このところ、このブログの更新頻度が週一ペースになっている。いかんね。今週からもう少し、週三回くらいは書いていくつもりなので応援してね。
さて、今日はまた映画の話。
日本の映画界にはマーケティングの概念が薄い。そんな中、マーケティング情報を供給して頑張っている会社が2つほどある。そのうちのひとつが、GEM Partners(ジェムパートナーズ)という会社だ。中心人物はブンちゃんといって、大学が同じだというのでぼくは先輩面してるけど、ずいぶん下だし、すごく立派なキャリアを持っている。警察官僚になったのになぜか世界的に有名な外資系コンサル会社に転職し、なのにどうしても映画に関わりたいとGEMを立ち上げたんだそうだ。儲からない業界なのになあ。
そのブンちゃんが東京国際映画祭でシンポジウムに出たそうで、(ぼくの前の上司も出席したそうだ。ちょうどこないだその話を聞かされたとこだった)その時に2011年の興行市場を展望する発表を行った。その発表を元に「2011年興収の減少要因を試算し今後の展望を考える」というブログにまとめている。その内容が衝撃的だったので、今日はそれを取り上げようと思う。
まずその元記事をぜひ読んで欲しい。もう一度リンクを出すと、これね。このリンクを押すとブンちゃんの元記事に飛ぶから。
読んだ?・・・え?読むの大変だって?・・・しょうがないなあ、じゃあここでサマリーを書いておくとね・・・
まず前提として、これまでも何度か書いたし『テレビは生き残れるのか』にも書いたことだけど、日本の映画興行市場はこの10年くらい2000億円前後で大きく変わっていない。ただしその中で洋画より日本映画のシェアが高まったことと、2010年は2200億円と10%もどかんと増えた。『アバター』『アリス・イン・ワンダーランド』などの3D作品が大ヒットしたことも大きいのだろう。
その上で、ブンちゃんは2011年の映画興行は1800億を割り込むと予測している。この10年2000億円だったのが、そして去年は2200億円にまでいったのが、そこまでどんと落ち込むというのだ。これはショックを受けないわけにはいかない!
ああ、そうか。それは仕方ないよね、だって震災があったからね。東京の映画館の中でもしばらく上映をやめたとこもあるしね。
ところが!震災の影響だけではない。むしろ、7月からシルバーウィークまでの3カ月間、つまり震災の影響がほとんどなくなった、映画興行の書き入れ時も、去年もしくは例年と比べて大幅ダウンなのだそうだ。
さらに、この下降傾向は、どうやら一時的な要因によるものではなく、構造的な問題点があるのではないかとブンちゃんは言う。うーん、怖れていたことが、顕在化しつつあるのだなあ。
構造的な問題としてブンちゃんがあげているのが以下のポイント。
1)作品の認知率が減っている
2)テレビ局出資作品が減っている
3)男女の比率に変化が起きている
4)デート観賞が減って一人観賞が増えている
あと、ショッピングモールの来客数の減少も関係するかもとも言っている。シネコンはそういう商業施設の中にある場合が多いからね。
ブンちゃんのポイントの1と2は要するに、テレビ局が元気を失い映画に体力を注ぎにくくなったことが大きいだろう。これは『テレビは生き残れるのか』でも触れた点だ。テレビ局が出資し、他の番組も巻き込んでのプロモーションがこの数年の日本映画を支えてきた。そのエネルギーが失われつつあるのだ。
うーん、まずいなあ、やばいなあ。
ここには二重の”まずいなあ”が込められている。日本の映画興行全体が盛り下がるのは”まずいなあ”。そして、日本映画の勢いがしぼんでいくのは”まずいなあ”。
さてところで、これも何度か書いてきたけど、日本の映画市場は世界第2位だ。最近一部で話題になっているらしいけど、日本の映画興行市場、つまり映画館で稼いでいる金額の合計は紅ショウガ市場とほぼ同じらしい。(ただし、DVDなどの二次使用の市場が入っていないことには注意されたし)
それくらい”大したことない”市場規模。それがさらにやせ細っていくのはしんどい。
そしてその中で日本映画の占める割合が減るのかもしれない。せっかく(国内では)洋画を上回る状況になったのに、元の木阿弥になりかねないのだ。
実は日本の状況はかなり特異だった。世界中で、自国の作品が興行ランキングの上位を占める国なんて日本だけなんだ。中国や韓国は規制をしているので例外として、ヨーロッパでも他のアジアでも南米でも、興行ランキングの大半はハリウッド作品だ。フランスは映画発祥の国だし自国の文化に誇りを持っている。映画庁という役所と映画税という税金もあって、国内の映像文化を守ろうとしている。それでも、ボックスランキングはハリウッドに占領されているのだ。
日本も90年代半ばにそうなりかけた。それをテレビ局がひっくり返した。日本だけ独自の映像文化がこの十数年で育ってきたのだ。いやもっと長い目で見れば、50年くらいの間、日本の映像文化は独自に歩んできたし、レベルも世界的に見て高いところに達していた。言葉や文化の壁を越えられれば、もっと国際競争力はあったはずだ。実際、アニメーションではある程度の国際影響力を持ってきた。
それが揺らいでいるのだ。それが危機を迎えようとしているのだ。テレビは生き残れるのかどころではない。映像文化全体が生き残れるのか、という事態になろうとしている。
”韓流ばかり放送しやがって”と、テレビ局を攻撃する人がいる。でもテレビのビジネス原理からして、安い価格で仕入れて収益性が上がるなら、そういう流れに向かわざるをえなくなる。
映画も似た傾向が出てくるかもしれない。あと5年から10年もしたら、中国のソフトパワーは大きく育ち、馬鹿にできない存在になる。その可能性は十分にある。なにしろ、国策のひとつとして、映像製作に多大なる投資をしているのだ。13億人、つまり日本の10倍の人々の中から、才能のある人間が映像に従事するようになったら。どえらいことになるだろう。
日本の映画館が、10年後、ハリウッド作品と並んで、中国と韓国の作品で占められる可能性は高い。ぼくは、ものすごく高いと思う。
そうならないために、いや、その傾向に少しでもあらがうために、ぼくたちが何をすべきか。そこを考えはじめないといけない。それはようするに、横断的な仕組みと組織をつくることだと思う。・・・でもそれは実際どうすればいいかわからない。たぶん、資本があればいいのだと思うんだけどね・・・
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