【あやぶろ】テレビは視聴率以外のモノサシを手に入れられるか

この記事には【あやぶろ】というシリーズタイトルをつけている。

「あやぶろ」はもともとは、「あやとりブログ」だった。テレビ界唯一の”総研”であるTBSメディア総研の代表だった氏家夏彦氏が立ち上げたブログで、テレビを中心にしたメディア論が多彩な書き手たちによって展開されていた。氏家氏がTBSメディア総研の社長職退任にあたり、名称を「あやぶろ」に変えてリニューアルさせた。
あやぶろ(http://ayablog.com/)

ぼくは前々からあやとりブログに寄稿してきた。いちおう”寄稿”なのでオリジナル原稿をお送りしていたのだが、リニューアルを機に自分のブログと同時掲載の形にしようと思う。その第一弾記事が、以下の文章だ。
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P2215602-514x360ビデオリサーチ社がタイムシフト再生視聴についてのデータを発表した。これについては氏家さんがすでに「ついに公表された録画視聴率で遊んでみた」と題した記事をあやぶろで書いている。

このタイムシフト視聴の調査と視聴率の調査は母数がちがうのでそのまま足しても正しいデータとは言えない。そう断った上で、大まかなことを見るために遊びとして数字をいじって連ドラの視聴率とタイムシフト視聴のデータを足すと、少し前の視聴率感覚に近づく。テレビ離れと言われるが、実は録画によってリアルタイム視聴が減ってしまっているだけで、録画再生も含めればまだまだテレビは見られているのかもしれない。

アメリカではC3と呼ばれるデータがあり、放送の3日後までの視聴データの合計が広告効果の指標として受け止められている。さらに7日後まで含めるC7もある。今回のビデオリサーチ社のデータは7日後までの再生数だから、アメリカのC7を基準にしたらどうなるかを試しているのだろう。

日本でもC3やC7が正式なデータとして採用されるかどうかはこれからの議論だ。アメリカでやってるから日本でも、とは簡単にはいかないだろう。それに企業が出せる広告費には企業ごとに限界があるのだから、C7を採用したら一気に録画分が”上乗せ”になるかは微妙だ。

ただまちがいないのは、録画再生視聴の分だけその番組は多くの人に見られている。そのことに何らかの価値付けをするべきだということに異論はないのではないか。

だが、広告主の側からはこんな意見が出るかもしれない。「録画再生する時、CMは飛ばされるので広告価値は上がらない」

この点をテレビ局側は踏まえるべきだろう。録画視聴の際100%CMをスキップするわけではなく、3割程度はCMを観るらしいというデータを聞いたことがある。それはあるにしても、さらに何らかの策を考えるべきだ。

いや、すでに策は試されている。

『半沢直樹』と同じく池井戸潤原作で話題になったTBSのドラマ『ルーズヴェルト・ゲーム』。二番煎じだのイマイチだのと罵声も浴びたが筆者個人はかなり楽しんで毎週観ていた。物語が佳境に入ったある回で、かなり驚いたことがあった。あのドラマ枠は名だたる企業がスポンサードしているが、そのCMでの話。

まず、東芝が『ルーズヴェルトゲーム』の物語にふさわしい野球ネタのCMを流した。このドラマは青島製作所という地味な企業を舞台に、その経営陣と実業団の野球部の2つのレイヤーで物語が展開する。観ているうちに企業における野球部の存在がいかに大事で素晴らしいかが伝わってくる。

東芝も野球部を持っている。CMは、東芝の野球部をモチーフに、製品や企業の強みをアピールするもので、ドラマへの感動と重なってちょっとグッとくるものになっていた。やるなあ、東芝、と感じた人は多いだろう。

そしたら今度は、日本生命がさらに踏み込んだ手法のCMを流した。日生にも野球部があるのだが、ドラマの登場人物たち、具体的には野球部の監督とキャプテンが、青島製作所の対戦相手である日本生命野球部について語るのだ。これがまた、ドラマにのめり込んでいる視聴者からするとジーンと来てしまう内容で、よくできていた。

