『半沢直樹』が好調だ。TBS日曜21時のドラマはこのところヒットが多い。『JIN~仁〜』『ATARU』『とんび』など内容的にも視聴率的にも成功作が続いている。でも『半沢直樹』は格別だ。銀行員が主役の男性的なドラマ。ふつう、ドラマは女性に観られないと視聴率に結びつかない。それに初回以降少しずつ下がって、最終回に向けてまた上がるかどうか、が普通だ。なのに第2回で20%を越えたあとも上がり続けている。昨日の第五回(8月11日放送)ではなんと29%になったそうだ。30%まであと一歩!
最近のドラマで視聴率が話題になったと言えば、『家政婦のミタ』がある。最終回で40%をとってびっくりしたのは記憶に新しい。ところが『半沢直樹』は『ミタ』を上回るペースだ。『ミタ』の視聴率が20%を超えたのは第五回だった。『半沢直樹』は第二回で早くも21.8%を獲得している。『ミタ』が水曜22時放送だったのに対し『半沢直樹』は日曜夜。視聴率をとりやすい時間帯だと言えるかもしれない。だったらもっと伸びるかも。
今後、『半沢直樹』が『家政婦のミタ』の40%を越えるかどうかに注目が集まりそうだ。
それにしても、いくら堺雅人が人気とは言え、この視聴率の高さは不思議だ。『家政婦のミタ』の視聴率はあの時のあの時点でああいうドラマが送り出されたタイミングと偶然がもたらした途方もない奇跡で、そうそう起こるわけではない、いや二度と起こらないだろうと誰もが思っていただろう。
東洋経済オンラインに演出の福澤克雄氏のインタビューが載っていて、制作側としては最終回で20%に乗ることが目標だったそうだ。作り手もここまでの大ヒットは想像していなかった。ヒットとはそういうものだろうか。
このヒットを生み出したのはもちろんドラマそのものの力によるが、このところ起こっている“口コミ増幅現象“も大きく関与していると思う。
前に書いた「池上彰とテレビ東京が起こした、ちょっとした革命」という記事で、池上彰の選挙特番がTwitterで盛り上がっていたら視聴率もよかったと書いた。これは誤解も招いた気がする。このケースではたまたま相関性があったが、だからと言って「Twitterでの盛り上がり=視聴率」ではない。相関性が強い場合、そうでもない場合があって「=イコール」ではないのだ。
『半沢直樹』も視聴率上昇とともにTwitterでのつぶやきもぐいぐい上がっているかというとそうでもなかったりする。
ただ、このところどこかで火がついた情報がマスメディアからネットメディアまであらゆるメディアを飛び交って増幅されている気がする。『半沢直樹』も先の記事も含めてネット上でたくさんの記事になり、雑誌でも取りあげられ、あげくは他局含めてテレビでも話題になっている。その“飛び火“を突き動かす潤滑油としてソーシャルメディアが機能しているのではないだろうか。そしてスマートフォンの普及とともにそういうソーシャルメディアの”情報潤滑機能”が高まっているのではないか。
なんとなくイメージ的な説明図を描いてみた。ネットで記事になったらTwitterで盛り上り、その盛り上りが雑誌の記事につながりまたTwitterでも話題になり、それを受けてテレビでもとりあげてさらにTwitterでも盛り上がる、といった具合だ。
ドラマの話題に限らず、政治家の舌禍事件にしろ、芸能人のゴシップにしろ、ばーっと広がってばーっと忘れられる。もともとマスメディア自体が持っていたそういう傾向が、ソーシャルメディアによって強まったのではないかと思うのだ。
それから、もっと大事だなと思うのがこの図での友人知人との雑談だ。テレビ番組について学校や職場で話題にしなくなっていたがソーシャルメディアがその役割を担うようになった、とよく言われるが、間違いではないが少し違うと思う。昔に比べると圧倒的に減ったとは言え、いまだって友人知人とテレビ番組について話題にする。テレビ以外だってそうで、友人知人との雑談は情報伝達においていまだに重要な領域なのだ。それをソーシャルメディアが促進しているのだとぼくは思う。
話が広がってしまったが、とにかくソーシャルメディアだけが情報を伝達しているのではなく、リアル口コミを含めて極めて複雑で複合的な伝達網の中にぼくたちはいる。ソーシャルメディアがそれを複雑にもしたし、促進もした。ソーシャルは口コミを倍返しにするのだ。いや、下手をすると10倍返しどころか累乗的に加速させる。
だとしたら『半沢直樹』は最終回でびっくりするような視聴率を叩き出すのかもしれない。などという話より何より、ドラマそのものの展開の方が気になるのだけど・・・。
コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
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