目黒区の保育園が反対運動で開園延期になった件について取材を重ねて、プレジデントウーマンオンラインに連載している。直近の回は以下の記事だ。
第四回:保育園に反対する理由。わかるようで、わからない?
第五回:保育園は、町のインフラのひとつなのだと思う
第五回では、実際に目黒区に住んでいるママさんに、保育園を探す困難について取材し書いている。この記事では多岐に渡る内容を書いているので、ママさんたちに取材したことをここでフォロー的に書いておきたい。
まず、保育園は増えている。増えているし待機児童は少し減ったけれど、まだまだ、まだまだ保育園は足りない。目黒区でも急激に高まるニーズに対応しようとしてはいるが、追いついていない。
”保活”について知識がある人は、点数制であることはご存知だろう。就業状況や家族状況など、様々な条件を点数化し、高い順に保育園に入れるというもの。認可保育園に入れるためには、点数を”稼ぐ”必要がある。
目黒区の場合これが熾烈で、「すでに働いている状況」じゃないと申請ができない。
ここ、意味がわかるだろうか?保育園に子供を預けたいのは、働くためだ。ところが、子供を預けたいなら、働いてないとダメです、ということだ。矛盾していないだろうか。いや、だろうか、ではなく、矛盾している。
これは「認可保育園に預けるには」なので、認証や無認可なら入れるかもしれない。ということで、認可保育園に預ける権利を得るために、認証や無認可に預けるのが目黒区では保活の「基本戦術」になるのだ。
会社の制度を使うと、1年なり2年なり3年なりの産休育休がとれる。だが例えば、最初は3歳から復職しようと思っていても、認可保育園に入れるために先手先手を打っていくと結局もっと早く復職せざるをえない。そのため認証や無認可も空きが非常に少ない。無認可の中には高度な教育をしてくれるところもある。どうせ預けるならとそういうところを選ぶとびっくりするような高額だったりする。でもせっかく空いてるのだからと、とりあえず入れているうちに認可に入れず、何のために働くのかわからない状態になったりもする。
かくて、保活は驚くほどのテクニカルな戦術が必要になってくる。情報収集も欠かせない。大学受験どころではなく、作戦を立て、保険をかけたり、制度を熟知して効率的な得点稼ぎに走らざるをえない。
そして保活が激化すればするほど、保育園はますます足りなくなる。育休をめいっぱいみんながとれればいいが、育休を続けるなんて悠長なこと言ってられず復職が当初より早まってしまうのだからどんどん保育園が必要になる。なんとも奇妙な状況だ。
目黒区で言うと、他の区よりも「専業主婦文化」が続いていたのが、このところ急に若い世代の人口が増え、「共働き文化」に行政がまだ対応できていない、ということだろう。”子育て”のための施設や施策は充実していて、決して子供を育てにくいわけではないそうだ。ただ、「保育園」というものが長らく必要なかった。それを慌てていま増やそうとしているのだ。
保育園への反対運動も、そういう新旧文化の摩擦だと言えるのかもしれない。だが、取材した中には目黒区での保活を諦めて別の市に引っ越したママさんもいた。「共働き文化」を受け入れないと、目黒区だって「限界集落」的な状態に陥らないとも限らない。
反対運動側の人たちはよく「ここにつくらなくても、使われていないあの施設を使えばいい」と口にするのだが、ここにもそこにも、つくれる場所にはどんどん保育園をつくったほうがいいのだ。つくってつくって、少し定員にゆとりがあるくらいになって、”保活”なんて言わなくてもすむようにならなければ。
そういう社会をめざそう、というコンセンサスができなければ、反対運動は目黒区でなくてもどこでも起こるだろう。そういう働きかけこそが政治だと思うのだが、どうだろうか。
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境 治
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