このブログでは前はもっと映画について書いていて、“日本映画産業論”というカテゴリーもつくってある。そこでは主に、日本の映画産業の問題点と海外輸出への可能性を書いていた。テレビのことだけ書いてるわけじゃないのですよ。
で、久々に映画の話題。
『パシフィック・リム』を観た。相当面白かったし、いろいろびっくりした。
モンスターが世界を襲う物語の場合、主人公達の何の変哲もない日常を描いておいてそこに非日常がやってきて大騒ぎになる、という流れが普通だ。『ワールドウォーZ』の導入部なんてその典型。その『Z』でさえも、もうゾンビ出てくるんだ本題に入るの早いなあと思ったものだった。
『パシフィック・リム』はその上をいく。物語の前提は、短いニュース映像の畳み掛けとナレーションで説明される。モンスターが突如世界を脅かしてね、という段取りはもう要らないよ、説明しちゃって本題から入るからね、そんな流れ。
で、いきなりモンスターとロボットの戦いの場面になる。最初から血圧高い。そのあともずーっと高血圧のまま映画は進んでいく。最後までずーっとこめかみ辺りの血管が破れちゃうんじゃないかというくらい。でも不思議と後味すっきり。
IMAXのスクリーンで3D版を観たのだけど、IMAXで観てよかったと思ったのは『アバター』以来かもしれない。それくらい見応えがあった。IMAXが近くにある方は、ぜひ!
さていろいろ楽しめる『パシフィック・リム』だけど、ここで書きたいのはこの映画の”おたくっぷり”についてだ。
人間がロボットの中に入って操縦する。その発想から、ロボットの造形、メカの細かな部分とか操縦する人間のみを包むボディスーツとか、なーんだか見たことある感じなのだ。『マジンガーZ』『ガンダム』から『エヴァンゲリオン』まで、ロボットアニメをぜーんぶミキサーで混ぜて濃縮してとろとろになったものに、東宝特撮映画をふりかけたような。さらには、『エイリアン』『プレデター』などハリウッドのその手の作品も入ってる。エンドクレジットには“レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ”と出てくるので、まさにこれまでの特撮映画、VFX映画の歴史から生まれたのだろう。だがあまりにも日本色が強いのがこの映画の特徴だ。
極めつけは、この映画では登場するモンスターを”カイジュウ”と呼ぶこと。”KAIJU”と表記していたが、英語のセリフの中に突然カタカナの“カイジュウ”が出てくるのは面白い。
前の『GODZILA』の時にゴジラがただの恐竜の特別なやつだったのにガッカリした。ハリウッドのやつらには“怪獣“がわかんないんだなあと思った。でも、『リム』の監督ギルレモはちがうようだ。わかってるんだ。本物だぜ、ギレルモ!
それで見ていてふと思ったんだけど、この映画ってクールジャパンなんだなあ、と。
先日、ある編集者の知人と話していて、いま80年代サブカルが市民権を得ているねと、だから例えばいまのドラマなんかものすごくレベルの高いところまでいってる。クールジャパンというなら、そういう文化を輸出すべきでは。そうハイになる彼に、ぼくは「ぼくもドラマをはじめ、いまの日本の文化はすごい高い領域にたどり着いたと思う。でも同時に、あまりにハイコンテキストになっていて、海外の人には理解できないんじゃないか」と言った。
『パシフィック・リム』を観てしまうと、考え方が少し変わってしまった。ハイコンテキストでもイケるんじゃない?少なくとも、ギルレモは『最高の離婚』とか『あまちゃん』とかわかってくれるかも!
戦後、ぼくたちはアメリカの映画やドラマを見て、彼らのファッションや飲み物やライフスタイルを仕入れてきた。ぼくたちは、アメリカの警官が簡単に発砲するとか、高校卒業時にプロムとかいって高校生のくせにおめかししてダンスパーティやるとか、アメリカ人はすぐ訴訟するし陪審員制度で市民が人を裁くとか、そんなことを知っている。
アメリカの映画はどの移民が見てもわかるようにできているから海外でも理解しやすい。同時にぼくたちは彼らの文化もよく知っているのだ。つまり、映画をたくさん観ているうちに、ハイコンテキスト性も受け入れやすくなる。
『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』はこの二十年間に世界中で観られてきた。かなりの人びとが日本の生活を理解している。
だったら、『最高の離婚』をあっさり受けとめてくれるかもしれない。『半沢直樹』なんかすぐに理解できちゃうんじゃないか。
さらに言えば、『パシフィック・リム』みたいな映画をハリウッドが作っちゃう世の中だ。監督のギレルモ・デル・トロはそもそもメキシコ人だしそもそも国籍なんか超えた作品だったのだ。資本もスタッフも交錯してどこの国とも言えない、でも根っこに日本独特の文化を感じちゃうなあ、という映画だって作れちゃうんじゃないか。そしてクールジャパンって、そういうのもありなんじゃないかなあ。
わりとそんなことが可能な時代はすぐ来る気がする。きっと、映像界の若い人たちが実現してくれるんじゃないだろうか。
コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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