このところ、日本映画製作者連盟が1月末に発表した2011年の”映画産業統計”をもとに、映画界の今後について語ってきた。2000年代の映画興行がいかにハリーポッターなどの”メガヒット”に支えられてきたか、そしてメガヒットが興行を牽引する時代が終わるのではないか、と書いた。2000億円の映画興行市場は1800億円水準にがくんと下がり、今後は少しずつ下がっていくだろうと思う。
似た傾向は、テレビドラマの世界でも起こるだろうと思っている。今日はそういう話だ。
2011年はテレビドラマが豊かな年だった。4月クールでは鳴り物入りで「JIN-仁」の2作目が放送され内容的にも視聴率的にも高い評価を獲得する中、ダークホースとして「マルモのおきて」が後半からぐんぐん人気となり、最終回では23.9%にまでなった。一大ムーブメントだ。日曜9時に2つのドラマが同時に話題になるなんてなかなかないことだし、素晴らしいことだ。
そして何と言っても、10月クールで「家政婦のミタ」がまさに台風の目となり、大きな話題となった。最終回は40.0%を獲得し、記録的な大ヒットドラマとなり、日本テレビに年間視聴率三冠王をもたらした立役者だと言われる。
ぼくも初回からずっと見てきた。松嶋菜々子演じる”ミタさん”のびっくりするような言動が毎回楽しみだった。人気を博したのもよくわかるし、40%とってもおかしくない面白さだったと思う。
うん、40%とってもおかしくないよね。・・・40%ね・・・ん?・・・ちょと待てよ、40%?・・・そりゃーいくらなんでもおかしくないかあ???!!!
おかしいと思う。いかに話題になったとしても、ドラマが40%とるなんて!
40%とは、世界への出場権がかかったサッカーの試合とか、紅白歌合戦とか、”国民をあげて観るべき番組”じゃないととれない数字だ。ドラマで言うと”テレビ全盛期”に「積み木くずし」とか「熱中時代」とか、そういう”一時代を築いた”的な作品が40%をとっている。そういうものと並ぶ視聴率になった理由は、論理的に説明しにくい。
「積み木くずし」「熱中時代」より「ミタ」の方が劣ると言いたいわけではない。でもあそこまで歴史に残る何かがあるだろうか。
「家政婦のミタ」は、映画興行におけるハリーポッターや踊る大捜査線なのではないだろうか。何かそう言う、時代の歯車がたまたまうまーく噛みあってある方向に一気に加速したような現象だったのではないか。そしてそれは、時代の最後のアクセルふかしのようなことだったのではないだろうか。もうこのあとは、アクセルを踏んでも手応えなく、ふにゃ〜んとしてしまうんじゃないか。
「ミタ」の40%は、ある意味テレビ制作者たちを勇気づけただろう。なんだ、いいものをつくれば観てくれるじゃないか。テレビ離れはおれたちの努力でなんとかできるぞ!
だが一方で、こんな言われ方もした。「いいものをつくれば視聴率はとれるんだと”ミタ”は証明してくれた。テレビ制作者たちは、頑張ればまた40%とれるのだから、ちゃんと頑張れ」・・・こういう捉えられ方は怖いと思う。”ミタ”の40%はドラマとしていいから取れた、それだけではないのだから。時代がふかせた風がびゅーんと視聴率を信じられないほど押し上げたのだろうから。
「ミタって面白いんだって」「えーそんなに面白いなら最終回ぐらい見てみようかなあ」「なんか日テレ三冠王もかかってるんでしょ?」「へー!それなら見ておいた方がいいかもね」そういう”ミトカナイト”旋風(あれ?ちがう局のキャンペーンワードだ(^_^ゞ)が巻き起こった結果だろう。これは誰も計算できない。
去年、もうひとつ印象に残ったドラマに「それでも、生きていく」がある。テレビドラマが切り込んでこなかった被害者家族、加害者家族を題材に、ていねいに優しく描いたものだった。テレビドラマもこんな世界を描けるんだと感心し、毎回涙した。この2012年1月クールでは「最後から二番目の恋」が出色の出来だと思う。中年の恋愛を楽しくかわいらしく描いている。「運命の人」も素晴らしい。ハードな題材に正面から取り組んで、毎回見る側にも力が入る力作だ。
でもこの三作とも視聴率では苦戦している。
この三作を、「家政婦のミタ」と比べて劣るとは思えない。むしろ、”クオリティ”としてはこの三作の方が上回っているとさえ思う。でも”視聴率”というモノサシでは、ミタの圧勝なのだ。
“ミトカナイト”旋風は今後、この規模では起こらないと思う。だからと言って、テレビドラマが衰退していくと言いたいわけではない。
むしろ、小さな規模での”ミトカナイト”旋風は今後は起こせるのではないか。
上に挙げた三作のような”良作”と呼べるドラマを今後も制作できるような、ビジネスモデルと、プロモーション手法と、番組の指標が必要になっているのだと思う。
うーんと、このあたり、かなり大事なことに切り込もうとしている気がするんだけど、今日はここまででーす。
ところで、3月1日にまた境塾をやる、かもしれないので、このブログやぼくのtwitterを気にしておいてね。突然、発表するかもよん。
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