このブログはもともと、映像制作会社で経営企画をしていた時に、業界が激変するからいろいろ考えようぜ、という社内向けのメッセージのつもりではじまった。その頃いちばん重要視していたのが映画興行収入の統計値だった。毎年1月下旬に、日本映画製作者連盟という団体が発表する、業界の公式データだ。
発表されるとこのブログに記事を書いてきた。最近はメディアコンサルタントと自称して、興味が拡散してきていたので、去年は発表を忘れていた。今年はちゃんと書こうと思う。
ちなみに日本映画製作者連盟の発表データはここで公表されている。
2015年のデータを含めて、2001年以来の15年間の数値をグラフにしたのがこれだ。
※日本映画製作者連盟・日本映画産業統計の過去データからグラフ化
緑の線が、興行収入合計値の推移。これは日本映画興行の不思議なところで、2000億円規模が多少デコボコありつつ大きくは変わらない。2010年に『アバター』はじめ3D映画でメガヒットが出てきて2200億円にふくらみ、ついに2000億円から成長していくのか?と期待したら結局2000億円にまた均されていった。2015年は再び2100円規模にふくらんでいるが、関係者としては「もうだまされないぞ」という気分だろう。
このグラフではそれより、青の邦画と赤の洋画の追いつ追われつの攻防に注目してほしい。
そもそも90年代までは、邦画なんか普通の人は見なかった。映画といえばハリウッド映画で、邦画は地味で暗くてテーマを押し付けてくるださーい存在だったのだ。デートにはメグ・ライアン主演のラブコメが選ばれ、どんくさい邦画は『キネマ旬報』とか好き好んで読むインテリぶった人しか見なかったのだ。
99年の『躍る大捜査線』の、誰も予想しなかったメガヒットで状況が変わった。少しずつ”テレビ局映画”がボックスオフィスの上位を賑わせ、フジテレビを筆頭に各局が映画製作に乗り出した。2000年代半ばについに洋邦が逆転してしまう。2010年頃まではそんな傾向だった。
それがここ数年、また違う局面になってきている。邦画は伸び悩み、また洋画が浮上しはじめているのだ。
もっとも、洋画が浮上しているのはあくまで大作の話で、2015年は『ジュラシックワールド』『ミッションインポシブル』などのシリーズものや『ベイマックス』『シンデレラ』などディズニー作品が主だった。それ以外のちょっとした大作ぐらいだと当たらない。もっと下の”佳作”レベルはとんとヒットしない。
邦画も下がってはいないものの、上位作品は『妖怪ウォッチ』『バケモノの子』などアニメ作品がメインだ。『HERO』がその次に来ているが、実写のボリュームは後退している。
映画全体が難しくなっているのだ。そして、実写の邦画はもうメガヒットを生み出せない空気。
考えてみたらメガヒットはフジテレビ映画だった。しかもドラマの映画化作品だ。フジテレビがテレビのほうで元気をなくしている状態で、映画でヒットを出せるはずがないだろう。
いやしかし、ひところはフジテレビだけでなく、それに続くメガヒットはあちこちから次々に登場していた。フジテレビ作品に引っ張られて、他の実写映画も好まれる土壌ができそうに見えていたが、その土はあっさり地滑りを起こすように流れ去ってしまったようだ。
邦画が勢いを持った2000年代後半は、この勢いがあれば日本の映画産業が海外で市場をつくれるのではないかと期待した。そうなる前にこっちが失速してしまった感がある。
いま、仕事として日本のコンテンツ産業の海外進出の可能性を調べている。調べれば調べるほど、無理じゃないかと思ってしまう。
中国がすごいのだ。もはや映画興行で世界第二の市場になったのだが、アメリカを抜いて一位の市場に向かってものすごい勢いで伸びている。
→「世界第1位」達成予想は3年後、中国映画市場の2015年度興行収入は8160億円―中国
2015年の映画興行市場は8160億円になり、前年の5480億円の1.5倍だ。なんというか、そんな馬鹿みたいに伸びる成長がありえるのかという規模だ。ちなみにアメリカは1兆3300億円だったそうで、中国にはまだ映画館がない都市が何百もあるので、3年後には抜く予想だという。
