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メディアは広告であり、2024年は広告が問われる

画像はAdobeFireflyに「2024年は広告がメチャクチャになっているのが問題として浮上する」と入力して生成されたもの

しばらくこのブログでの更新をしてこなかったが、2024年はMediaBorderから一部を転載していく。

みなさん、すでに2024年の業務を開始したことだろう。MediaBorderも遅ればせながら最初の記事をお届けする。今年、メディアにおいて最重要問題となるのは、広告だと思う。それは、テレビ広告においてとネット広告とで問題の方向が違ってくる。

メディアは広告とセットの存在である

SVODはじめ「サブスク」の形態が2010年代に急速に浮上した。そのことをもって、今後のメディアはサブスクが主役になり広告モデルは古くなる、との声も聞かれた。当時から、それは大きな間違いだと感じていた。いや、メディアとは広告とセットなのだと。もちろん、例外は存在するが。
広告のことを侮蔑的に語りたがる人たちがいる。メディアの本質がわかってないなあと思ってしまう。逆にメディアの本質は広告とセットなのだ。
企業は商品やサービスを人々に提供してビジネスを行う。その際に、広告は欠かせない。そして広告の舞台はメディアだ。
広告を軸に捉えると、メディアは人々と企業の間を取り結んでいるのであり、それもメディアの社会的な価値の大きな要素なのだ。もちろんそこには常に、ジャーナリズムと企業サービスのせめぎ合いが起こるが、その葛藤も含めてメディアなのだと私は思う。
NHKのような「公共メディア」は別だし、SVODのようなサービスも別だ。だがNetflixとディズニー+は広告プランも選択肢に加え、アマゾンプライムビデオも海外ではそうなるらしい。
多くの人々に対しコンテンツを提供する存在にとって、広告モデルが重要なビジネス要素なのだとはっきりした。
なぜメディアは広告とセットなのか。それは、メディアとはイマを伝える存在だからだ。

参考:「メディアはイマであり、テレビはまあまあどうでもいいイマが強みだった」 (MediaBorder23年7月18日の記事)

イマを伝えると書いたそのイマの中には、実は広告も含まれる。広告を通じて、報道とは別の形で企業のイマを伝えているのだ。そしてそれがメシの種になる。だから今後も、メディアにとって広告は事業モデルの中心であり、サブスクともセットで運営することになる。これまでも新聞雑誌がそうだったように。完全に課金モデルだけで運営するメディアは限られるだろう。

ネットメディアの広告は今の形式の限界が近い

ネット広告市場は22年にマス4媒体の広告市場をも超えて3兆円にまで膨らんだ。いまや広告市場のメインストリームだ。ところがその中身たるや無法地帯化してしまっている。
あれだけ世界を制したFacebookやX(旧Twitter)の広告がボロボロになると誰が想像しただろう。だが説明するまでもない通り、Facebookには誰がどう見てもインチキな広告が平気な顔でタイムラインに流れてくる。Xの方はイーロン・マスクのおバカな言動により広告主が引いている。新ルールで拡散されるほど収益がユーザーに入るようになり、ゲスな投稿が跋扈している。まともな場所と言えなくなる寸前だ。
またネット上のメディアの記事を読もうとすると、まるで読者の邪魔をするように広告がやたらと表示される。どう見ても広告の面積の方が本来の記事より大きい。ページをめくると前面を塞ぐ広告が表示され、閉じるボタンがわからない。記事を読み進む意欲をなくしてしまう。
そんな状態で接触した広告に効果があるはずがないのに、1インプレッションとしてカウントされてしまう。企業は間抜けなことに、そのインプレッションにお金を払っている。まるで狸の化かしあいのような、ほとんど詐欺に近い「市場」で大きな金額が動いてしまっている。
私は様々なメディアで記事を書いてきたが、自分が運営するこのMediaBorder以外では東洋経済オンラインと日経ビジネス以外では書かなくなった。広告表示がまともだからだ。
ひどい広告表示のメディアでは、質より量なのかどんどん書き手を増やし、どんどん記事を増やしている。クズ広告が載るクズのような記事を載せまくると、クズメディアに成り下がってしまうのではないか。
この問題は2010年代からあったし、私はそのテーマの本も書いたが状況はむしろ悪くなっている。このままでは臨界点を超えてしまう。私は今年、それが来ると思う。実際、ネットメディアは全般的に不調と聞く。今のやり方はダメなのだ。
うまいこと広告を表示させようという意図しかない広告は表示されても見られない。まず読者が、次に広告主がNOを突きつけてくる。だがFacebookもXもGoogleもどうしたらいいかは見出せないだろう。
だがシンプルな話だ。コンテンツと広告の整理、そこに尽きる。これが記事です、ここは広告です、という区別をはっきりさせる。それだけの話だ。必要なのは秩序なのだ。
このテーマの先は、今年様々に掘り下げていこうと思う。

