メガヒットがなくても豊かな作品に出会えればいい〜2013年映画産業統計発表〜

1月28日に、2013年の”映画産業統計”が発表された。毎年ウォッチしてきたのに、今年の発表のタイミングをとらえそこねていた。ここで慌ててチェックしていきたい。

できるだけ簡易に書くので、そもそもこれがどういう統計か、これまでをどうとらえるべきかは、去年の発表時に書いた「日本映画のすそ野が広がった?〜2012年映画産業統計発表〜」を読んでください。

まあ、読まなくてもこのグラフでパッと概観できるかな。
koshu
去年の映画興行は、洋画邦画合わせて1942億円だった。前年比微減。

毎年不思議なのだけど、映画興行収入は2000億円で結局大きく変わらない。2010年に3D映画がメガヒットとなり初めて2200億円になった。このまま上向くかと思ったら2011年は震災の影響もあり1800億円と大きく沈んだ。このまま下降をたどるのかと心配したら2012年2013年は2000億円弱で、また安定するのか?と思わせる。

ただ内訳を見るといろいろ複雑ではある。

2012年に持ち直した際、上のグラフで明らかなように邦画がくいっと上向き、洋画はだらっと下がっていた。邦画優位が確定したかのように見えた。このまま邦画がぐいっといくかと思えば、そうでもない、というのが2013年だったことになる。

映画興行の数字は、結局は大きなヒット作が出るかどうかで変わってくる。洋画と邦画の関係もそれぞれで40億50億級の作品がどれくらいあったかによる。

去年の邦画は宮崎駿の最後の監督作品『風立ちぬ』の120億円がメガヒットと言えるが、他はそうでもなく、とくに実写の作品で40億円以上のものがなかった。一方洋画は『モンスターズ・ユニバーシティ』の89億円がありつつ、『レ・ミゼラブル』の58億円、『テッド』の42億円と、一見地味な作品が大当たりした。そのあたりが上のグラフに出ているのだろう。

もう少し内訳を細かく見よう。映画産業統計では毎年、10億円以上の作品のリストも発表する。邦画の10億越えの作品のうち、東宝配給作品と、アニメ作品の数を数えてみて表にしたのがこれだ。
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まず東宝作品が少しではあるが減少している。この意味はわかりにくいと思うので少し説明しよう。

日本の配給市場では東宝が圧倒的に強い。この十数年でそういうポジションを確立したのだ。だから10億円を超える作品のリストを見ると、ほとんどが東宝作品であることに驚くだろう。2012年は39本も10億円を超えた中、東宝はそのうち26本を占めていた。そこだけとると、トヨタの比じゃないくらいの寡占状況だ。

これはひとえに東宝の戦略と努力による成果なのだろうが、それが去年は”やや”崩れた。東宝作品には華やかな娯楽作品、という傾向がある。文芸作品や年配向けの地味な作品、作家性の強い作品は少ない。

東宝作品の数が減ったのは、ひょっとしたらそうした作品が増えた、ということかもしれない。

もうひとつ、内訳で面白いのがアニメ作品の増加だ。去年は35本中11本。ヒット作に占める”アニメ濃度”が上がったと言える。

上位作品の中でアニメが占める割合はもともと高かった。2001年を見ると15本中7本がアニメだ。いまのように洋画より邦画が好まれるようになったのは2000年代後半以降で、それまで実写の邦画はあまりお客さんを集められなかった。そんな邦画市場を支えてきたのがアニメ映画だ。

そして2000年代前半は毎年7本。これは、定番化した作品が決まっていたからだ。『ポケモン』『ドラえもん』『ワンピース』『コナン』『しんちゃん』あたりにジブリ作品、あとは年によって『NARUTO』『銀魂』などが入れ替わる。

それが去年は、そうした定番作品以外に『まどマギ』『あの花』などの作品が10億越えしている。これは2012年から見えてきた傾向で『おおかみおとこ』や『けいおん』などがランクインしている。

2013年の邦画の”ちょい下げ”は2012年のヒット作品を見ると理由がはっきりする。『海猿』『テルマエロマエ』『踊る大捜査線』これが2012年の邦画の興行上位3作品だ。メガヒットシリーズの最終作品が2つ入っている。そして3つとも”テレビ局映画”だ。

これは洋画も同じだが、メガヒットシリーズがもう出なくなっている。去年の記事でぼくは「すそ野が広がった」と書いたのだが、その傾向が続いているのだと思う。

そして10億円リストに入っていない作品に質の高い作品が出てきている。『鈴木先生』『みなさんさようなら』『舟を編む』『さよなら渓谷』『凶悪』『地獄でなぜ悪い』などなどなど、素晴らしい作品が次々に出てきた。いや日本映画は昔から佳作が多いのだが、いっそうレベルが上がっているんじゃないかと勝手に思っている。もともとの映画界だけでなくいろんな分野からの才能が集まってきている気がするのだが。

まあ、それは映画好きのフィルターが多分に入った感想だ。

だから2013年の映画産業統計は、邦画が少し下がっていても、多様化に向かっているのだと前向きに受け止めていいと思う。

コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント
境 治
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