インドのタタモーターズがアメリカのフォードからイギリスのジャグァを買収した。テレビのニュース番組でその報道を見た。
同じニュース番組で大阪の少年が岡山で人を突き落として殺したことも知った。
このふたつの出来事には遠いつながりがある。
ジャグァはイギリスの高級車ブランドだった。私も昔は憧れたものだ。それがフォードに買われ、ついに新興国インドに買収された。そのことをイギリス国民はどう受けとめているだろう。無念、ではないはずだ。イギリスはとっくの昔に、製造業中心の産業構造を変革したからだ。もともとイギリスのブランドだったジャグァをインドの会社が買収したことは21世紀の動きの象徴的な出来事だ。製造業の中心が、もとの先進国から新興国に移ったのだ。
イギリスは製造業を捨てて金融業で立国するのだと決意して、金融ビッグバンを断行し、見事に再生した。国家に、戦略があった。ビジョンが明解だった。だからジャグァを懐かしむ人はいても、イギリス没落の証しだと落ち込む国民はいない。ビジョンを立てて旧事業を捨て去る。新しい事業に取組む。そこには心地よささえあるだろう。
岡山で人を突き落として殺した大阪の若者は、成績は優秀だったが家が貧しく、大学進学を断念したという。貧しさが彼を荒ませた。それはまちがいないが、問題なのは、大学に行けないことで彼がそこまで荒んでしまった点にある。
昭和の、高度成長期の日本にも、貧しい若者はいっぱいいた。中には大学進学を断念した人も数多くいただろう。だが彼らは荒んだ気持ちになって人を殺したりはしない。
社会に希望があったからだ。
この国が次のビジョンを打ち立てることなく、製造業にしがみつき続けているだけでは、社会に希望は生まれない。貧しい若者は荒むばかりだ。例えばタタモーターズが今度は日本の自動車メーカーを買収したら、日本中が落ち込むだろう。インドにお株を奪われちまった。おれたちはどうすりゃいいんだ。そんな気分が蔓延するにちがいない。
今のこの国には希望が見えない。国家戦略がない。相変わらず製造業中心でしか産業を捉えられない。だから新興国からただ奪われていくしかない。ますます貧しい人が増え、絶望の縁を漂う若者が増えていく。
奪われていくだけ。そんな状況から脱出しよう。付加価値のある国にしないと、殺人者が増えていくだけだ。
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