ひと言ではその概要を説明しにくいのだが、カンタンに言ってしまえば”2つの5分番組のどちらがいいか、視聴者代表の審査員が選ぶ”というもの。
そのすべての説明をすると、長くなるがこんなことだ。毎週火曜日23:25からの放送で、一カ月単位で4つの番組が対戦する。一週目で、最初の二組から、ひとつを選ぶ。二週目では別の二組からひとつを選ぶ。三週目で残った2つが一騎打ちして優勝作品を決める。
5分番組と言っても一話だけではなく、5話で完成する企画になっている。最初の対戦では第一話を、次の対戦では第二話を見ることになる。あらかじめみんな第二話まで制作してある、ということだ。優勝したら残り三話も制作し5本そろって完成させることができる。優勝できなかった残り3番組は第二話まででおしまいになってしまう。
審査するのは50名で、あらかじめ申し込んでいた視聴者から抽選で選ばれる。毎週、2本を見てまずそれぞれの感想を言い合う。両方見た後でどちらがいいか投票する。票が多いほうが次に進める。
バトルには、毎月インフルエンサーが登場する。番組を見て意見を言う役割だ。投票する審査員はその意見も参考にするが、インフルエンサーは直接審査に関わらない。月単位で二人ずつ登場する。だからインフルエンサーは、出演した月の4つの番組はすべて見ることになる。
さて、どうしてこのブログで「Eテレ・ジャッジ」の話を書いているかというと、2015年11月のバトルにぼくがインフルエンサーとして出演したからだ。どうして呼ばれたのかはよくわからないが、とても面白い体験をしたので、感じたことを書いておこうと思う。
この月のバトルは、一回戦は「閉まる自動ドア」と「ムカレルイカのきもち」、二回戦では「箱庭おじさん」と「おとなりチャットボイス」が対戦した。
それぞれの第一話をカンタンにここで説明しておこう。
「箱庭おじさん」ある会社のOLが主人公。上司は50代のいかにもおじさんで・・・臭い。悪い人ではないが、とにかく臭う。困っていると、なぜか机の引き出しに小さなオフィスがあって、そこに上司をそっくりそのまま小さくした「箱庭おじさん」がいた。そしてやっぱり臭〜い。そこで彼女は小さなおじさんにあることをしてみると・・・という、これもちょっとシュールなドラマタイプの企画だ。
「おとなりボイスチャット」アパートで一人暮らしの田力くんはおとなりに住む大神さんと壁越しに話すようになる。なぜか決して壁越しにしか話さず顔を見せようとしない大神さんだが、どんな美人か、そして二人の関係はどう進展するのか田力くんは妄想をふくらませていき・・・という変わったラブコメドラマもの。
この4本を、インフルエンサーは放送に先だって視聴し、感想を好き勝手に述べる。放送だけ見るとわからないがディレクターさんが上手に意見を引き出してくれるのでいろんな角度で語ってしまう。
それを番組放送時に、審査の合間にVTRで流して審査の参考にしてもらう、という手法。ぼくは最初の対戦、「自動ドア対イカ」はだんぜんイカがいいと思ったのだが、意外にも審査員が選んだのは「自動ドア」だった。対して第二回戦「箱庭対おとなり」で選ばれたのは「おとなりボイスチャット」だった。
そんなプロセスののち三週目の決勝戦はスタジオにインフルエンサーも出かけて行って生出演とあいなった。司会のお二人とも会えるというので勇んでNHKに乗り込んだ。
司会は、俳優の鈴木浩介さん。いまやあちこちのドラマや映画、CMに出演する売れっ子だが、『ライアーゲーム』でキノコ頭の福永を演じていた。いま高校生の娘が小学生だった頃から一緒にずっとこのドラマを見ていたので、キノコ頭の役者として強烈に印象に残っている。「キノコ頭と会うんだよ」と娘に自慢してしまった。
もうひとりの司会者は、モデルの秋元梢さん。美しく凛々しい女性だが、実は元千代の富士・九重親方の娘さんであることは意外と知られてないようだ。千代の富士はウルフと呼ばれ、相撲取りのわりに太っておらず精悍で、カッコよかった。彼を破って次の時代をつくったのが若貴兄弟だ。80年代に相撲界の先頭を走り続けたウルフの娘さんと会えるとはと高揚した。
さらに、一緒にインフルエンサーをやったのが宣伝会議の編集室長・田中里沙さんだった。田中さんとはもう十数年前からの知り合いで、ぼくは最近も宣伝会議で原稿を書いたりして接点がある。しばらくぶりに田中さんにお会いできるのも楽しみだった。
決勝では、「閉まる自動ドア」と「おとなりボイスチャット」が戦い、「自動ドア」が勝利した。残り三話も制作されるので、完成が楽しみだ。
優勝した四季涼さん。これぞドヤ顔!