日本の映画産業は、ほとんど入り込めていない。政策的な制限があり、海外で作った映画をそのまま公開するのは難しい。ただ、人的交流により、うまく合作して役者は中国人、スタッフは海外、というやり方なら行けるそうだが、そのためにはそういう枠に日本も入っていないといけない。だがいま、そういう外交関係にないので無理なのだという。韓国はちゃっかり入り込んでいる。
そうじゃなくても、日本は海外に対して引っ込み思案で、これまでもアプローチをしてなさすぎた。つい最近まで、売ってみてもあほらしいような値段でしか売れないのでやる気になれなかったのだ。でもいま、状況はまったく変化し、高い値段でコンテンツを買うようになった。向こうのエンタメ業界がすっかり経済的に豊かになったのだ。
それから、中国に限らずアジアでは自国のコンテンツを愛する傾向が強いようだ。少なくとも、実写の場合は自国の俳優が出ていないと見ない。アジアでは日本のタレントが人気だ、と言われるがそれはごく一部、台湾でとくに起こっている現象に過ぎない。今後は、ハリウッドの超弩級の大作と、国内コンテンツになっていくだろう。中国がすでにそうだし、他の国々も経済成長とともにコンテンツ産業が発達し、同様の傾向になるのだと思う。
だが日本にやりようはあると思う。それは、アジア各国の人びとと融合しながらコンテンツ製作をすることだ。日本はまだ、レベルが高い。撮影や制作の手法や、物語づくり、演技やアクションなど、学んでもらえる要素はたくさん持っている。それを活かして、アジアに溶けこんでいく。そこにしか日本のコンテンツ産業の海外の可能性はないと思う。
もちろん、アニメは例外で、可能性がある。声さえ吹替えれば、各国で自国文化同様愛着を持ってくれるだろう。
ただ、「だからほら、クールジャパンでしょ!」ということかというと、ちょっと違う気がする。
というのは、”クールジャパン”には問題点がいま出てきていると思うのだ。
ひとつには「言葉としてどうよ」というのがある。これはこの記事が的確な指摘をしている。自分で自分のことクール=カッコいい、ってカッコ悪いじゃん、ということ。
→「ここがダサいよ、クールジャパン」渡辺由佳里氏”アメリカはいつも夢見ている”より
この記事の続き的に言うと、”クールジャパン”にはイメージがつきすぎていて、そのイメージがこれから日本のコンテンツ産業がめざすべきこととズレが生じている点もある。
クールジャパンとは、アニメでしょ、マンガでしょ、ゆるキャラでAKBできゃりーぱみゅぱみゅでしょ、そんなひとつの”世界観”ができてしまっている。オタクっぽくて、かわいくって、アキバっぽい。渡辺由佳里氏も先の記事で指摘する通り、だからって空港がゆるキャラで埋め尽くされてどうするというのだ。
いろいろ見ていくと、実は海外が日本に求めるのはもっと多様で、もっとノーマルだ。キッチュでキテレツなものばかり求めるのではない。そういう層が先行したり目立っていたが、これからは違うのだ。例えば日本のテレビ番組の”よくできた仕組み”なんかにニーズがある。番組名を聞くと「え?それ?」みたいなものを買いたいと言ってきたりしている。というのは、日本のコンテンツは歴史と厚みと技があり、カンタンに真似できないのだ。
『SASUKE』がフォーマット販売されている。よくできているからだ。『シドニアの騎士』がNetflixで世界配信されている。かわいい系でもオタク系でもない、大人にも面白いハイクオリティのアニメだ。『新婚さんいらっしゃい』がベトナムでフォーマット販売されている。司会者が椅子から転げ落ちるところまで真似してくれているのだ。
これらを”クールジャパン”ではくくれない。大人の、普通の、スタンダードの、コンテンツが、日本文化が、お金になる可能性を持ちはじめている。それは、アジアが豊かになってきたからだ。
別にクールジャパン批判がこの稿の目的ではない。新しい局面をめざす時だ、と言っている。そしていまこそ、本腰入れてやらないと、日本のコンテンツ産業は世界との接点を失いかねないと思う。あっという間に、中国文化がアジアを呑み込むかもしれない。そうなってしまうと、ぼくたちにはもう、何もできないだろう。下手をすると30年後、日本のテレビ放送は中国製のドラマだらけになる。そんな悲しい可能性だってあるのだ。動くなら、いましかないと思う。
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