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新著「嫌われモノの〈広告〉は再生するか」を書いたのはどうしてかというと・・・

メディアやコンテンツの業界にいる者として、キャリアのベースが広告業界だったのはよかったと思う。広告屋の自負を込めて言うと、メディアというものを客観的に見る立ち位置が獲得できたからだ。

広告との関係でメディアを知っているのといないのとでは、考え方の幅やリアリティに大きな差ができてしまう。メディアは理想論や正義感だけでは運営できない。だから理想論が不要だと言いたいのではない。広告ビジネスの実情、なぜメディアがビジネスとして成立しているのかまで理解した上で、理想を追い求めることが大切だと思うのだ。社会に役立つ良いコンテンツさえ発信していればいいのだ!としか考えない作り手は、沈没してしまうだろう。

とくに今のようにメディアのビジネスモデルが根本から変わろうとしている時、現実を見ずに理想論を振りかざしてもあまり意味がない。私はメディアは社会のために役立つべきだと思うし、マネタイズを優先していてはいけないと考えている。一方で、「お金の話は営業に任せて」と作ることだけを言う人は、いまの2020年という時代には無責任だと思う。むしろ、お金のことも頭に入れてそれでもなおより良いコンテンツづくりに力を注ぐべきなのだ。するとおのずから、コンテンツの中身や作り方も変わってくるはずだ。

この本は、そんな葛藤を抱えた人に読んでほしい。広告の話であり重心はネット広告なのだが、広告関係者のみならずメディアとコンテンツに関わるすべての人に読んでもらえるつもりで書いている。

ざっと内容を紹介しよう。まず目次から各章のタイトルを並べてみよう。

  • Introdustion なぜ広告は 「嫌われモノ」になったのか?
  • Chapter1:ネットメディアと広告の結びつき〜「ネット広告の闇」を暴いた二つの告発
  • Chapter2:ネット広告というブラックボックス〜破壊された棲み分け
  • Chapter3:ハードルを越えるための解決策〜ホワイトリストと意識改革
  • Chapter4:PV商売からの脱却を図るメディア〜「コンテンツ価値」という答え
  • Chapter5:テレビCMにも起きている変化の波〜視聴率から視聴質への転換
  • Last Chapter:これからの広告の在り方はどうなるか?

そして本の概要についてイントロダクションでこう書いている。

第1章では、ネットでのメディアと広告の関係を追ったあと、WELQと漫画村の二つ の「 事件」が告発されるプロセスを見る。第2章では、ネット広告の問題点を整理したう えで、それらが起こった背景を「 棲み分け」をキーワードに説明する。第3章では、そう したネット広告の問題点を解決するべく始まった業界の動きを、「アドバタイザー宣言」を 軸に見ていく。

第4章では、ネット広告の問題を生み出していた、PV数への依拠から脱却する新しい メディアビジネスの在り方を、二つの企業を例に見ていく。第5章は補足として、テレビ CMの指標が今変化しつつあることを解説し、ネット広告との相似性を感じてもらう。最 終章では、まとめとして、今後のメディアのエコシステム( ビジネス上の強調関係や産業 構造)はどう構築されるか、希望的な私見を述べる。

これを書くにあたっては昨年2019年の秋から半年に渡って取材を重ねた。WELQを告発した朽木誠一郎氏とNHK「クロ現」で「ネット広告の闇」のシリーズを追っている蔵重龍氏に話を聞けたのは「問題の端緒」がよくわかる貴重な取材となった。このあたりは“読み物“としても面白いと思う。また取材を始めてすぐJAA(日本アドバタイザーズ協会)の小出誠常務理事を訪問したら、ちょうど「アドバタイザー宣言」発表直前だったのはラッキーだった。ADK清家直裕氏とスマートニュース川崎裕一氏からは、宣言を受けての業界内の啓蒙などをじっくり聞けた。そしてメディアジーン社の今田素子社長、講談社の長崎亘宏氏からはメディア企業がこれまでとは違う広告の仕組みを「開発」している様子を具体的にうかがうことができた。

これらの取材は私がすべて決めていったわけではない。むしろ、イーストプレスの編集者・木下衛君が「こんな取材をしましょう」とか「あの方にお話を聞きたいですね」と言うのに引っぱられて聞いていった結果だ。彼が名前を挙げた方が、「あ、知ってるよその人なら」「知ってる人から紹介してもらおう」と、もともと縁がある方だったりしたのだが、この本のためにその人に聞くべきと、私だけでは思いつかなかったかもしれない。木下君に導かれるままに訪ね歩き書き進めた感がある。

取材したテープは木下君が全文書き起こしをしてくれたのだが、それをまとめていくのはいささか手こずった。膨大な言葉を、どう並べてどんな論旨でまとめればいいか大海原で途方に暮れたような状態になった。とにかく取材をまとめては文章化し、触発されたことを書いていった。それを木下君と相談して順番を変えたり、それに合わせてまた考えを書いたりしていくうちに仕上がった。不思議なもので、最初から全体の筋立てを決めて取材し書いたように見える。だが私としては、書き起こしと奮闘するうち、魔法のようにまとまっていったのだ。そういう意味では、自分の意図を超えた書籍になったと思う。よくこんなことをまとめられたものだと我ながら感心している。

その結果でき上がったものは、ネット広告の最前線でここに書いたことを体験してきた人には「わかってたこと」かもしれない。ただ、イントロダクションでこう書いている。

この機にネット広告を知りたいマス広告出自の方、逆にマス広告からの視点を知りたいネット広告従事者には、 頭に入りやすいと思う。さらに、企業の宣伝部にいる管理職層やコミュニケーション担当 役員の方で、「で、ネット広告って、何がそんなにヤバいの?」と思ってる方にも、わかり やすい本になっているはずだ。

つまりこの本はマス広告に出自を持つ私が、この十年くらいネットとそこでの広告を横目で見てきたことをまとめているので、マスとネット両方の視野で書いている。片方しか関わってこなかった人には役に立つと思うのだ。また企業で宣伝に関わる方が、上司や経営者に実情をわかってもらうにもいいはずだ。さらにテレビCMの動向も書いており、放送関係の方にもかなり役立つ内容のつもりだ。

というわけで、みなさんにぜひ読んでもらいたい。またこの機に、私が運営するWEBマガジン「MediaBorder」にも興味を持ってもらえればと思う。MediaBorder購読者は勉強会「ミライテレビ推進会議」に参加できることもご案内しておこう。参加希望者は私宛てにメールしてくれればご案内する。→境宛てにメールする

テレビ広告費がネット広告費に抜かれた今、両方を自由に行き来できることが必要になる。そのために必要な知識と発想を、一緒に学んでいければと思う。

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