テレビCMは安く売ってきたのを是正できるか

テレビCMの場合、まったく別の課題が今年浮上するだろう。昨年、日本テレビがARMプラットフォームを24年度末からスタートさせると発表した。さらに年明けにはこんなニュースも飛び込んできた。

スイッチメディア、メ~テレと東海3県のテレビ視聴データで番組の価値を再定義して広告主に提案する共同営業を開始(スイッチメディア社リリース)

中京地区の局と、スイッチメディア社の取り組みという点が面白い。一体何をしようというのか。
それを知る前に、既存のテレビCMの売り方に元々あった問題点を理解する必要がある。日本のテレビCMはCPMで見ると米国より安売りしてきた。ここでは見せられないが、実際にそういうデータはある。
なぜ安かったか。ポイントはスポットセールスにある。これは考えればわかることで、スポット枠をGRPで売ると安売りになってしまうのだ。本来高くても買いたい枠と、本来買いたくない枠を一緒にして売るのだから全体としては安売りになってしまう、ということだ。1個100円のりんごも、1箱だと30個入って2000円で売るようなことをやってきた。
その解決策が日本テレビが始めたSAS(Smart Ad Sales)で、スポット枠を単品売りするやり方だ。
もう少し詳しく説明すると、ある広告主がM1(若い男性)にCMを見せたいと考えたとしよう。番組Aは個人全体視聴率は低いがM1がたくさん見ている。その広告主にとっては買いたい枠だ。ところが個人視聴率は低いのでGRPで買うと安売りになってしまう。
ここで「売り方」の問題が出てくる。スポットで買う際になかなか「番組Aの枠を買いたい」と言っても通用しなかった。だからと言って突然タイム枠は取れない。そんな場合にはSASで指定買いできればいいわけだ。もちろん価格は交渉になるだろうが、GRPで買う時より多少高くても全体の中で納得できればいいわけだ。
このSASもまだ活用できていない局や広告主もいるだろうが、今後のひとつの方向性になるだろう。
その次にどう進むか。スイッチメディア社とメ〜テレの取り組みはそこを目指すのだろうが、そう簡単ではない。
とにかく答えは一つではなく、これまでのように「タイムかスポットか」からいかに考え方を広げられるかが今後のテレビ局の課題になるだろう。これについても、今年は重要なテーマの一つとして注力していきたい。
今年はメディア界にとって波乱の年になるだろう。いままで考えられなかったような議論や動きが巻き起こるのはまちがいない。MediaBorderを通じて先取りしてお伝えしていくのでぜひお読みください。

テレビCMの売り方を考えるウェビナー開催

注力する最初として、1月30日にウェビナー「CTV時代のテレビCM データを駆使した新しい売り方を考える」を開催する。詳しくはこちらを読んでいただきたい。

テレビCMの新しい売り方を議論するセミナーをなぜ開催するか(MediaBorder23年12月20日)

申し込みはこちらの画像をクリック

MediaBorder購読者には3,300円を2,500円に割り引きます。(→MediaBorderへ)

新著「嫌われモノの〈広告〉は再生するか」を書いたのはどうしてかというと・・・

メディアやコンテンツの業界にいる者として、キャリアのベースが広告業界だったのはよかったと思う。広告屋の自負を込めて言うと、メディアというものを客観的に見る立ち位置が獲得できたからだ。

広告との関係でメディアを知っているのといないのとでは、考え方の幅やリアリティに大きな差ができてしまう。メディアは理想論や正義感だけでは運営できない。だから理想論が不要だと言いたいのではない。広告ビジネスの実情、なぜメディアがビジネスとして成立しているのかまで理解した上で、理想を追い求めることが大切だと思うのだ。社会に役立つ良いコンテンツさえ発信していればいいのだ!としか考えない作り手は、沈没してしまうだろう。

とくに今のようにメディアのビジネスモデルが根本から変わろうとしている時、現実を見ずに理想論を振りかざしてもあまり意味がない。私はメディアは社会のために役立つべきだと思うし、マネタイズを優先していてはいけないと考えている。一方で、「お金の話は営業に任せて」と作ることだけを言う人は、いまの2020年という時代には無責任だと思う。むしろ、お金のことも頭に入れてそれでもなおより良いコンテンツづくりに力を注ぐべきなのだ。するとおのずから、コンテンツの中身や作り方も変わってくるはずだ。

この本は、そんな葛藤を抱えた人に読んでほしい。広告の話であり重心はネット広告なのだが、広告関係者のみならずメディアとコンテンツに関わるすべての人に読んでもらえるつもりで書いている。

ざっと内容を紹介しよう。まず目次から各章のタイトルを並べてみよう。

  • Introdustion なぜ広告は 「嫌われモノ」になったのか?
  • Chapter1:ネットメディアと広告の結びつき〜「ネット広告の闇」を暴いた二つの告発
  • Chapter2:ネット広告というブラックボックス〜破壊された棲み分け
  • Chapter3:ハードルを越えるための解決策〜ホワイトリストと意識改革
  • Chapter4:PV商売からの脱却を図るメディア〜「コンテンツ価値」という答え
  • Chapter5:テレビCMにも起きている変化の波〜視聴率から視聴質への転換
  • Last Chapter:これからの広告の在り方はどうなるか?

