2015年は動画配信元年だったらしい。だったらしいと他人事みたいに書いてしまったが、動画配信元年だSVOD時代の幕開けだと言いふらしていたのは他ならぬ私自身なので、らしいもなにもないのだが。そんな私が「らしい」と書いてしまったのは、その後どうなっちゃったんだ?と騒いだ本人も感じているからだ。
どうもSVODの話題が一時期に比べると静かになった気がする。
そんなところへ、久しぶりにちょいホットな話題が出てきた。すでに1月にリリースは出ていたが、Netflixローンチ時に『テラスハウス』『アンダーウェア』を制作したフジテレビが、再びNetflixと組むという。『グッドモーニングコール』というドラマをフジテレビが制作し、Netflixで配信される。今日(2月12日)にはあらためて記念イベントが行われたそうだ。
人気の少女マンガの実写化で、フレッシュなキャストが主演する。この企画は、アジアでの配信を強く意識しているらしい。なるほど、1月にラスベガスで開催された大型イベントCESではNetflixのCEOリード・ヘイスティングス氏がキーノートスピーチを行い、世界130カ国で新たにサービスを開始すると発表した。
アジアでは中国と北朝鮮以外ほとんどすべての国で展開されることになる。それを受けて、フジテレビ制作のドラマでアジアぐいっと切り込もうということだろう。Netflixにとってもフジテレビにとっても威勢のいい話だ。
動画配信二年目らしい、スケールの大きな話だ、と言えばいいのだろうが、一方私自身は少々SVODにもNetflixにも、前ほどワクワクしなくなっている。
私のテレビにはAppleTVもdTVターミナルもつながっている。AmazonのFireTVも横にありすぐにつながる体制が整っている。そして日々、NetflixとhuluとdTVと、時にはAmazonプライム・ビデオを見て回り、何を観ようか見て回る。何を観ようか見て回った末、何も観ないで終わってしまう。
もうなんというか、洪水なのだ。ドラマの洪水を土手に立って眺めた揚げ句、あまりの水量に腰が引けて入らないまま終わってしまう。
SVODにとってはドラマが重要だ。定額制ということは、いくら観ても料金同じっていいなあ!と思わせたいので、連続ドラマに力を入れることになる。日米のドラマをがんばって取りそろえ、それでも足らないとオリジナルドラマもまたずらりと並べる。どれも面白そうだ。
だがそうやって、それなりに面白そうなドラマが数々並ぶと、どれを見たらいいのかわからないのだ、さっぱり。
その結果、奇妙なことになっている。昨年、『HOMELAND』にハマった。夏だったか、ある人が面白い面白いと言うので、huluで見たらものすごく面白くって一気にシーズン1、2と観終えてしまった。大いに満足したが、調べると続きはすでに次々制作されている。一話数百円払えばシーズン3もdTVで視聴できることがわかったが、躊躇していた。
すると年末だったか、シーズン3がNetflixに入っていた。huluにもdTVにも同時に入っていたのだが、とにかくシーズン3をイッキ観した。驚愕の展開でさらに大々満足した。続きを見たいと思っていたら、年明けにDlifeでシーズン4がはじまったのだ。
かくて、私が今一番楽しみにしているハリウッドドラマは、NetflixでもhuluでもdTVでもなく、SVODではなく放送チャンネルであるDlifeで視聴している。・・・なんだそりゃ?・・・
考えてみると、『ウォーキングデッド』もそうだった。これは一昨年だったか娘がhuluで見るようになり、そこで視聴できる過去シーズンを全部見終わったら最新作をFOXチャンネルが放送しはじめた。かくて、毎年新シーズンの”放送”を父娘で楽しみにしている状態だ。
この観点から捉えると、SVODは面白い海外ドラマの入口に過ぎなくなってしまう。SVODで発見したら、最新作は放送で追いかけるのだ。SVODは補助かよ!元年ってそういうことだったの?
そんな状況で、私の中で割を食った形なのが日本の民放ドラマだ。前よりずっと見なくなってしまった。以前は、気になる新作ドラマはひと通り録画しておき、初回を観て気に入ったものは継続して視聴していた。とくに面白いと思ったものはできるだけリアルタイムで観たものだ。そうでなくても、4つや5つのドラマは続けて録画で視聴していた。
いまは、1クールにせいぜい2つだろうか。いや、録画は続けるのだけど、観ない。観なくなってしまったのだ。だってNetflixやAmazonプライム・ビデオに、なんか気になるオリジナルドラマがあるんだもの。
じゃあそれらを観るかというと、観ない。そのうち観るつもりで、観ないのだ。観るきっかけをつかめないまま、”マイリスト”とかに入れたっきりのドラマが数え切れないくらいある。リストに数え切れないくらい入れていると、その中でどれを観るべきかがもうさっぱりわからなくなる。
で、結局SVODで観るのは”一度観た少し前の映画”だったりする。面白かったのはわかっているし、でも細かいところは覚えてないので、ついつい観てしまう。どこか保守的な選択として”一度観て間違いなく面白かった映画”を選んでしまう。・・・いや、こんなことしたくてSVODに加入したんじゃないはずなんだけどなあ・・・
そうやってちょっとSVODに冷めはじめている。そうなるといちばん危ういのがNetflixだ。だっていちばん売りのNetflixオリジナルドラマを、結局いちばん見なくなってる。
そもそも、ハリウッドドラマは日本人にとって縁遠い存在だ。映画なら役者もよく知ってるけど、ドラマに出る役者はほとんど知らない。そして企画もぱっと呑み込めない。ドラマには国民性や国の文化が反映されている。映画よりもそれが濃いかもしれない。ちがう国のドラマは”わかりにくい”のだ。バンパイアものなんて見る気がしない。ゾンビものにはやっと慣れてきた。それ以外になると・・・醍醐味や見どころ、判断基準などがわからないのだ。
縁遠くてわかりにくい中でも、Netflixオリジナルはとくにわからない。距離がある。ローンチ当初はわりとはっきり”ウリはこれ!”というのがいくつかあり、ウォシャウスキー姉弟が取り組んだ『センス8』とか、マーベルものとしてはヘビーな味わいの『デアデビル』とか観たものだったが、そのあとが続かない。
もっと情報を発信しないと、ダメだよ、Netflixは。ごく一部の海外ドラママニアに受けてるだけで、それ以上にふくらまないよ。そこにはあまりたくさん人数はいないし、ほんとに好きな人はCSチャンネルで最新シリーズを追っている。結果論だけど、つかめている市場が中途半端な大きさしかないだろう。
それでもオリジナルドラマで勝負するのなら、”海外ドラマ好き”というカテゴリー以外の人たちにも魅力を伝えていかないと、広がらないだろう。いまおそらく、huluローンチ時よりはずっと多くのユーザーを獲得できているだろうけど、それを拡大するには、情報発信しないと。
意外にネット上でNetflixの予告映像が出てきたりはするのだけど、海外ドラマ好き以外にはなんだかよくわからないし、届かない。わからない予告編の最後に”Netflix”と出てきても、何も伝わらないまま終わってしまうだけだ。
予告映像より、必要なのは”これおもしろいよ!”という人の声だ。どんな話か、内容を説明されるより、”これねえ、とにかくびっくりするから!ドキドキするから!見たことないから!”と感覚的なことを言われるほうがずっと効く。だから実は、情報ではなく、感情が必要なのだ。インフォメーションより、エモーションこそが、見てみようと思うきっかけになる。
そういうとこ、頑張ってよ、Netflix。元年とか騒いだだけのことあったなあ、って思わせてほしいもんだ。
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