広告の新しい手法で”ブランデッドエンタテイメント”と呼ばれるものがあるが、このCMはその好例となった。細かな部分まで、よくできていたと思う。

※このCMに関するTBSのリリースはこちら
原作・池井戸潤 TBS日曜劇場『ルーズヴェルト・ゲーム』で人気急上昇中の沖原和也役の工藤阿須加と青島製作所野球部員たちがコラボCM第2弾に出演!
オリコンの記事はこちら
『ルーズヴェルト・ゲーム』コラボCM第2弾 名門野球部・日本生命と対戦!?

企業の野球部を題材にした感動的なドラマがあり、野球部を持つスポンサー企業がドラマの延長のようなCMを流して、ドラマ同様視聴者を引き込むことができた。企業イメージがグッと上がった。

さて、もしこのドラマを毎週観ている人が、たまたま見逃した回を録画視聴したとしよう。CMの時間になってもドラマの登場人物がそのまま出てきて企業のことを語りはじめたら。そこにドラマの世界観と強い関連性があったら。その人はかなりの確率でCMをスキップしないのではないか。

つまりここで言いたいのは、録画データをカウントする時代になったら、CMを番組と関係させた企画にすれば広告効果もある!と主張できるのではないか、ということだ。

もっとも、そう簡単に行くのか、という懸念はある。ドラマの登場人物がCMでも登場する例は『ルーズヴェルトゲーム』がはじめてではない。そしてこれまでの事例は正直、うまく行ってないものが多い。ドラマの世界に無理やり商品を出している印象が強く、見ている側も白けてしまうのだ。

『ルーズヴェルトゲーム』の場合は、東芝と日本生命という野球部に力を入れている企業が”たまたま”スポンサーになっていたから無理がなかった。企業のブランド資産とドラマの中身がこれほど濃く結びつくのは奇跡のような話なのかもしれない。

いや、奇跡や偶然ではなく、恣意的にこの手法を実現するやり方はある。番組の趣旨を前もって知っておき、それが企業の活動や商品の特性と接点があればその番組のCM枠を買うようにするのだ。そうすれば、番組とのコラボレーション的なCMは制作できるだろう。もちろんこれまでもある程度、スポンサーが番組の趣旨を理解し賛同するからCM枠を買うことはあった。そこに「録画視聴でも飛ばされないCMにしましょう!」とさらに強い意識でCM枠をとらえることが今後必要だということだ。

ここで振り返ると、そもそもテレビ黎明期は番組とスポンサーの関係はもっと強かった。いまも『日立 ふしぎ発見』や『ソニー THE世界遺産』などの番組に残っている。昔は『LOTTE歌のアルバム』や『花王名人劇場』など企業名が冠につく番組は多かったのだ。テレビ黎明期はスポンサーとテレビ局が一緒に番組を育てようとの共生意識があったのだ。

録画の時代になってテレビはもう一度、そこに戻るのかもしれない。

さてビデオリサーチ社は、この録画視聴とはまた別に、Twitter TV視聴のデータも調査していくとずいぶん前に発表している。視聴率というテレビの指標の王道を守る立場のはずのビデオリサーチ社が視聴率以外のデータに取り組んでいるのは一見不思議かもしれない。だが、そこには大いなる問題提議を視聴率の会社自らがしている意志があるようだ。「”視聴率だけ”でいいのだろうか?」テレビ界のど真ん中から発せられたこの問題提議にぼくたちは耳を傾けるべきだろう。

そこにはまだ結論はない。だが少なくとも、視聴率以外の物差しを持つべきだ、という答えはいまや誰もが賛同するところだろう。試行錯誤を重ねて、答えを見つけるべき時がやって来ている。

コピーライター/メディアコンサルタント
境 治
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