そして本の概要についてイントロダクションでこう書いている。

第1章では、ネットでのメディアと広告の関係を追ったあと、WELQと漫画村の二つ の「 事件」が告発されるプロセスを見る。第2章では、ネット広告の問題点を整理したう えで、それらが起こった背景を「 棲み分け」をキーワードに説明する。第3章では、そう したネット広告の問題点を解決するべく始まった業界の動きを、「アドバタイザー宣言」を 軸に見ていく。

第4章では、ネット広告の問題を生み出していた、PV数への依拠から脱却する新しい メディアビジネスの在り方を、二つの企業を例に見ていく。第5章は補足として、テレビ CMの指標が今変化しつつあることを解説し、ネット広告との相似性を感じてもらう。最 終章では、まとめとして、今後のメディアのエコシステム( ビジネス上の強調関係や産業 構造)はどう構築されるか、希望的な私見を述べる。

これを書くにあたっては昨年2019年の秋から半年に渡って取材を重ねた。WELQを告発した朽木誠一郎氏とNHK「クロ現」で「ネット広告の闇」のシリーズを追っている蔵重龍氏に話を聞けたのは「問題の端緒」がよくわかる貴重な取材となった。このあたりは“読み物“としても面白いと思う。また取材を始めてすぐJAA(日本アドバタイザーズ協会)の小出誠常務理事を訪問したら、ちょうど「アドバタイザー宣言」発表直前だったのはラッキーだった。ADK清家直裕氏とスマートニュース川崎裕一氏からは、宣言を受けての業界内の啓蒙などをじっくり聞けた。そしてメディアジーン社の今田素子社長、講談社の長崎亘宏氏からはメディア企業がこれまでとは違う広告の仕組みを「開発」している様子を具体的にうかがうことができた。

これらの取材は私がすべて決めていったわけではない。むしろ、イーストプレスの編集者・木下衛君が「こんな取材をしましょう」とか「あの方にお話を聞きたいですね」と言うのに引っぱられて聞いていった結果だ。彼が名前を挙げた方が、「あ、知ってるよその人なら」「知ってる人から紹介してもらおう」と、もともと縁がある方だったりしたのだが、この本のためにその人に聞くべきと、私だけでは思いつかなかったかもしれない。木下君に導かれるままに訪ね歩き書き進めた感がある。

取材したテープは木下君が全文書き起こしをしてくれたのだが、それをまとめていくのはいささか手こずった。膨大な言葉を、どう並べてどんな論旨でまとめればいいか大海原で途方に暮れたような状態になった。とにかく取材をまとめては文章化し、触発されたことを書いていった。それを木下君と相談して順番を変えたり、それに合わせてまた考えを書いたりしていくうちに仕上がった。不思議なもので、最初から全体の筋立てを決めて取材し書いたように見える。だが私としては、書き起こしと奮闘するうち、魔法のようにまとまっていったのだ。そういう意味では、自分の意図を超えた書籍になったと思う。よくこんなことをまとめられたものだと我ながら感心している。

その結果でき上がったものは、ネット広告の最前線でここに書いたことを体験してきた人には「わかってたこと」かもしれない。ただ、イントロダクションでこう書いている。

この機にネット広告を知りたいマス広告出自の方、逆にマス広告からの視点を知りたいネット広告従事者には、 頭に入りやすいと思う。さらに、企業の宣伝部にいる管理職層やコミュニケーション担当 役員の方で、「で、ネット広告って、何がそんなにヤバいの?」と思ってる方にも、わかり やすい本になっているはずだ。

つまりこの本はマス広告に出自を持つ私が、この十年くらいネットとそこでの広告を横目で見てきたことをまとめているので、マスとネット両方の視野で書いている。片方しか関わってこなかった人には役に立つと思うのだ。また企業で宣伝に関わる方が、上司や経営者に実情をわかってもらうにもいいはずだ。さらにテレビCMの動向も書いており、放送関係の方にもかなり役立つ内容のつもりだ。

というわけで、みなさんにぜひ読んでもらいたい。またこの機に、私が運営するWEBマガジン「MediaBorder」にも興味を持ってもらえればと思う。MediaBorder購読者は勉強会「ミライテレビ推進会議」に参加できることもご案内しておこう。参加希望者は私宛てにメールしてくれればご案内する。→境宛てにメールする

テレビ広告費がネット広告費に抜かれた今、両方を自由に行き来できることが必要になる。そのために必要な知識と発想を、一緒に学んでいければと思う。

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