「セカンドスクリーン」という概念がある。テレビを見ながら別のデバイスの画面つまりPCやスマートフォン、タブレットなどを見ることだ。テレビがファーストスクリーンで、別のデバイスがセカンドスクリーンというわけだ。
このセカンドスクリーン現象は前々から起こっていた。テレビCMに「つづきはWEBで」と出たりしたし、ガラケーを片手に”ながら視聴”をしていた。
ただ、スマホとソーシャルの時代になり、twitter上でテレビ番組をネタにつぶやくことが増え、またスマートデバイスではガラケー以上に多様なことができるので、こんな新しい言葉が生まれていろんな人がいろんなことを考えはじめていろんな試みに取り組むようになった。ぼくのブログでもしょっちゅう取り上げているので、よく読んでくれてる人なら知ってるよ!って話だろう。
先日のソーシャルTVカンファレンスも、言ってみればこのセカンドスクリーンがテーマであり、キーノートをしてくれたアンソニーが開発したzeeboxはセカンドスクリーンサービスだ。
日本でもセカンドスクリーンの開発に早くから取り組んでいるのがマルチスクリーン型放送研究会、通称”マル研”。関西キー局を中心に全国のローカル局が集まって2011年末からスタートしていた。
先週、11月13日から幕張で開催された放送業界の技術展示会InterBEEで、マル研はブースを持ち展示していた。彼らはこのInterBEEで、驚くべき発表をした。このITproの記事が詳しく書いている。
「マル研が来年早々にオンエア・トライアル、InterBEE期間中に放送局対象にゼミナールも」
マル研構想の仕組みは、セカンドスクリーンで見せるデータを放送電波で送り届けるのがポイントだ。ネットで送ると、テレビがもたらす膨大なトラフィックを処理するのは難しい。電波で送ればその混乱を防げる。ただし特別な端末を各家庭で持つ必要があるので、具体化はずいぶん先なのだろうと思っていた。
ところが来年、トライアルをやるというのだ。しかも、それがうまくいけば来年春から実際にスタートするとも言っている。特別な端末を使うのは先にして、ネットでできることをはじめてしまおうというのだ。そのスピード感には驚きだ。
ブースではこの写真のような展示をしていた。これはいわゆるCMSで、放送局の側が番組に合わせてこんな画面に、視聴者に対して番組に合わせて見せたいコンテンツや投げかけたい質問などを入力する。あらかじめ入力しておけば番組の進行に添って視聴者の手元の画面、セカンドスクリーンに表示されるのだ。これなら、番組スタッフがプログラミング知識がなくても自分たちで操作できる。これができたので、実用化も可能だということだろう。
そんなマル研に驚いた矢先、今度は日本テレビのJoinTVのスピードにまたびっくりした。11月15日金曜日に、JoinTVConference2013という催しが開催されたので見に行ったのだ。
これについてもITmediaの記事を読むのが早いと思う。
「「JoinTV」で新しい広告モデルの構築を目指す日テレ」
カンファレンスの目玉として、「O2O2O」というプロジェクトが示された。
マーケティングの注目概念としてOnline to Offline略してO2Oというキーワードがある。PCやスマートフォンなどでオンラインで接触した消費者を実際の店舗での購買に結びつける仕組みで、店舗はOfflineなのでO2Oと呼ばれる。
日本テレビが唱えるO2O2OはこのO2Oの前にもうひとつのOを加えたもの。それはOnairつまり放送だ。テレビで観て、ネットで接触し、店舗に誘導する。だからO2O2Oというわけだ。O2Oにテレビ放送が加わることで、入り口をネットより格段に大きくすることができ、実現したらマーケティング効果は絶大になる。これまでテレビ広告はリーチ力は強いが実際に購買に結びつける力がないと言われてきたので、その弱点を克服する仕組みだと言える。これを、日本テレビはマイクロソフトやビーマップなどとの提携で具現化するのだと言う。
提携企業までもう決まっていて、ここまで具体的に進んでいたとはと、これまた驚いてしまった。日本では物事が進むの、遅いよなーと思っていたけどそんなことは全然ないじゃないか。