破れた天野悠さん。負けた切なさがにじむ笑顔。
生放送が終わると、四週目の「戦略会議」の収録をする。一週目と二週目で破れた2本の第二話をみんなで視聴し、それも含めて一連の戦いの感想を語り合うのだ。
「箱庭おじさん」は実は第一話を見た時、あまり評価できなかったのだが、第二話で作り手の描きたかったことが見えてきて評価が変わった。おじさんの寂しさ、やるせなさを描いていたのだ。第二話で急にぼくにとっていい作品になってきた。
もっとも期待し、もっとも驚いたのは「ムカレルイカのきもち」の第二話。実は・・・と、ここで明かすのはもったいないので、ネット上でぜひ見てください。(リンクが生きてるかいつ外れるかわからないけど)
→Eテレ・ジャッジWEBサイト内「ムカレルイカのきもち」(ページの最下部に第一話第二話が置いてある)
さてここからがこの記事で書きたかったこと。この番組には「Eテレの未来を切り開け!」というキャッチがついていて、実際集まった作品はどれもこれも、斬新なものばかりで多分、ぼくが関わった回はとくにレベルが高かったようだ。正直どれが優勝でもモンクなかったと思う。
ただまず思ったのは、「Eテレの未来を切り開け!」とのかけ声にいちばん答えていたのは「ムカレルイカ」ではないかということだ。イカを剥く。ただそれだけの行為が番組になるとは。それにこれ、5分番組ならではで、10分とか30分とかの枠だと成立しなかっただろう。イカを剥くってこんなに気持ちいいんだ、イカってこんなに美しくていねいに剥けるんだ。そんな発見はちょうど5分にぴったりだった。
ぼくはテレビや映画を見ることが好きだ。その楽しみにはいろんな要素があるが、いちばんうれしいのは、こんなテレビあったんだ!映画ってまだこんなに新しい感動があるんだ!そんな映像に出会った時だ。
「Eテレの未来を切り開け!」というスローガンには、やはり「新しいEテレの番組を探そう!」という“新しさ“が求められていると思う。イカを剥くだけで番組になる!その発見は、思いもよらぬ興奮をぼくたちにもたらした。そのうえ第二話では!という点も含めて、「ムカレルイカ」には栄冠を授けたい。特別にサカイオサム賞をここで授賞したいと思う!実際、鈴木さん秋元さん、そして田中さんもこの作品には拍手をしていた。みんな同じように感じたのではないだろうか。
さらに加えて、テレビとネットの融合が具体化しつつあるいま、5分×5話、というスタイルは新しい映像視聴のフォーマットになる可能性がある。NetflixやAmazonによる動画配信が本格的に普及していき、一方で民放はTVerという見逃し配信サービスを起ち上げた。番組をネットで視聴することが、普通の人にとって普通のことになっていきそうだ。そうすると、これまでの番組の標準的な時間、30分とか1時間とかいう枠が、あまり意味がなくなる可能性があるのだ。
そもそもどうして30分や1時間だったか。放送だったからだ。放送は時間が重要で、毎週木曜日の9時から1時間、という枠があるから成立していた。時により時間が違うと視聴しにくくなるし、短い枠がたくさんあると何がなんだかわからない。
だがネットで配信する番組は、何分でもいい。さらに言うと、意外に1時間を日常の中でかけるのは大変なのだ。放送は自分にとって生活習慣になっていたから1時間費やすことで逆にリズムができていた。でもネット配信は「いま時間あいたからちょっと見ようかな」という視聴になる。すると、30分とか1時間より、5分のほうが「ちょっとあいた時間」に視聴しやすい。1話とりあえず見て、面白いから二話目三話目と見ることもしやすいだろう。配信には5分×5話とか10話とかのほうが合っているかもしれないのだ。
だからこの「Eテレ・ジャッジ」の優勝番組はNetflixやAmazonで配信してもいいのかもしれない。あるいは、制作会社の皆さんが今後、NetflixやAmazonにそういうフレームの番組を企画提案してもいいだろう。いっそ「Eテレ・ジャッジ」的な5分で競い合う企画を配信サービスで展開すると盛り上がる可能性だってある。
その時、作り手がめざすべきはどんな番組だろう。いつ見てもいいけど、一話見てしまうと次々に見たくなる番組。気軽に見はじめたらその奥の深さ、広がる世界の広さにハマって100話まで続いてしまうような番組。どんな番組かさっぱりわからないが、そんな番組ができたら楽しそうだ。「ムカレルイカのきもち」が見せてくれた新しさのさらに何十倍もの新鮮さに、ひとりの視聴者として出会ってみたいものだ。
「Eテレ・ジャッジ」には、そんなテレビの未来の夢を感じた。次のバトルでは、ひとりの審査員として参加してみようかな。
※筆者が発行する「テレビとネットの横断業界誌Media Border」では、VODをはじめ放送と通信の融合の最新の話題をお届けしています。Netflixなど配信事業者の最新情報も豊富です。民放大会やInterBEEのレポート記事も掲載しています。月額660円(税別)。最初の2カ月はお試しとして課金されないので、ぜひ登録を。同テーマの勉強会への参加もしていただけます。→「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」はこちら。購読は「読者登録する」ボタンを押す。
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