプリなどの新しい仕組みや、ソーシャルメディアを通してぼくたちは莫大なニュースに接することができるようになった。だがその大半が、あまりにもがさつで信頼できないものだと思えてきた。ろくに調べもせず、あやふやな情報を元に断言する書き方の記事が多い。ほんとうに多い。
信頼できないジャーナリズムは、いつか消え去ると思う。朝日新聞はそういう危機にさらされているのだろう。でもそれは、新しいネットメディアも同じだ。ジャーナリズムは新旧まぜこぜになりながら、その役割があらためて問われているのだとぼくは思う。
コピーライター/メディアコンサルタント
境 治
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