このJoinTV Conferenceはそうした日本テレビ側からの発表が続いたあと、最後にシンポジウムの時間もあった。これがまた面白かった。ゲストにNHK鈴木祐司さんとドワンゴの川上会長が登壇し、テレビはこれからどうなるのかを議論したのだ。
川上会長も例によって面白いのだけど、最初はNHK鈴木さんのプレゼンテーションの時間があって、ぼくはこれも大変刺激的で面白かった。
ものすごくカンタンに鈴木さんの問いかけを書くとこんなことだ。
NHKスペシャルの企画に役立てるために視聴者のリテラシーを調査したらピラミッド的な分類になった。三角の上の方には熱心な視聴者がいて彼らは年配だが意外にPCを使いながらテレビを見たりする。ドキュメンタリーのターゲットは彼らだろう。もうちょっとくつろいで視聴するのはドラマ視聴者、さらに退屈しのぎで観る層はバラエティ好き。ソーシャル×テレビの対象者は実は一部に過ぎないのではないか。それよりもっと問題なのはタイムシフト視聴ではないか。日テレさんはソーシャルテレビ頑張ってるけど、タイムシフトにはどう対処するの?強引に短くまとめるとそんな話だった。
タイムシフト視聴、つまり録画による番組視聴はどんどん増えている。録画だとCMを飛ばされるし時間編成も無視される。テレビ局にとってはいろんな側面で由々しき問題だ。そんなことを鈴木さんは問いかけていて面白かった。
マル研とJoinTVのスピード感に圧倒されながら、ぼくもぼくなりに疑問に思ったことがある。両者の向かう方向は、ほんとうに視聴者が求めているのだろうか。どれくらいの数の視聴者が求めているだろうか。あるいは、日常的に求めることだろうか。
インタラクティブな番組は、参加すると面白い。これまで様々な番組の様々な試みが繰り広げられ、ぼくはそれぞれ大いに楽しんで参加してきた。”お祭り”として、面白かった。
でも常日ごろ、テレビを観ながらセカンドスクリーンでしているのは、もっと気ままで自分勝手なことだ。ドラマに出てきた出演者、この人どこかで観たなあ、どのドラマに出てたっけ。と思うとスマホで検索する。番組を観ながら、おおー!と思ったらFacebookやTwitterで「おおー!このあとどうなっちゃうんだ?!」とつぶやく。他の人も「おおー!」と驚いているのをタイムラインで見て喜ぶ。たまに誰かが反応してきてやりとりする。
ぼくが日常的にテレビを見ながらやりたいことは、そんな程度だ。だが、そんな程度のことをするのに、えらく面倒が生じる。検索したりつぶやいたりするたびに、アプリを切り替える。番組についてつぶやく時にハッシュタグの入力が大変だ。番組を観ながらつぶやいてる人たちとハッシュタグを検索してタイムラインでやっと出会う。
セカンドスクリーンでやりたいこと、よくやることにはいろんなことがある。”参加”もそのひとつだけど、実はあんまり毎回やりたいわけではないのだ。特別な番組なら参加も楽しいだろうけど、毎週見ている番組で毎週参加を求められてもやらないと思う。
日常的に使うセカンドスクリーンサービスが、実は現状は存在しないし、欲しいと思っている。そして、広告効果を高めるにせよ、O2O2Oをビジネス化するにせよ、テレビを見ながら日々使うサービスじゃないと効果が出ないのではないだろうか。
それに、そうしたサービスは地上波だけでは物足りないだろう。BSを見る機会は増えたし、MXテレビをはじめU局を見る機会も意外なほど増えている。スカパーやケーブル加入者は多チャンネルで観てたりする。
セカンドスクリーンを舞台にこれから、多様な試みが、具体化しそうだ。その道のりはまだまだ先があるだろう。誰でも、普通に使いやすい、日常性と普遍性がポイントになるんじゃないだろうか。・・・というのも、いま思うことに過ぎないかもしれなくて、来年になったらまた変わる可能性も大いにあるだろうけど・・・
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コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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